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No.0164 経済・経営 『ポスト資本主義社会』 上田惇生+佐々木実智男+田代正美訳(ダイヤモンド社)
2010.09.06
『ポスト資本主義社会』上田惇生+佐々木実智男+田代正美訳(ダイヤモンド社)を再読しました。
1993年に日米で刊行された本です。
21世紀の組織と人間はどう変わるか
本書は、「21世紀の組織と人間はどう変わるか」をサブタイトルとしています。
『断絶の時代』がはじめて明らかにしてきた潮流は、われわれが生きている先進国においては、すでに支配的な現実となっています。すなわち、同書は分析であり、描写であり、診断だったとドラッカーは述べます。しかし本書は、行動への呼びかけです。
ドラッカーの遺作にして最高傑作である『ネクスト・ソサエティ』という名著があります。拙著『ハートフル・ソサエティ』で、同書の持つ重要性については詳しく書きました。本書『ポスト資本主義社会』は、同書の先駆けとなる書物だと言えるでしょう。
ドラッカーは、本書の「日本語版への序文」で次のように述べます。
「日本を今日のような経済大国に導いた経済と産業の力は、まさに工業化時代において行なうべきことを、優れた規律と一貫性と卓越性のもとに行なった結果、手にすることができたものである」
それゆえに、「新しい時代、すなわちポスト工業化の時代、ポスト社会主義の時代、ポスト資本主義の時代が要求するものは、とくに日本に対して厳しいものとなる」とドラッカーは予測します。
わたしたち日本人は、きわめて多くの分野において、すなわち事業活動、経済、企業組織、労働、情報、政治、政治体制、教育などのきわめて多くの分野において、まったく新たに考え直さなければならなくなっていると、ドラッカーは述べます。しかし、日本人の将来に対して悲観的ではないというドラッカーは、次のように述べます。
「私が日本の歴史、芸術、文化から長い年月をかけて知ったことがあるとするならば、それは、日本人とくに日本のリーダーには、新しい時代の要求に正面から立ち向かい、困難な決定を行なう特別の能力があるということである」
これは、親日家であったドラッカーから日本人への大いなるエールです。
本書の序章「歴史の転換期」は、「西洋の歴史では、数百年に一度、際立った転換が行なわれる」というドラッカーの名言から始まっています。世界は、「歴史の境界」を越えるのです。そして社会は、数十年をかけて、次の新しい時代のために身繕いします。世界観を変え、価値観を変える。社会構造を変え、政治構造を変えます。技術や芸術を変え、機関を変えます。やがて五〇年後には、新しい世界が生まれるのです。
たとえば、1455年のグーテンベルクによる植字印刷や印刷本の発明の約半世紀後にはルターによる宗教改革が起こりました。また、1776年にアメリカが独立し、ジェームズ・ワットが蒸気機関を完成し、アダム・スミスが『国富論』を書いた半世紀後、何が起こったか。すなわち、産業革命が起こり、資本主義と共産主義が現れたのです。このように、偉大なイノベーションの約50年後に社会が変化するという考え方を、わたしは「ドラッカーの法則」と呼んでいます。
18世紀後半以降の250年間、資本主義が社会の支配的な現実でした。そして最近の100年間、マルクス主義が社会の支配的なイデオロギーでした。
しかし今、資本主義とマルクス主義のいずれもが、急速に、きわめて異質な新しい社会にとって代わられつつあります。その新しい社会、すでに到来しているその社会こそ、ポスト資本主義社会だというのです。ドラッカーによれば、ポスト資本主義社会とは「知識社会」でもあります。
現実に支配力をもつ資源、あるいは最終決定を下しうる「生産要素」とは何か。ポスト資本主義社会におけるそれは、資本でも、土地でも、労働でもありません。ドラッカーは、それを「知識」だと断言します。そして、次のように述べます。
「ポスト資本主義社会における支配的な諸階級は、資本家やプロレタリアに代わって、『知識労働者』と『サービス労働者』である」
このポスト資本主義社会では、経済活動を調整する実験済みのメカニズムとして自由市場が使用されます。ポスト資本主義社会は、「反資本主義社会」でも「非資本主義社会」でもないのです。
資本主義の主要機関は生き残ると、ドラッカーは予測します。銀行をはじめとするいくつかの機関も、これまでとは異なる役割を担うようになるかもしれませんが、とりあえずは生き残ると見ます。しかし、資本主義が老化していくことは誰にも止められません。ドラッカーは、次のように述べます。
「ポスト資本主義社会においては、社会の重心、社会の構造、社会の力学、そして社会の階層、社会の問題は、過去250年間を支配し、政党、社会勢力、社会的価値観、個人的コミットメント、政治的コミットメントを形成してきたものとは異なったものとなる」
また本書では私兵の復活としてのテロの脅威への対処が訴えられていますが、無視されました。その後、ドラッカーの不安は2001年9月11日に現実のものとなりました。本書の「訳者あとがき」には次の一言が書かれています。
「読まなければ損をする本というものがある。本書はまさにそのような本である」
まだ読まれていない方は、ぜひ、お読み下さい。