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No.0098 国家・政治 『なぜ、デンマーク人は幸福な国をつくることに成功したのか』 ケンジ・ステファン・スズキ著(合同出版)
2010.06.24
『なぜ、デンマーク人は幸福な国をつくることに成功したのか どうして、日本では人が大切にされるシステムをつくれないのか』ケンジ・ステファン・スズキ著(合同出版)を読みました。
いやぁ、おそろしく長いタイトルですね。(笑)著者はS.R.Aデンマーク、[風の学校]の代表で、日本とデンマークを往復しながら、さまざまな事業を手掛けるほか、講演活動などを積極的に行っている方です。
デンマークを通して、日本社会を見つめ直す
ワールドカップの勝敗はまだわかりませんが、本書の内容では、日本は完全にデンマークに負けています。本書で、わたしが最初に興味を抱いたのはデンマーク人の愛国心の強さです。
デンマークで愛国心の世論調査をすると、80%以上の人々が「自分の国を愛している」と答えるそうです。独裁国家や、独立したての若い国ならともかく、デンマークのように長い歴史を持つ国で、こんなにも国を愛する人が多いとは驚きです。著者は次のように述べています。
「もし、国家への愛情のあり方についてデンマーク人と日本人の間に大きな違いがあるとすれば、デンマーク人は[自国を愛するがために]高額な納税をし、国を守るために徴兵制度を導入し、中学生や高校生から政党活動・政治活動に参加しているのに対し、日本では『自分の国を愛している』と答える人でも、国家を維持するために必要な施策に自ら進んで参加する人は少なく、国家の基本方針を決める国政選挙でも極端に低い投票率しかありません」
デンマーク人は非常に国政への関心が高く、それは若者でも例外ではないそうです。なにしろデンマークには、15歳頃から政党に加盟する子どもたちがいるというのです。その背景には、デンマークの歴史教育があります。
デンマークの教育で最も重視されている科目は歴史です。歴史教育の中から、自分が生れた国の生い立ちを知ることによって、現在に至る国家育成の過程を知るのです。そして、その過程の中から国家を受け継ぐ次世代として何をすべきかを若者たちが考えるわけです。国を愛する心が強ければ、国旗にも愛着が生れます。
著者がデンマークに入国して驚いたことの1つが、デンマーク人の国旗を掲揚する習慣でした。住宅にも農家にも、たいていは国旗を掲げる旗ざおがあります。そして、祝祭日はもちろん、家族の誕生日や結婚記念日などにも国旗を掲げるというのです。どうやら、このあたりに「世界一幸福な国」の秘密がありそうですね。誕生日や結婚記念日を祝う心があれば、それは自然と幸福につながるはずですから。「ワールドカップ」での国旗掲揚の際、デンマーク人選手および日本人選手の態度をよく観察したいと思います。
愛国心が強いからといって、デンマーク人はけっして排他的ではありません。もう一つ、デンマーク人には強い心があります。隣人愛です。
著者がデンマークで暮らしていると、『聖書』の言葉に基づく行動によく出遭うそうです。それは、「ヤコブの手紙」2章8節の「自分を愛するように、あなたの隣人を愛せよ」、あるいは「マタイによる福音書」19章21節「もしあなたが完全になりたいと思うなら、帰ってあなたの持ち物を売り払い、貧しい人びとに施しなさい」といった言葉です。
キリスト教の神の前では、すべての人は平等です。そのため、金持ちも貧困者も社会福祉の恩恵を受けることにおいて差別されません。たとえば、デンマークの地方自治体によって管理運営されている「介護センター」では、豊かな人も貧しい人も同じ施設で同じサービスを受けることができるそうです。持っているお金の多さによって提供される「福祉サービス」が違うというシステムは、デンマークでは非常識な考え方なのです。
「どうして、日本では人が大切にされるシステムをつくれないのか?」
この問題を、すべての日本人は考えてみる必要があるでしょう。