No.2351 コミュニケーション 『リーダーの気くばり』 柴田励司著(クロスメディア・パブリッシング)

2024.09.05

『リーダーの気くばり』柴田励司著(クロスメディア・パブリッシング)を読みました。著者は、上智大学文学部英文学科卒業後、京王プラザホテルに入社。同社在籍中に、在オランダ大使館に出向。その後、京王プラザホテルに戻り、人事改革に取り組む。1995年、マーサージャパンに入社。同社取締役を経て、2000年に38歳で日本法人代表取締役社長に就任。2007年に同社社長職を退き、キャッドセンター代表取締役社長に就任し、経営破綻していた同社を1年半でV字回復・黒字に転換。その後、カルチュア・コンビニエンス・クラブ代表取締役COO、パス株式会社CEOを歴任、現在に至ります。

本書の帯

本書の帯には、「一流は上司、部下、同僚、顧客、そして自分と家族を大切にする」「リーダーシップの99%は気くばりである」と書かれています。カバー前袖には、「人が集まってくる、その人間的な魅力には秘訣がありました。それは『気くばりです。その人と一緒にいてストレスがありません。それだけではありません。自分の可能性を高めてもらえます。自分の時間、お金、信用が奪われることはもちろんありません。(「はじめに」より)』と書かれています。帯の裏には、「優れたリーダーは、『あの人と一緒に働きたい!』と思われている」とあります。

本書の帯の裏

アマゾンの「出版社より」には、「『俺について来い』はもう古い! 新しいリーダーに必要な『気くばり』のスキルを凝縮した一冊!」として、「いま、優れたリーダーとして慕われる最大の要素とは『気くばり』です。本書は、部下・上司・顧客だけでなく、家族や自分など、あらゆる人への『気くばりのコツ』を一冊にまとめました」とあります。また「常に慕われる人は、どこが違うのか?」として、「AIと仕事をする時代には、これまで以上に『人間ならではの魅力』が問われるようになります。著者の柴田励司さんは、これまで多くの会社で、さまざまなリーダーの姿を見てきました。現役時代だけでなく、現役を離れても、変わらず人が集まってくるリーダーたちの人間的魅力の源泉は、いったい何なのか? 彼らを分析してわかったその秘訣とは、『気くばり』だったのです。

アマゾンより

また、アマゾン「出版社より」には、「これまで、ビジネスは上意下達。上司が決めたことを部下が実行していれば成果は出ていました。ところが、今は顧客ニーズが複雑化した影響で、『顧客との接点に近い現場のメンバー』が細かいニーズを吸い上げなければ成果が出なくなっています。つまり、現代のリーダーは、現場のメンバーが最高の環境で働くことができるように『気くばり』するのが仕事なのです。『俺について来い!』と仕事一徹だった昭和のリーダーから脱却し、家族や自分を大切にしながら職場でも慕われる令和のリーダーになる秘訣が満載の本書。ぜひ、あなたの仕事にも活かしてください」と書かれています。

アマゾンより

本書の「目次」は、以下の構成になっています。
「はじめに」
CHAPTER1
マネジメントは気くばりである
CHAPTER2
気くばりに必要なスキル
CHAPTER3
人との関わり方の基本
CHAPTER4
身近な気くばり54

家族編
部下編
上司編
同僚編
顧客・取引先編
自分編

「おわりに」

「はじめに」の冒頭を、著者はこう書きだしています。
「AIと仕事をする時代になりました。“そういう未来がくる”と10年前に語っていたことが現実となったのです。事業のあり方、仕事の進め方に革命的な変化が生じるでしょう。まず、優秀な人材の定義が変わります。情報処理力や問題解決力ではなく、問いをつくる力、課題構想力が求められるようになります。当然ながらリーダーに求められる要件も変わってきます。従来以上に人間ならではの魅力が問われるようになるはずです」

優れたリーダーは、「あの人と一緒に働きたい!」と思われているといいます。これこそ優れたリーダーの秘訣だったのです。仕事ができることはもちろんですが、それだけではありません。周囲の人たちに「あの人は自分のことをわかってくれる」と思わせる人間性が評価されていたのです。著者は、「人が集まってくる、その人間的な魅力には秘訣がありました。それは『気くばり』です」と述べています。

さらに、著者は「その人と一緒にいてストレスがありません。それだけではありません。自分の可能性を高めてもらえます。自分の時間、お金、信用が奪われることはもちろんありません。自分のことを大事にしてくれている感じがします。何か見返りを求めた気くばりでもありません。無理もしていません。きわめて自然な気くばりです。おそらく、喜んでもらえるのが単純にうれしいのでしょう。喜んでもらうための気くばり。それが『この人と一緒にいたい!』と思わせる魅力なのです」と述べるのでした。

CHAPTER1「マネジメントは気くばりである」の「遠心力型のマネジメントの時代」では、マネジメントのスタイルには大きく分けて2つあるといいます。求心力型と遠心力型です。求心力型は、上から下への指示命令、上が自分のやってもらいたいこと、指示したことを部下に実行してもらうマネジメントです。長らくこのスタイルが主流でした。遠心力型は、顧客との接点に最も近い人たちが、思う存分仕事ができるように環境を整えていくマネジメントです。著者は、「これからは遠心力型が主流となるでしょう」と述べます。

「相手に感度を合わせる」では、「実際に意識的に気くばりをするとはどういうことなのでしょうか?」と読者に問いかけた後、著者は「目の前にいる人がどういう感情でいるのか、を推し量る。これに尽きると思います。相手が何をしたいと思っているのか? どう感じているのか? 相手の感覚に自分の感度を合わせます。AIが苦手とする共感そのものです」と述べています。

「営業は気くばり」では、お店は「売り場」ではなく「買い場」であるべきだといいます。売ろう、売ろうと思えば思うほど、相手の買う気持ちは萎えていきます。そうではなく相手が買いたくなるような環境をつくるという著者は、「買い手からすると売り場ではなく買い場のほうがいいに決まっています。『絶対売ろう』『利益をあげてやろう』と自分に見返りを期待する行為をしていると、長い付き合いや大きな付き合いはできないと思っています「相手がどういう心境や感情でいるかをよく理解し、その感情の背景となっている経済的理由、諸事情を含めたすべてを知ったうえで提案する。それが相手やお客さまの何をどう解決してあげられるのか気くばりするということです。これが営業の仕事です」と述べます。

「気くばりは想像力」では、仕事上では、「やっておきました」と言える人が素晴らしいホスピタリティの持ち主であるといいます。もちろん口だけでそう言える人ではなく、仕事をきちんとやっておいてくれる人のことです。著者は、「私の周りにもこれがよくできる人がいます。何か仕事をお願いしようとすると、『それやっておきました』。頼もうとする仕事がもう終わっています。私が次にこれをお願いする、期待することをわかっていて、やってくれています。その想像力が素晴らしいです」と述べています。

「気くばりができるメカニズム」では、気くばりとは、相手から何かを得ようとか、何かを取ろうとか、売り上げを上げようとか、評価されようとか、そういうことではないといいます。大事にしなくてはいけないことは、相手が置かれている状況、感情、心境に自分の意識のチャネルを合わせることであると指摘し、著者は「チャネルを合わせることで、自然とその人が次に何を望んでいるかがわかります。そして、いまやるべきことかそうでないことか考えて、いまやるべきことだなと思ったら、それを瞬時に実行する。これが気くばりのメカニズムです。『瞬時』というのがポイントです」と述べます。

「リーダーはプロデュース力」では、もともとリーダーになるような人、特に早期にリーダーに選抜された人は優秀であり、その優秀さを評価されてその地位に就いているわけですから、自分の優秀さを出すことに慣れていると指摘した後、著者は「ここに落とし穴があります。こういう人は知らず知らずのうちに評価されやすい行動をし続けてしまいます。そうすると周りの人、メンバーにはずっとスポットライトが当たらないことになります。優秀なリーダーの日蔭になります」と述べています。

さらに、著者は「リーダーになる人は、周りの人はすでにあなたの優秀さをわかっているのですから、あえてそれを出そうとせず、メンバーにスポットライトが当たるようにしてみましょう。『自分に光が当たり続けると、自分の周囲で光輪は終わりです。周りのメンバーに光を当てるとそれだけ光輪が大きくなります。そのほうが遠くから見た場合、より大きな光を発しているように見えますから、よりレベルの高いことをしているように見えますよ』と、目立ち過ぎるリーダーには話すようにしています」と述べるのでした。

CHAPTER2「気くばりに必要なスキル」の「環境を好転させる『感謝』の気持ち」では、著者は、「人生の中であなたの身の回りでは、いろんなことが起きます。いいこともあれば、悪いこともあります。それらをいかに自分にとって意味があるように考えられるか。これが人生を好転させるキッカケになります」と述べます。たとえば、仕事が重なってとても忙しいとき、それを愚痴ることなく自分自身の修行だと思うことが大事だといいます。いまの自分にとって必要な環境が与えられているのだと考えるのです。つらい環境も今後の自分の成長のため、周りの人のため、と思うようにしていくといいます。

CHAPTER4「身近な気くばり54」の「家族編」の02「弛む場所を考える」では、リーダーは素でやるものではないといいます。その場で求められている姿をイメージし、それに近づくべく努力するとして、著者は「これは私のリーダー論です。家においても同じだと思います。家の中で期待される姿があるはずなので、それをイメージして近づくべく頑張るのです。家も本番の舞台です。『外で働いているんだから、家では好き放題にしていい』。これこそ、化石化した昭和の発想です。私は、そうではないと思います」と述べています。

05「積極的に『ありがとう』を言う」では、「ありがとう」のほか、夫婦関係を劇的によくする「さ・し・す・せ・そ」というものが紹介されます。それは、以下の通りです。
「さすが」
「しらなかった」
「すごい」
「センスがいい」
「そうなんだ」

「部下編」の12「部下の陰口を放置しない」では、本人がいないところでは散々悪口を言うのに、面と向かって悪口を言うことはないものが多いといいます。悪口を言うどころか、むしろ、きわめて好意的に接していることが多いように思うとして、著者は「悪口を言っている本人は、相手に気づかれていないと思っていますが、多くの場合、本人に伝わっています。ご注進を聞いた上司はどうするか。悪口を言われた上司の度量が大きければ大きいほど、表面的な態度は何も変えません。態度は変えずとも、その人に大事な仕事を任せなくなります。相談もしなくなります。徐々に距離を置き、いずれ絶縁です」と述べます。

14「部下に声をかけて感心を示す」では、著者は、そもそも「部下」という言葉は好きではないといいます。上とか下とかという関係性に依存しているので、そこには相互の甘えが生まれるというのです。上司も部下も「同僚」であるという著者は、「たとえば、新人が入ってきたとき、世の中的には確実に部下なわけですが、そうではなく『経験の不足した同僚』と捉えます。組織としては、上司としては、その新人の経験が不足しないようにしていくのがいいですし、快適な環境で働いてくれるほうが上司である自分にとってもいいわけです。ですから、何か困っているようなこと、心配そうなことを見かけたら、『どうした?』『大丈夫か?』と声をかけてあげるのです。そのチームがうまくまわっているかというのは、その中でいかにコミュニケーションがとれているかということです」と述べています。

33「教育で部下の成長をあと押しする」では、人を育成するときに大事なことは、「飢餓感」と「屈辱感」だといいます。まず「飢餓感」というのは、お腹がすいている状態にするということ。部下自身に、「すごく学びたい」という意識がないと、結局やっつけ仕事になってしまいます。それでは全然身につかないので、そこは無理せず段階を踏ませます。一方の「屈辱感」というのは主に優秀な人の場合です。自分ができると思ったことが全然できなかったとき、「くそー」となりますが、逆にその屈辱感がそのあとに伸びる力になるといいます。

「顧客・取引先編」の44「食事は『人に良いこと』」では、「食事」という文字は、「人に良いこと」と書くと指摘し、著者は「一緒に食事をしたり、盃を交わすのはとってもいいことだと思います。腹を割った関係性をつくる第一歩になります」と述べます。また、会食の設営は気くばりそのものであり、これは相手が誰であろうと同じだといいます。苦手な食材やアレルギーは何か。その人にとってアクセスがいい場所か。また、純粋に食事を楽しむのがよいか、食事プラスアルファのエンターテインメントを用意したほうがよいか。これらについて考えなければなりません。

最後に「自分編」の54「思いついたらすぐに行動する」では、「もし今日が自分の人生最後の日だとしたら、今日やる予定のことを私は本当にやりたいだろうか?」という有名なスティーブ・ジョブズのスタンフォード大学の卒業祝賀スピーチの言葉が紹介されます。著者は、「ここまでストイックに毎日を過ごしてはおりませんが、この言葉はたびたび思い出します。自分の時間の使い方をより意識してみましょう。動きも早くなるはずです」と述べるのでした。本書『リーダーの気くばり』は非常に平易な言葉で書かれており、ふだん読書の習慣がないビジネスマンにも気軽に読める内容となっています。文章は平易ですが、内容はとても重要なことが書かれています。

わたしも、かつてリーダーシップについての本を書きました。『龍馬とカエサル』(三五館)がそれで、「ハートフル・リーダーシップの研究」というサブタイトルがついています。リーダーシップについて考えはじめると、そのとたん理想の人間像を求める旅に出てしまうことに気づきます。経営者などという枠組みを超え、人間として「かく在りたい」「かく振る舞いたい」という理想が、自分にとっての究極のリーダー像をつくりあげるのです。そして、理想の人間、理想のリーダーというものに想いを馳せたとき、その本質は「人間的魅力」という一語に集約されてしまうことがわかります。意思の強さとか判断力とか包容力とか、リーダーシップに必要とされる要素をいくら列挙しようが、それらはしょせん、「人間的魅力」という曖昧にして圧倒的な価値の前では輝きを失うのです。同書に通じるメッセージを本書『リーダーの気くばり』を読んで感じました。

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