No.0124 哲学・思想・科学 『オスカー・ワイルドに学ぶ人生の教訓』 グレース宮田著(サンマーク出版)

2010.07.30

オスカー・ワイルドに学ぶ人生の教訓』グレース宮田著(サンマーク出版)を読みました。

19世紀末のイギリスにおいて活躍した作家オスカー・ワイルドの作品中に出てくる数々の言葉を紹介する本です。

誘惑には負けろ。優しさは疑え。

ワイルドといえば、戯曲『サロメ』や小説『ドリアン・グレイの肖像』、それに童話『幸福の王子』などで知られ、わたしの好む幻想文学の歴史に名を残す人物です。ワイルドの耽美的で退廃的な作風は、世界中の多くの作家に影響を与えました。日本でも、森鷗外、夏目漱石、芥川龍之介、谷崎潤一郎などの文豪たちが影響を受けたとされています。

本書の「はじめに」で、著者はワイルドについて次のように述べています。

「中産階級出身。同性愛者、外国人というハンディを背負いながらも、保守的な風潮が色濃く残る十九世紀末の英国ヴィクトリア朝の社交界において、独自の世界を確立した、売れっ子作家です。最終的には当時の非人道的とも思える法律により裁かれ、男色の罪で牢獄に入ることになってしまいましたが、人間の本質を鋭く洞察したオスカー・ワイルドの作品群は、時を経たいまなお、多くの人に読まれ、『一部の人』には熱狂的に支持され、ますます輝きを増しています」

しかし、彼の幻想的な耽美文学を楽しむならいざ知らず、男色に溺れ、人々に懐疑の目を向け続けたとされるワイルドの言葉から何を学ぼうというのでしょうか。著者は、次のように述べています。

「オスカー・ワイルドは『個』がいかに生きるか、ということに対して、多くを教えてくれる天才です。いわゆる『常識』にとらわれないワイルドの言葉に触れると、自分は自分でいいんだ、みんなと違う感じ方でもいいんだと、生きる勇気が湧いてくることでしょう」

ということで、本書のページを繰ってみると、さまざまなワイルドの言葉が紹介されていますが、正直言ってどうもわたしにはピンとこないものが多かったです。というより、「えっ、それは違うんじゃないの?」とツッコミを入れたくなるものがたくさんありました。たとえば、次のような言葉などです。

「僕はいつも自分のことを考えていて、他の人も、同じように考えることを望んでいるのだ。それが、思いやりというもの」

「浅はかな人間だけが、己を知っている」

「ちょっとだけ誠実であることは危険なことで、とても誠実であるということは、致命的である」

「醜い人たちと愚かな人たちが、この世で一番幸せな思いをしている」

「どうでもいい人には、つねに優しくできるものである」

「その女を愛してさえいなければ、男はどんな女といても幸せなのだ」

「男は年寄りにはなるが、善人には決してならない」

「最近の若者はお金がすべてだと思っているね、年をとってそのことがわかるわけだが」

さらに、以下のようなアンモラルな言葉は、ピンとこないどころか、わたしは完全に間違っていると思います。

「時間厳守は時間泥棒」
(相手との約束時間を守ると、自分の時間が損なわれるという意味)

「待ってもらっていることをわかっていて行かないというのは、いつもいいものだね」
(待ち合わせに遅れたくらいで怒るような人間とは縁を切ったほうがいいという意味)

「モラルを説くような男は往々にして偽善者で、女の場合は例外なく不美人である」
おそらく、ワイルドという人はとても偽悪的な人だったのでしょう。それにしても、随分な言い草ですよね。

でも、以下の3つの言葉のように、中にはわたしにも納得できたものもありました。

「友人の苦しみに共感するのは誰でもできるが、成功に共感するには、きわめて優れた資質を必要とする」

「噂されるよりひどいことは一つだけ、それは噂されないこと」

「他の人に拾われるという不安さえなければ、喜んで捨てられるものはたくさんある」

思うに、ワイルドの言葉は世間の常識を徹底的に疑うものですが、やはり社会性というものはゼロです。文学的な価値はともかく、このような社会性のない言葉から人生を学ぶ、ましてや人間関係を学ぶなど、的外れもいいところだと思いました。

本質的にワイルドは谷崎潤一郎のように猛毒を秘めた作家であり、それがゆえに魅力があるのです。下手にワイルドの言葉を「薬」にしようなどとせず、その「毒」をとことん楽しめばよいのです。

なお、ワイルドといえば次のような言葉が有名です。

「男は人生を早く知りすぎるし、女は遅く知りすぎる」

「男は愛する女の最初の男になる事を願い、女は愛する男の最後の女になる事を願う」

「不平は人間にとっても、国家にとっても進歩の第一段階である」

「人間は不可能を信ずる事が出来るが、ありそうもない事を決して信ずることは出来ない」

これらの言葉には、わたしも深く共感しています。なかなかの名言だと思いますが、なぜか本書には収録されていませんでした。

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