No.2441 メディア・IT | 人生・仕事 『AIエージェント』 城田真琴著(日本経済新聞出版)

2026.01.13

AIエージェント』城田真琴著(日本経済新聞出版)を読みました。著者は、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社デジタル・エンジニアリングユニットディレクター。大手シンクタンクにて、先端技術及び先端IT ビジネスの動向分析などに携わったのち、2025 年7月より現職。著書に『生成AI・30 の論点 2025-2026』『デス・バイ・アマゾン』『大予測次に来るキーテクノロジー: 2018-2019』(以上、日本経済新聞出版)、『ChatGPT 資本主義』『クラウドの衝撃』『ビッグデータの衝撃』『FinTech の衝撃』『エンベデッド・ファイナンスの衝撃』(以上、東洋経済新報社)などがあります。

本書の帯

本書の帯には、「みずから考えて動くAIがついに現れた。仕事を、キャリアを、会社を変える『最強のパートナー』」「世界の最先端情報をこの1冊で!」「未来を先どり入門書の決定版!」と書かれています。

本書の帯の裏

カバー前そでには、「POINT」として、こう書かれています。
いま話題のAIエージェントについてわかりやすく解説。何がすごいのか、どのように我々の仕事を変えるのか、どんな課題があるのか、といった疑問にこたえる1冊です。
著者は長年先端テクノロジーの動向をウォッチし、それらを活用したビジネス/IT戦略の立案支援に携わってきた第一人者。わかりやすい説明には定評があります。
本書は難解な仕組みを紹介するものではありません。AIそしてAIエージェントの基本からビジネスでの活用、社会的課題、キャリアへの影響、5~10年後の未来像を具体例とともに解説します。
ビジネスパーソンには業務効率化や今後のキャリア形成のヒントを、学生にはAI時代に輝くスキルを、そして一般の読者には生活を豊かにする可能性を示します。技術についての知識がない方でも安心して読み進められる内容です。

アマゾンより

アマゾンの内容紹介には、「入門書の決定版! 話題のAIエージェントについてわかりやすく解説。何がすごいのか? どのように我々の仕事と社会を変えるのか? どんな課題があるのか? 最先端情報に精通した著者が、すべての疑問に答えます! カタカナ用語が苦手な方も安心。AIとAIエージェントの基本からビジネスでの活用、社会的課題、キャリアへの影響、5-10年後の未来像を、専門用語を使わずにやさしく解説します。ビジネスパーソンには業務効率化や今後のキャリア形成のヒントを、学生のみなさんにはAI時代に輝くスキルを、そして一般の読者には生活を豊かにする可能性を示します」と書かれています。

本書の「目次」は、以下の構成になっています。
はじめに「その日、あなたの『分身』が生まれる」
第1章 「指示待ちAI」の終焉
第2章 専門職AIが会社を変える
第3章 デジタル執事が働き方を変える
第4章 「動くAI」が突きつける5つの問い
第5章 AIエージェント時代のキャリア再設計
第6章 AIが「会社」になる日

おわりに

はじめに「その日、あなたの『分身』が生まれる」の「単なる道具から“頼れる相棒”へ」では、著者は「私たちはこれまで、パソコンやインターネット、そしてスマートフォンといったテクノロジーの進化によって、大きな変化を経験してきました。いずれも私たちの情報処理能力や行動範囲を拡張してきましたが、あくまで“便利な道具”にすぎませんでした。何をすべきかを決め、操作の指示を与えるのは常に人間の役割だったのです。これに対して本書で解説するAIエージェントは、目的を理解し、自ら判断して動く“自律的な相棒”であり、テクノロジーがついに『思考と行動』を担う段階へと進化したことを意味しています」と述べています。

チャットGPTは、言うなれば、質問すれば何でも答えてくれる「極めて優秀だが、指示待ちの新人」でした。こちらがプロンプトとして適切な指示や質問を入力しなければ、その真価を引き出すことはできません。一方、AIエージェントは、あなたの意図を適切に汲み取り、先回りして仕事を進めてくれる「百戦錬磨のベテラン秘書」であり、あなたの苦手なことを補ってくれる「最高の専門家チーム」と呼ぶべき存在であるとして、著者は「つまり、それはもはや“道具”ではなく、あなたの思考と能力を拡張する“相棒”であり、あなた自身の“分身”と呼ぶべき存在なのです」と述べるのでした。

第1章「『指示待ちAI』の終焉」の1「あなたの隣に“もう1人の自分”がいるとしたら?」では、もし、あなたの隣に、あなたと同じ知識、同じ記憶、そして同じ目的意識を持った“もう1人の自分”がいたら、あなたの働き方、そして生き方はどう変わるかと問いかけます。著者は、「これは、AIエージェントという新しい存在を理解するための、最も重要な問いかけです。AIエージェントは、単なる業務効率化ツールではありません。それは、あなたの能力を拡張し、思考を代行し、時にはあなた自身でさえ気づいていない可能性を掘り起こしてくれる、まさに『分身』と呼ぶべき存在なのです」と述べています。

そもそも「エージェント」という言葉は、ラテン語の「agere(行う・動かす)」を語源としています。ここから派生して、「agent」は“自ら何かを行う存在”を意味するようになりました。そして現代では、それが転じて「誰かの目的のために、自律的に動く代理人」という意味合いを持つようになったと説明し、著者は「このような背景を踏まえると、『ユーザーの代わりに一定の判断を任され、自律的に動けるように設計されたソフトウェア』というAIエージェントの定義が、まさに語源の本質と一致していることがわかります」と述べます。

これまでは、人間が主体となり、コンピュータを“使う”という関係性にありました。これはいわば「人間対コンピュータ」の時代です。ところが、AIエージェントの登場によって、いま、わたしたちは、人間とAIが力を合わせ、1つの目標に向かって協働する「人間とエージェントの協働の時代」へと移りつつあるといいます。一部の研究者は、このような人間とAIが深く統合された状態を「ケンタウロス・システム」と呼んでいるそうです。ギリシャ神話に登場する半人半馬のケンタウロスのように、人間の知性とAIの処理能力が一体となり、単独では到達し得ない、より高度な意思決定や創造性を発揮するというのです。

2「チャットGPTは“革命”の序章だった」の冒頭を、著者は「2022年の暮れ、多くの人が初めて『自分と対話できるAI』に触れ、その能力に衝撃を受けました。オープンAIが公開したチャットGPTです。まるで人間のように自然な文章を生成し、専門的な質問にもよどみなく答えるその姿は、AI技術が新たなステージに突入したことを世界中に知らしめました。間違いなく、それは“革命”と言えるものでした。しかし、今にして思えば、それは壮大な革命の『序章』にすぎなかったのです。チャットGPTやグーグルの『ジェミニ』をはじめとする大規模言語モデル(LLM)は、その後の生成AI技術の爆発的な進化の火付け役となりました」と書きだしています。チャットGPTが示した可能性は、あくまでAIが持つ潜在能力の片鱗でした。これから始まるのは、その知性がデジタル世界を自由に駆け巡り、現実のタスクを次々と処理していく、本当の革命の物語だといいます。

第2章「専門職AIが会社を変える」の2「ケーススタディ①顧客体験の革命 セールス、カスタマーサポートの現場」では、企業の顔とも言える、顧客と直接向き合う最前線が取り上げられます。セールスやカスタマーサポートといった職務は、相手の感情を汲み取り、信頼関係を築く「人間らしさ」が最も重要だと考えられてきました。「機械的なAIに、そんな繊細な仕事が務まるはずがない」――そう考えるのは自然なことです。しかし、現実はその逆であるとして、著者は「専門職AIは、人間から『人間らしさ』を奪うのではなく、むしろ人間がより『人間らしい』仕事に集中できるよう、自律的にサポートすることで、顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)に革命をもたらし始めています」と述べています。

4「なぜ今、注目されているのか?」では、AIという言葉が生まれてからすでに半世紀以上が経過しているにもかかわらず、なぜ今、「専門職AI」のようなAIエージェントが急速に注目されているのかについて、著者は以下の4点の要素が絶妙なタイミングで重なり合い、大きな波を生んだと推測しています。
脳の進化:大規模言語モデル(LLM)のブレークスルー
感覚の統合:マルチモーダルAIの実現
手足の獲得:APIエコノミーとMCPによる実行基盤
導入の現実性:クラウド化による低コスト化と、労働力不足という切実な社会ニーズ

日本をはじめとする先進国では少子高齢化による労働力不足が深刻化し、同時に市場競争は激化しています。少ない人員で高い生産性を確保し、顧客に迅速かつパーソナライズされたサービスを提供することは、もはや努力や根性で解決できる問題ではありません。こうした切実な社会的ニーズが専門職AIの導入を強力に後押ししているといいます。「賢い脳(LLM)」「感覚の統合(マルチモーダル)」「手足の獲得(API、MCP)」「手頃な価格と切実なニーズ(クラウド×労働力不足)」という4つの歯車が同時に嚙み合った瞬間、AIエージェントは一過性のブームではなく、後戻りできない構造的な変革として動き出しました。複数のエージェントが連携する「AI株式会社」の未来も、この強固な基盤の上で加速していくのです。

第3章「デジタル執事が働き方を変える」の6「創出される『新たな業務設計力』」では、デジタル執事が私たちの「仕事」をいかに変えるかを示します。スケジュール調整、情報収集、資料作成、議事録、進捗管理・・・・・・。これまで私たちが「仕事」だと思っていた作業の多くをAIエージェントが肩代わりしてくれる未来。それは、雑務から解放される素晴らしい世界であると同時に、ある切実な問いを私たちに突きつけるといいます。それは、「AIエージェントがそこまでやってくれるなら、人間の価値は一体どこにあるのか? 私たちは、どんなスキルを身につければいいのか?」という問いです。著者は、「この問いに対する答えこそ、AIエージェント時代を生き抜くためのキャリア戦略の核となります。そして、その答えは『プログラミング』や『データサイエンス』といった、理系的な専門スキルだけを指すのではありません。むしろ、すべてのビジネスパーソンに共通して求められる、まったく新しい能力。それが『新たな業務設計力』です」と述べています。

第4章「『動くAI』が突きつける5つの問い」の3「問い②思考:思考を委ねた先にある“思考能力の停滞”とどう戦うか?」では、AIエージェントがわたしたちの知的作業を代行してくれる未来は、一見すると輝かしいものであるといいます。面倒な情報収集や資料作成から解放され、人間はより創造的な仕事に集中できるからです。しかし、その裏側には、深刻なリスクが潜んでいます。それが、人間の認知能力そのものが衰えてしまう「思考能力の停滞」です。「脳が縮む?――恐るべき『GPS効果』」では、非常に示唆に富む例として「GPS効果」と呼ばれるものが紹介されます。日常的にGPSに頼る人ほど空間記憶やナビゲーション能力が低下する傾向が報告されています。まさに「使わなければ、失われる」という原則が、わたしたちの脳にも当てはまるというのです。

第5章「AIエージェント時代のキャリア再設計」の6「価値の源泉は『専門性』から『越境性』へ」では、AIエージェントがもたらす、もう1つの大きな構造変化は、個人のキャリアにおける「専門性」の意味合いを変えてしまうことであると指摘します。著者は、「あなたが何年もかけて習得した財務分析の知識、複雑な法規制の理解、あるいは特定のプログラミング言語のスキル。それらの多くを専門特化されたAIエージェントが、瞬時に、かつ人間よりも正確に習得・実行できるようになります。もちろん、人間の専門家の知見が完全に不要になるわけではありません。しかし、『ある分野の知識を記憶し、定型的な手順で適用する』というタイプの専門性の価値は、相対的に大きく低下することが避けられません。誰もが超一流の専門家(AI)を、安価に『レンタル』できる時代が来るのです。では、専門性が価値の源泉でなくなるとしたら、私たちの価値はどこから生まれるのでしょうか。それが、専門性と専門性をAIを駆使してつなぎ合わせ、新たな価値を創造する『越境性』です」と述べます。

(本)竜馬とカエサル

9「リーダーシップの再定義:判断の責任は、常に人間にある」では、AI時代のキャリア論を考えるにあたり、わたしたちはリーダーシップという、最も根源的なテーマに立ち返る必要があるといいます。AIがどれだけ進化し、自律的にタスクをこなせるようになっても、決してAIには委ねることのできない領域。それが、「最終的な意思決定」とそれに伴う「責任の引き受け」だといいます。著者は、「AIエージェントは、膨大なデータに基づき、複数の選択肢それぞれの成功確率やリスクを、極めて高い精度で提示してくれるようになるでしょう。しかし、AIエージェントは決して『だから、プランAを選ぶべきです』と最終判断を下すことはありません。どちらのリスクを取り、どちらの未来を選ぶのか。データや確率だけでは測れない、自社の理念や社会への影響、そして共に働く仲間たちの想いをすべて背負い込み、最後の決断を下すこと。それこそがリーダーにしかできない、最も尊い仕事です」と述べています。

10「行動せよ、失敗せよ、学べ:ポートフォリオ型キャリアの実践」では、AIエージェントという強力な相棒を得ることで、わたしたちはより少ない資本と時間で新しい挑戦を始めることができると指摘します。興味のある分野の知識は専門AIエージェントが補ってくれ、事業計画の策定はデジタル執事が手伝ってくれる。これまで「自分には無理だ」と諦めていた領域への「越境」が、かつてなく容易になるのです。著者は、「このような時代に最適なキャリア戦略は、1つの会社や職種に自分のすべてを懸けるのではなく、複数のプロジェクトや役割を同時に、あるいは時期をずらしながら経験していく『ポートフォリオ型キャリア』です」と述べるのでした。

第6章「AIが『会社』になる日」の1「『AI株式会社』の誕生」では、AIエージェントが単なる個人の「部下」や「アシスタント」にとどまらず、複数のAIエージェント(=マルチエージェント)がチームを組み、自律的に事業を運営する、いわば「AI株式会社」とも呼ぶべき存在が生まれる時代であることが指摘されます。著者は、「これは、単にAIエージェントが業務を代行するというレベルの話ではありません。AIエージェントが人間を介さずに自律的に意思決定を行い、リソースを調達し、価値を創造し、利益を追求する――すなわち、AIエージェントそのものが『法人格』を持ったかのように振る舞う、経済主体となる未来です」と述べています。

「おわりに」では、AIエージェントは単なる効率化の道具ではなく、わたしたちの知的活動を拡張し、新しい働き方や社会のあり方を提示する存在であることが指摘されます。彼らは「従業員」であり「秘書」であり、そして「チームメイト」として、これからの時代に不可欠なパートナーとなっていくといいます。著者は、「AIの進化は、これまでの技術革新とは異なる次元にあります。かつて蒸気機関や電気が人間を過酷な肉体労働から解放したように、今、AIは私たちを退屈な知的作業から解放しようとしています。その影響は、日々の業務から組織の意思決定、さらには社会の制度や文化のあり方にまで及ぶ可能性があります。しかし、その未来はAIによって自動的に決まるものではなく、私たちがどのように使い、どのように共存していくかに大きく左右されます」と述べるのでした。本書は非常にコンパクトな新書ですが、とても豊富な情報を与えてくれます。経営者としても有意義な読書ができました。