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No.0202 小説・詩歌 『往復書簡』 湊かなえ著(幻冬舎)
2010.11.02
『告白』、『夜行観覧車』など、著者の筆力にはただならぬ才能を感じます。本書も、また両作品に負けない極上のエンターテインメントでした。
手紙文学の最高傑作
本書は、書簡のみで綴られた連作ミステリです。3つの作品が収められています。
「十年後の卒業文集」では、高校卒業以来10年ぶりに放送部の同級生が集まりますが、4人の女子のうち1人だけ欠けていました。
「二十年後の宿題」では、定年を迎える小学校の女教師と教え子だった男性が手紙のやり取りをします。その男性自身も現在は教師になっていました。
「十五年後の補習」では、小学校の同級生である男女の文通が描かれています。2人は愛し合っていますが、男性は遠い海外へボランティアで行っていました。
もう、これ以上のストーリーは書きません。すべてドンデン返しの連続です。何を書いても「ネタバレ」になる恐れがあります。
3つの作品すべてに、ある事故や事件が関わっています。それらは、いずれも人間の善悪を問うような深刻な事故であり、事件です。そして、その真実は、けっして単純ではなく複雑なものです。その複雑な真実を複数の人物の視点から浮かび上らせてゆくのです。
本書の帯には、次の見事なコピーが書かれています。
「手紙だからつける嘘。手紙だから許せる罪。手紙だからできる告白。―『あのこと』の真相が、封筒から零れ出す」
そう、芥川龍之介の『藪の中』を連想させるような、『告白』『夜行観覧車』から一貫して流れているテーマが、本書でもしっかり描かれているのです。その意味で、今や湊かなえファンになっているわたしにとって、本書を読めたことは嬉しい経験でした。
しかし、その一方で、本書の刊行は悲しいというか残念でもありました。というのも、『告白』、『夜行観覧車』の2冊は双葉社から出版されていますが、本書は幻冬舎から出版されているからです。
言うまでもなく、双葉社は『葬式は必要!』の版元であり、幻冬舎は『葬式は、要らない』の版元です。みなさん、わたしの嘆きがおわかりになりますよね。 湊かなえよ、あなたもか!(泣笑)
でも、掛け値なしに本書は面白かったです。「手紙文学の最高傑作」と呼んでもいいとさえ思います。これからの著者の活躍に大いに期待しています。