- 書庫A
- 書庫B
- 書庫C
- 書庫D
No.0166 経済・経営 『マネジメント』 ピーター・ドラッカー著、上田惇生訳(ダイヤモンド社)
2010.09.08
『マネジメント(エッセンシャル版)』ピーター・ドラッカー著、上田惇生訳(ダイヤモンド社)を再読しました。
大著『マネジメント―課題、責任、実践』の抄録を訳し直した本です。
基本と原則
本書は、いま、非常に注目されている本です。昨年はドラッカー生誕100周年でしたが、なんだかそのフィーバーが1年遅れで来たような印象ですね。
その最大の理由とは、言うまでもなく、岩崎夏海著『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(ダイヤモンド社)、いわゆる『もしドラ』が異例の大ベストセラーになったことです。
もともと「マネジメント」という考え方は、ドラッカーが発明したものとされています。「マネジメント」という英語は「管理」と訳されることが多いようですが、これは間違っています。マネジメントは単なる管理ではありません。
では、ドラッカーが発明したマネジメントとは何なのでしょうか。
ドラッカーは、「マネジメントとは、成果に対する責任に由来する客観的な機能である」と明確に定義しています。そして、マネジメントには自らの組織をして社会に貢献させる上での役割として、次の3つをあげています。(以下、9ページより引用)
①自らの組織に特有の使命を果たす。マネジメントは、組織に特有の使命、すなわちそれぞれの目的を果たすために存在する。
②仕事を通じて働く人たちを生かす。現代社会においては、組織こそ、一人ひとりの人間にとって、生計の資(かて)、社会的な地位、コミュニティとの絆を手にし、自己実現を図る手段である。当然、働く人を生かすことが重要な意味を持つ。
③自らが社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題について貢献する。マネジメントには、自らの組織が社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題の解決に貢献する役割がある。
またドラッカーは、第4の役割として「時間」をあげます。時間こそは、マネジメントのあらゆる問題、決定、行動に介在する複雑な要素です。マネジメントは、常に現在と未来、短期と長期を見ていかなければならないとして、ドラッカーは次のように述べます。
「存続と健全さを犠牲にして、目先の利益を手にすることに価値はない。逆に、壮大な未来を手にしようとして危機を招くことは無責任である。今日では、短期的な経済上の意思決定が環境や資源に与える長期的な影響にも考慮しなければならない」
さらにドラッカーは、マネジメントの役割はもう一つあるとして、次のように述べます。
「マネジメントは管理する。すでに存在し、すでに知られているものを管理する。同時に、マネジメントは起業家とならなければならない。成果の小さな分野、縮小しつつある分野から、成果の大きな分野、しかも増大する分野へと資源を向けなければならない。そのために昨日を捨て、すでに存在しているもの、知られているものを陳腐化しなければならない。明日を創造しなければならない」
本書の終わりにある付章「マネジメントのパラダイムが変わった」においても、ドラッカーはマネジメントの役割について次のように述べています。
「マネジメントの役割は成果をあげることにある。これこそ実際に取り組んでみれば明らかなように、もっとも難しく、もっとも重要な仕事である。まさに組織の外部に成果を生み出すために資源を組織化することこそ、マネジメントに特有の機能である」
ここには、ドラッカーの最大のキーワードの一つである「成果」という言葉が出てきます。マネジメントとは机上の空論ではなく、経済的な業績、学生の教育、患者の治療など、自らの組織が目的とする成果をもたらす実践そのものなのです。ドラッカーは、続けてこう言います。
「今日の社会、経済、コミュニティの中心は、技術でも、情報でも、生産性でもないということである。それは、成果をあげるための社会的機関としての組織である。この組織に成果をあげさせるための道具、機能、機関がマネジメントである」
最後にドラッカーは、もう一つ前提とすべきパラダイムがあるとして、マネジメントの責任に言及して、次のように喝破します。
「マネジメントが責任を負うものは、成果と仕事に関わることすべてである」
本書には、「人こそ最大の資産」というドラッカー思考の核心が出てきます。「組織の違いは人の働きだけである」との考えをもつドラッカーは、次のように述べます。
「人のマネジメントとは、人の強みを発揮させることである。人は弱い。悲しいほどに弱い。問題を起こす。手続きや雑用を必要とする。人とは、費用であり、脅威である。しかし人は、これらのことのゆえに雇われるのではない。人が雇われるのは、強みのゆえであり能力のゆえである。組織の目的は、人の強みを生産に結びつけ、人の弱みを中和することにある」
わたしは数多くのドラッカー思考に大きな影響を受けてきましたが、最も影響を受けたものは、「従業員とはコストではなく、資産である」という考えでした。これこそ、ドラッカーの人本主義、すなわち「人間尊重」思想の真髄だと思います。
マネジメントとは、人に関わるものです。その機能は、人が共同して「成果」をあげることを可能とし、「強み」を発揮させ、「弱み」を無意味なものにすることです。これこそが、組織の目的なのです。
また、マネジメントとは、ニーズと機会の変化に応じて、組織とそこに働く者を「成長」させるべきものです。組織はすべて「学習」と「教育」の機関です。あらゆる階層において、「自己啓発」と「訓練」と「啓発」の仕組みを確立しなければなりません。このように、マネジメントとは一般に誤解されているような単なる管理手法などではなく、徹底的に人間に関わってゆく人間臭い営みなのです。
にもかかわらず、わが国のビジネス・シーンには、ナレッジ・マネジメントからデータ・マネジメント、はてはミッション・マネジメントまで、ありとあらゆるマネジメント手法がこれまで百花繚乱のごとく登場してきました。その多くは、ハーバード・ビジネス・スクールに代表されるアメリカ発のグローバルな手法です。もちろん、そういった手法には一定の効果はあるにせよ、日本の組織では、いわゆるハーバード・システムやシステム・アナリシス式の人間管理は、なかなか根付かないのもまた事実だと思います。
情緒的部分が多分に残っているために、露骨に「おまえを管理しているぞ」ということを技術化されれば、される方には大きな抵抗があるのでしょう。日本では、まだまだ「人生意気に感ずるビジネスマン」が多いのです。仕事と同時に「あの人の下で仕事をしてみたい」と思うビジネスマンが多く存在します。
そして、そう思わせるのは、やはり経営者や上司の人徳であり、人望であり、人間的魅力です。会社にしろ、学校にしろ、病院にしろ、NPOにしろ、すべての組織とは、結局、人間の集まりに他なりません。人を動かすことが、経営の本質なのです。
『エッセンシャル版 マネジメント』を久々に読み返して、そのことを再確認しました。