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No.0185 論語・儒教 『修己治人の書『論語』に学ぶ「人に長たる者」の人間学』 伊與田覺著(致知出版社)
2010.09.29
『「人に長たる者」の人間学』伊與田覺著(致知出版社)を読みました。「修己治人の書『論語』に学ぶ」というサブタイトルがついています。
著者は、近代日本を代表する陽明学者として知られる安岡正篤の高弟であり、7歳から80年以上ものあいだ『論語』を学び続けた人です。本書は、その著者の『論語』についての講義を集大成したものです。
本書には、全部で12の講義が収録されています。その内容も「成人と人間学」「小人の学」「大人の学」「人間の天命」「人間の真価」「恥と日本人」「弘毅と重遠」「君子とは何か」「道理のままに生きる」「中庸の道を往く」「孤独と不安」「『論語』と現代」といったように、題名を聞いただけでも背筋が伸びるようなものばかりです。
講師である著者も、90歳を超える高齢にもかかわらず、約3時間を立ったまま背筋をピンと伸ばして、粛々と話すそうです。聖賢の学を究めた人独特の風格が、その講義内容にも漂っています。
本書の「あとがき」で致知出版社社長の藤尾秀昭氏が述べていますが、学問には4つの段階があるといいます。すなわち、「修学」「蔵学」「息学」「遊学」です。
もっぱら修め、蓄積するのが先の2段階。そこを過ぎると、学ぶことが呼吸するのと同じように自然なものになるといいます。そして、ついには学びが自己と一体化するのだ。完熟した著者の学問は、その領域に入っていると藤尾氏はいうのです。
わたしは、「人は老いるほど豊かになる」と信じています。著者は、聖人として仰ぐ孔子よりも師である安岡正篤よりも長く生を恵まれることによって、前人未到の思想的領域に立った感さえあります。豊かな人生を生きる達人の言葉を前に、若輩はただ頭を垂れるばかりです。
「人間学」は、わたしにとってもキーワードです。凶悪犯罪などを見るにつけ、人間の本性とは何なのかと考えてしまいます。
古代中国において、孔子の流れをくむ孟子は人間の本性を善なるものとする「性善説」を唱え、荀子は「性悪説」を唱えました。わたしは、人間の本性は善でもあり、悪でもあると考えます。来るべき「心の社会」においては、人間の持つ善も悪もそれぞれ巨大に増幅され、その姿を現すでしょう。
ブッダやイエスのごとき存在も、ヒトラーやスターリンのような存在も、さらなるスケールの大きさをもって出現してくる土壌が「心の社会」にはあるのです。「心の社会」は、ハートフル・ソサエティにもハートレス・ソサエティにもなりうるのです。
では、これからの社会をハートフル・ソサエティ、つまり「心ゆたかな社会」にするためには、わたしたちは何をすべきか。ずばり、「人間学」を学ばなければなりません。
かつて、わたしは人間学を学ぶためのブックガイドを書きました。『面白いぞ人間学』(致知出版社)という本です。この中には、本書も紹介されています。人間学に興味のある方は、ぜひお読み下さい。
人生の糧になる101冊の本