No.2439 メディア・IT 『生成AIで世界はこう変わる』 今井翔太著(SB新書)

2026.01.11

生成AIで世界はこう変わる』今井翔太著(SB新書)を読みました。著者は1994年、石川県金沢市生まれ。東京大学 大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻 松尾研究室 に所属。人工知能分野における強化学習の研究、特にマルチエージェント強化学習の研究に従事。ChatGPT登場以降は、大規模言語モデル等の生成AIにおける強化学習の活用に興味。著書に『深層学習教科書 ディープラーニング G検定(ジェネラリスト)公式テキスト 第2版』(翔泳社)、『AI白書2022』(角川アスキー総合研究所)など。

本書の帯

本書の帯には「『羽鳥慎一モーニングショー』『カズレーザーと学ぶ。』等 著者TV紹介多数」「一番売れてる『生成AI』の本!」「10万部突破」「CANTERA教養新書ジャンル第1位」と書かれています。帯の裏には「超知能は神か悪魔か。」と大書されています。

本書の帯の裏

カバー裏表紙には、以下の内容紹介があります。
「生成AIの登場で、私たちの価値観は大きく変わった。では、最新テクノロジーによって、仕事やビジネスのあり方、人々の生活スタイルはこれからどのような飛躍を遂げるのか?東大松尾研究室に所属する新進気鋭の著者が、今話題のテクノロジーの現在地からAIが塗り替える未来までをわかりやすく考察!」

アマゾンより

アマゾンの出版社内容情報には、「話題の生成AI、どこまでなにができる?AIって結局、どんなしくみで動いているの? 最新テクノロジーで私たちの仕事は奪われる? AIで働き方や生活がどう変わるのか知りたい…ChatGPT、Bing、Claude、Midjourney、Stable Diffusion、Adobe Firefly、Google Bard…今世紀最大ともいえる変革を全世界にもたらした、生成AI。この時代を生きるわたしたちにとって、人工知能をはじめとする最新テクノロジー、そしてそれに伴う技術革新は、ビジネス、社会生活、娯楽など、多様な側面で個々人の人生に影響を及ぼす存在となっています」と書かれています。

また出版社内容情報には、「ただでさえ変化スピードが速く、情報のキャッチアップに苦戦するテクノロジー領域。数か月後には今の状況ががらりと変わってる可能性が非常に高い…そのような状況下で、今私たちは生きています。ホットな話題でいえば、『クリエイターはみなAIに取って代わられるのでは?』『人間にしかできない価値創造ってなに?』など、これまで当たり前だと信じて疑わなかった『労働』『お金』『日常生活』などのパラダイムシフトが起こっています。そんな今、まさにみなさんに手に取っていただきたいのがこの1冊です。この時代を生きる多くの方が抱いているであろう不安や疑問、そして未来への興味関心に、本書はお応えします」とも書かれています。

さらに出版社内容情報には、「本書では、AI研究の第一人者である東京大学教授・内閣府AI戦略会議座長を務める松尾豊氏の研究室所属の今井翔太氏が、生成AIで激変する世界を大予測!とくに次のような方におすすめしたい新書です」として、「わかっているようで実はちゃんとわかっていない、最新AIの技術面に興味のある方」「テクノロジーやそれによって変化する社会・仕事・生活について、最低限知っておくべき教養として身につけたい方」「研究者や教授など、学術的に正しい知識を持っていて、確固たるエビデンスに則った未来予測を話せる著者のコンテンツに惹かれる方」などの激動の時代を生きるすべての人にとって、「これから到来する未来を生き抜くヒントと正しい技術的知識を提供する」と書かれています。

本書の「目次」は、以下の構成になっています。
「はじめに」
第1章 「生成AI革命」という歴史の転換点
    ――生成AIは人類の脅威か? 救世主か?
第2章 生成AIの背後にある技術
    ――塗り替わるテクノロジーの現在地とは?
第3章 AIによって消える仕事・残る仕事
    ――生成AIを労働の味方にするには?
第4章 AIが問い直す「創作」の価値
    ――生成AIは創作ツールか? 創作者か?
第5章 生成AIとともに歩む人類の未来
    ――「人類の言語の獲得」以来の革命になるか?
特別対談 松尾豊✕今井翔
  生成AI時代に求められるスキルとマインドとは?
「おわりに」
「本書で使用した生成AIまとめ」
「参照サイトまとめ」
「参考文献」

本書の初版は2024年1月15日に刊行されていますが、その冒頭には「本書に記載されている情報は、2023年11月時点のものです。つねに技術が進化しているジャンルについての本らしい断り書きですね。「はじめに」の冒頭を著者は、「私たちは、ほんの少し前までとはまったく別の世界に生きています。とある技術の革命をめぐって、信じられないほど多くのことが起こっています。ニュースや新聞では毎日、その技術の動向が報じられています。世界中の企業が、その技術を使って新しい事業を開拓できないかと使い道を模索しています。その技術を使った驚くべきサービスが毎日のように開発されています。研究者たちは、その技術によって長年の夢がまさに実現しつつあることに狂喜しながら、とてつもない速度で研究成果を量産しています。一部の人は、「人類の歴史の転換点だ」とまで言っています」と書きだしています。

しかし、良いことばかりでもないようです。もはや従来の教育は役に立たないという議論が起きています。今度こそ、本当に自分たちの仕事がなくなってしまうかもしれないという空気が蔓延しているとして、著者は「クリエイターたちは、自分たちの創造的な仕事に対する脅威になりうると感じています。インターネット上に流れるデータは、もはや何が本物で何がつくられた偽物なのか、見分けがつきません。研究者や政治家は、この技術の発展が『人類にとって取り返しのつかない事態を引き起こすかもしれない』と真剣に議論しています」と述べます。この歴史的な技術革命の主人公にして、本書のテーマである技術こそが「生成AI(Generative AI)」です。

著者によれば、「ある技術が歴史の表舞台に登場したときの世間の反応」という観点で見た場合、生成AIは長い面も悪い面も含めて、おそらくこれまでで最も大きな反応を引き起こした技術ではないかといいます。ChatGPTと連動する形で、画像や音声などさまざまな分野の生成AIも爆発的に普及し、プロが生み出すのと遜色ない品質の生成物が大量に生み出されています。著者は、「生成AIが生み出すであろう莫大な恩恵を享受しようとする流れと、脅威を抑えようとする流れが交錯し、混沌とした渦をなしています」と言うのでした。

第1章「『生成AI革命』という歴史の転換点――生成AIは人類の脅威か? 救世主か?」の「『生成AI』とは何か?」では、著者は「生成AIは、人間が行うような新たなアイディアやコンテンツをつくり出す能力を持つ人工知能の一種です。これは一般的に機械学習、特に深層学習の手法を用いて実現されます。その応用範囲は広く、文章の作成から音楽、絵画、デザイン、ゲームのレベル設計、さらには科学的な仮説の生成まで、人間の創造性が求められるほとんどすべての分野に及びます」と説明しています。また、生成AIは新たに文章や画像、音声などをつくり出すことができる人工知能技術の一種であるといいます。そこでディープラーニング(深層学習)が重要となります。

ディープラーニングとは、機械学習という人工知能の要素技術の中でも、特に人間の脳を模倣した深いニューラルネットワークを学習する手法を指し、現在の生成AIはこのディープラーニングによって実現されています。ディープラーニングや機械学習のアプローチは、一般的に識別的なものと生成的なものに分けられます。専門用語ではこれらを識別モデル、生成モデルと呼びます。著者は、「識別モデルは、画像のようなデータを文字通り『識別』するAIを指し、顔認証やニュース記事の分類など、これまでにも馴染み深いAIはこちらに属します。一方で生成モデルは、データが生み出される背後にある構造や表現を学習し、自身が学習したデータと似たデータを生成できるAIを指します。生成AIは一般的に、生成モデルのアプローチに属するものです」と述べます。

「ChatGPTは『汎用技術(GPT)』?」では、ChatGPTのような言語生成AIは、単に生成を行うAIの域を超えて、総合的に地球上で最も賢い知的存在、とまで言えるかもしれないといいます。ChatGPTに搭載されている最新の言語モデルであるGPT4は、すでに司法試験や医師国家試験に合格できるレベルに達しています。数学、化学、物理、歴史など大学受験の主要な科目のほとんどの問題でも、人間より上のレベルの解答ができます。英語から日本語、アラビア語まで30近い言語を操ることができ、プログラミングについてもGoogleのコーディングテストをパスできるレベルです。著者は、「さすがに1人でこれと同じことができる人間が地球上にいるとは思えません」と述べています。

「史上最速で社会変化をもたらす『生成AI革命』」では、歴史上、汎用技術とされる技術の登場直後は、その技術が良くも悪くも社会に多大な影響を及ぼし、以降の人類発展の方向を決定づける契機となっていることが指摘されます。これまでの汎用技術で起こった変化も長期的に見て大きなものではありましたが、その変化のスパンは数10年から数100年単位というものだったとして、著者は「それらの汎用技術が登場した時代の人が1、2年後にタイムスリップしても、社会構造が激変していると感じることはなかったはずです。産業革命は18世紀中盤から19世紀にかけての長い期間を経て、社会の生産構造を変えました。インターネットの登場は20世紀中盤でしたが、一般家庭に普及し始めたのは21世紀に入る直前でした。一方、生成AIはその影響があまりにも大きく、これまでの汎用技術とは比較にならない速度で変化が起きています」と述べています。

ChatGPTの発表直後、Google社は社内にコードレッド(厳戒警報)を発令したとされています。ChatGPTの出現が、Google社の検索事業に深刻な影響を与えると判断されたためです。実際、Google社に対抗するMicrosoft社は、すぐに検索エンジン「Bing」にChatGPTを搭載し、Google検索エンジンを追いかけています。1つの技術によって、突如、世界一の企業の地位が脅かされる事態となっているのです。そのMicrosoft社は、わたしたちが普段利用するパワーポイントやワード、エクセルなど、ほとんどのビジネス製品に生成AIを搭載すると発表しました。わたしたちの生産作業が根本から変わろうとしているのです。

生成AIがもたらす脅威も無視できません。IBM社は一部職種の業務が生成AIによって代替できるとし、採用を凍結。雇用削減を行うことも示唆。その他の企業でも、カスタマーサポートなど、生成AIによって代替可能な職種すべてを解雇するといった動きが出始めているとか。中国では、画像生成AIの活用により、イラストレーターへの報酬が10分の1になったという事態が報告。ハリウッドでは、脚本をAIにつくらせる動きに反発し、映画脚本家らがストライキを起こしました。さらに政治の世界でも、アメリカの大統領選挙に関連し、対立陣営の存在しない写真を生成して煽動するような行為が報告されました。生成AIを使って声を変換した電話による、詐欺や政府高官へのなりすましといった事件も発生しています。

「人間を超えた『超知能』の誕生も現実的に」では、生成AIに関する論文がすさまじい勢いで量産されていることが紹介されます。1ヶ月、1週間どころか、2日や3日で常識が覆ることも少なくないといいます。Google社が生成AIに関する重大な告知をした数時間後に、OpenAI社がGPT4を発表して何もかもがひっくり返ってしまったことがあったとして、著者は「私が研究機関で講演している最中に、講演で言及していたトピックが更新されてしまったこともありました。あまりにも発表される論文が多すぎて、研究者でさえ消化しきれていません。AI研究と言っても、分野はかなり細分化されていて、本来は生成AIとはあまり関係がないAI研究も多く存在します。ところが今や、各分野の研究者が一斉にそれぞれの専門知をもって生成AIにアプローチしています」と述べます。

このように、AI研究者たちは、自分たちの研究がある日突然ひっくり返されてしまう恐怖感と、後世に語り継がれるであろう劇的な時代にめぐり合えた幸福感の狭間にいるのです。著者によれば、AI研究者の究極目標は、汎用人工知能(AGI:Artificial General Intelligence)の実現だといいます。矛盾するようですが、その実現は最大の懸念点でもあるというのです。AGIとは、人間の知能と同じく汎用的な知能処理ができる人工知能を指します。人間の知能は、言語の使用、視覚処理、運動、ゲームプレイなど、さまざまなことを行える。まさに「汎用的」なものです。そもそも人工知能の研究は、機械によってこれを実現することを目標に掲げて始まったのです。

今やAGIの枠を越え、人間の知能を超えた超知能(Superintelligence)の実現すら真剣に議論されています。ChatGPTを開発したOpenAI社は、未来の超知能の実現を見すえて、AI開発におけるIAEA(国際原子力機関)のような機関の設立を訴え、自らも超知能を制御する研究に着手すると発表したのです。ディープラーニングの生みの親であり、「AIのゴッドファーザー」とも呼ばれるジェフリー・ヒントンは、2023年4月、10年近く勤めたGoogleを突然退社。「生成AIを見てAI開発の危険性を感じ、より自由な立場で活動したくなったからだ」とコメントしています。生成AIの開発を核戦争にたとえ、開発の競争の激化は避けられないとしながらも、人類にとって取り返しのつかない結果を避ける取り組みが必要だと警告しているわけです。

第2章「生成AIの背後にある技術――塗り替わるテクノロジーの現在地とは?」の「第一次ブームの『探索と推論』第二次ブームの『エキスパートシステム』」では、「人工知能(AI:Artificial Intelligence)」という言葉が、1956年にアメリカで開かれたダートマス会議において、コンピュータ科学者のジョン・マッカーシーが使ったのが初出とされていることが紹介されます。AIという言葉の誕生から、1970年ごろまでの時期が第一次AIブームとされています。初期のAIが得意としたのが「探索と推論」です。この時期のAIは、たとえば迷路やボードゲームなどの問題を解くために、人間のほうでAIが理解しやすいようにツリー構造などで記述したうえで、AIがその構造のなかで良さそうな行動を探す(探索)ということをやっていたといいます。

次の第二次AIブームは、1980年から1990年ごろまでの時期だそうです。第二次ブームでは、AIに「知識」を与えるアプローチが主流でした。つまり、人間が持っている知識をひたすらAIに詰め込めば、人間レベルに賢いAIができるはず、という発想です。著者は、「この時期には、ChatGPTのように人間と対話ができる対話AIのようなものも開発されています。この対話AIは、考えられる限りの質問に対して、正しい回答(知識)をあらかじめすべてプログラムするというものです。たとえば、法律や病気の質問に答えられる対話AIで、これは『エキスパートシステム』とも言われていました」と述べています。

「第三次ブームを起こした『ディープラーニング』とは?」では、2012年頃から、いよいよ生成AIの技術基盤ともなっているディープラーニングを中心とした第三次AIブームが始まったことが紹介されます。第一次、第二次ブームでは、人間が問題を整えたり知識を与えたりと、機械自身が自主的に何かを学ぶことはありませんでした。しかし、第三次ブームでは、大量のデータを与えながら、機械が自動的に問題の解き方を学習する「機械学習」のアプローチが主流になります。この機械学習を、人間の脳をコンピュータ上で再現した「深い(Deep)」人工ニューラルネットワークで行うのが、「ディープラーニング」なのです。

「機械学習の分類と『自己教師あり学習』」では、機械学習の種類が整理されています。機械学習は大きく分けて従来の3つに、最近の生成AIで主流となっているもう1つを加えた4つに分類されます。最も一般的な機械学習は「教師あり学習」。これは人間が正解データをつくり、そのデータをもとに学習する手法です。2つ目は「教師なし学習」。これは機械がデータのなかから自動的に特徴を発見し、グルーピングなどを行う手法です。3つ目は「強化学習」。これは一般的にロボットの制御、ゲームプレイなどAIの意思決定タスクに使われる手法で、機械が自律的に環境を探索して得た経験データと、タスクの成功信号である報酬から意思決定則(方策)を学習する手法です。最後の1つが、最近の生成AIで主流となり注目されている「自己教師あり学習」。一応は教師データが存在しますが、人間が作成したものではありません。「自己教師」の名の通り、教師データも機械が自動的につくり、その正解データから学習を行うのです。

第3章「AIによって消える仕事・残る仕事――生成AIを労働の味方にするには?」の「生成AIによる生産性向上を示す複数の実験結果」では、マッキンゼーの報告が紹介されています。それによれば、生成AIにより670兆円以上の経済効果が世界にもたらされるといいます。著者は、「これはすさまじい額です。イギリスの国内総生産が450兆円程度ですから、生成AIによってイギリス一国の1・5倍もの経済効果が世界にもたらされることになります」と述べています。マサチューセッツ工科大学(MIT)は、プレリリース、短文レポート、分析報告書や計画書、電子メールでのやり取りなど、文章執筆に関わる仕事に関して、生成AIが与える具体的な影響について調査しています。それによると、ChatGPTをこれらの仕事に使うことにより、仕事を終えるまでの所要時間が平均40%減少し、アウトプットの質も18%向上したとのことです。この実験でChatGPTに触れた労働者は、「実際の業務でChatGPTを使用したい」と答える割合が実験後に2倍になっったそうです。

「AIが医師の診断を上回る項目も?」では、現時点で、最先端の言語生成AIは、日本やアメリカの医師国家試験に合格するレベルの性能に達しているといいます。AIが持つ医療知識だけを問えば、人間の医師と近いものを持っていると言っていいでしょう。特に医療に特化した言語生成AIは、事実上、人類が蓄積してきたほとんどの医学知識を持っていると指摘し、著者は「少なくとも患者の視点では、現時点で最先端の医療特化の言語生成AIは、すでに人間の医師と遜色ない回答ができるレベルに達しています。ただし、医療は患者の命に直接関わる分野であり、導入には慎重になる必要があります。研究上は高い性能を示していても、その評価項目は限定的なものであり、安全性、信頼性、倫理、プライバシーなど、検討すべき項目はまだ多く存在します。医師の業務効率化はともかく、診断への応用については、最終的な判断は人間の医師が行い、このような生成AIの出力は患者や医師の意思決定支援に使うという状況がしばらく続くと考えられます」と述べます。

第4章「AIが問い直す『創作』の価値――生成AIは創作ツールか? 創作者か?」の『創作ツール』としての生成AIの画期性」では、歴史上、登場したときに大きな議論を巻き起こした創作ツールは生成AIだけではないと指摘します。19世紀の写真、20世紀後半に登場したシンセサイザーやデジタルペイントツール、ちょっと変わったところだと21世紀に登場したボーカロイドのような歌唱音声合成ソフトウェアなどがあります。著者は、「いずれも登場時には既存のクリエイターからの大きな反発を招きましたが、現在ではクリエイターの創作に欠かせないものとなっていますし、新たな創作表現を生み出すきっかけにもなりました」と述べています。

ただし、生成AIはこれら歴史上のツールとは異なる複合的な要素があります。著者は「◎大量の人間のデータを使わないと成り立たないこと」「◎即座に完成品を出せてしまうこと」「◎言語入力による指示のみで多様なコンテンツ作成が可能であること」の3点を強調しています。「即座に完成品を出せてしまう」という点については、写真と似ている部分があります。カメラによる写真は、現在では芸術作品の一部と見なされていますが、シャッターを押せばそれ以上の操作は基本的に(加工などを除いて)必要ないという点で、プロンプトを打ち込んで完成品が生成される生成AIと同じ性質を持っているのかもしれません。

第5章「生成AIとともに歩む人類の未来――『人類の言語の獲得』以来の革命になるか?」の「AIに聞けば、すべての疑問が解決する?」では、将来的にはGoogle検索や現在のChatGPTがパワーアップする形で「AIに聞けばなんでも解決する」世界がやってくると思われるといいます。日常の悩みも、リアルタイムで起きていることも、ゲームの裏技も、仕事で行き詰ったことも、人類の積み上げた科学知識も含めた「なんでも」です。著者は、「アニメや映画のような集団で製作される作品も、1人でつくれるようになるかもしれません」と述べています。ある意味で、夢のような時代ですね。

「人間は『人間にしかできない』ことに集中する?」では、生成AIによる生産性の向上に言及します。言語生成AIなどを日々の業務に組み込むことで、今までは人間がやっていた多くのことが自動化され、より短時間でこなせるようになります。著者は、「本来は人間が行っていた作業がなくなるわけですから、人間は別の活動に時間を割けるようになります。そしてそれは、人間にしかできない活動になるでしょう。業務であれば、ルーチン的な事務作業や資料作成ではなく、根本的な事業改革のアイディアを生み出すことや、社会や人類の未来に対してどう貢献すべきかを考え直すことなどです」と述べます。

また、生活レベルで言えば、人付き合いに割く時間や、個人が「楽しめる」時間を増やすことになるとして、著者は「それはゲームでも動画鑑賞でも読書でもなんでもいいはずです。AIは人間の代わりに仕事をやってくれますが、人間の代わりに楽しむことはできません。また、労働の義務がなく自由な思索に集中できたために、古代ギリシャの哲学者が革新的な思想を生み出せた歴史や、資産家に保護されることによって、ルネサンス期の文化人が活躍できた歴史などが示すように、『自由な時間』は人間が創造性や独創性を発揮させ、新たな発見や発明、芸術的な表現を創出する源泉となります」と述べています。

「生成AIは学習データを無断で使用していいのか?」では、これらのAIを運用しているのは、Google、Amazon、Meta、Appleのように、インターネット上で多くのデータを収集している企業、あるいはWebのクローリングによってデータを収集しているOpenAI社や大学のような組織であることが指摘されます。著者は、「われわれはこれらのサービスを日常的に、背後にあるAIの学習データを意識することなく利用していますが、ほとんどの場合、学習のもとになるデータは、普通にインターネットを使用している一般ユーザーが生み出した文章や画像です。つまり、これらのデータは、生み出したユーザーが著作権者として権利を持つ著作物です」と述べています。

「デジタルコンテンツは本物と偽物の区別がつかなくなる?」では、ディープフェイクの問題が取り上げられます。ディープフェイク自体は、生成AIブーム以前から問題視されていました。しかし、当時のものは技術的に未成熟であり、不自然な部分が多く存在したり、動画像以外の部分についてはフェイクが難しかったりしました。しかし、生成AIの発展によって、デジタル化できるコンテンツについてはほとんどすべてにおいて、本物と見分けがつかないものを生成できてしまう世界が近づいているとして、著者は「現在では、実在しない人間の画像を生成し、それを違和感なく動かした動画をつくることが可能であり、個人の声についても30分、高品質なものを求めなければ3秒程度のサンプルがあれば、本人のものと聞き分けることができない声を生成することができます」と説明します。

「人類の歴史を劇的なおのにした『言語の獲得』」では、著者は「人類の発展の歴史を考えると、AI(特にChatGPTのような言語生成AI)が『言語を扱えるようになった』という事実は、今後のAI自体の発展と人類の未来を考えるうえで特別な意味を持っている」という考えを示します。また、「地球ができてから、さらには人類が誕生してからも、ほとんどの期間は何も起こらなかったのに、つい最近である5万年前から人類は、その気になれば地表を焼き尽くす兵器を開発し、月に到達し、機械で地球を覆い、環境を破壊し尽くし、人以外の生物を蹂躙し、現在はAIなるものを生み出そうとしています。人類をして、この5万年の大変化を起こしたものはなんだったのか」という問題提起をしています。

「人類をして、この5万年の大変化を起こしたものはなんだったのか」の答えは諸説ありますが、その要因として多くの研究者から筆頭に挙げられているのは、「言語の獲得」です。一条真也の読書館『サピエンス全史』で紹介した世界的なベストセラーの著者であるユヴァル・ノア・ハラリなどは、この言語の獲得、つまり人類の新しい思考と意思疎通の方法の登場を指して「認知革命」と呼んでいます。言語の柔軟性によって、情報共有の幅が広がるだけでなく、現実には存在しない概念を表現し理解できるようになった。それが人間のコミュニティをより強固にした。自分が今考えていることを整理し、創造と発明ができるようになった。これらが、言語の獲得を人類の加速的な発展のきっかけと考える理由だというのです。

「ディープラーニングが『眼の誕生』なら、生成AIは『認知革命』」では、1900年代中盤にはコンピュータが発明され、AIの概念が登場したことが紹介されます。AIの発展は冬の時代を挟みつつも着実に進んでいたのですが、2012年にディープラーニングが登場すると、再び加速的な発展の兆候が出てきます。東京大学の松尾豊教授はディープラーニングの登場直後、それを地球上の生物の歴史における「眼の誕生」にたとえました。原始的な生物は、単純な刺激に対する応答で動いていましたが、「眼の誕生」によって視覚情報が優位になった結果、生物の見た目や生存戦略に大きな変化が生じ、生物の多様性につながりました。著者は、「ディープラーニングは、機械、あるいはその機械を使う企業活動に、外界のデータから視覚(画像)も含めた膨大な情報を活かせるようになったという意味で、『眼の誕生』と共通する点があるというたとえです」と説明します。

知能は相対的なものであるとすれば、機械の知能が人間を超えた場合、その知能が超えるのは人間一般であり、その「超知能の基準では」一般人とアインシュタインの間にも大した差はないはずとして、著者は「この機械の知能が、われわれ人間には想像できない『何か』を考え、生み出す、と主張することはそこまで飛躍したものではないでしょう。その知能が何を生み出してくれるかは残念ながら、おそらく人間が想像することはできません。アリや魚や犬が、人間が核やAIなどという奇妙なものを生み出すとは想像できなかったようにです。タイムスリップができるようになる、宇宙の謎を解き明かしてくれる……われわれの知能が想像できる飛躍的な発想はこの程度ですが、機械の知能にとってはこれも大したことではないかもしれません」と述べています。この著者の指摘には、大いに納得しました。

特別対談「生成AI時代に求められるスキルとマインドとは?」では、著者と師である松尾豊氏が語り合います。「国に頼るのではなく、未来の舵は自分で握れ」では、「先生は、今の時代をどんなふうにとらえていますか?」という著書の質問に対して、松尾氏は「今は本当に面白い時代だと思っています。たとえば、私が江戸時代に生まれていたら、自分の祖先と同じような一生を送ることになったでしょう。そう感じるのは、江戸時代が300年間安定した変化のない時代で、自分がどんな人生を送るかがほぼ予測できたからです。でも、それはつまらないですよね。今はどうでしょう。こんなにも新しい技術が生まれ、時代も大きく動いています。『多分こうだろうな』と簡単に予測のつく未来よりも、10年、15年先もわからない、そんな未来が待っているほうがさまざまな可能性があります。可能性があるからこそ、面白いと思うし、頑張ろうとも思えます」と答えています。さすがですね!

「おわりに」では、AIが人の知的能力の大半を上回るような事態が、生成AIの登場という形で起こり、われわれ人間が単純な効率や生産性を中心とした大半の知的活動の主役の座から降りるときが現実のものになろうとしていると指摘し、著者は「囲碁や将棋の世界では、一足早く人間のチャンピオンにAIが勝利し、その世界における人間のあり方が問われることになりました。その結果は、今われわれが目にしているように、『AIに匹敵する』超人的な人間、たとえば将棋ですべてのタイトルを獲得し8冠となった藤井聡太さんのような人物の活躍にプレイヤーのみならず、その周りの人間も熱狂するような世界です」と述べています。

ハートフル・ソサエティ』(三五館)

このような変化が人間の社会全体で起こればどうなるか。著者は、「生産性や効率性などといったものから離れて、『人間がやること』に意味を見出す『人間中心の社会』という考えが大きくなっていくのではないかと思います」と述べるのでした。この著者の結論には全面的に賛成です。わたしは、AIの先には「心ゆたかな社会」としてのハートフル・ソサエティが待っていることを信じています。これからの社会は、人間の心に向かっている、いわば「心の社会」である。そのように、わたしは考えています。「心の社会」はさらに「心ゆたかな社会」としてのハートフル・ソサエティを目指します。それは、あらゆる人々が幸福になろうとし、思いやり、感謝、感動、癒し、そして共感といったものが何よりも価値を持つ社会なのです。