No.1010 国家・政治 | 日本思想 『日本再生と道徳教育』 渡部昇一&梶田叡一&岡田幹彦&八木秀次著

2014.12.03

12月2日、衆議院選挙が告知されました。各党が、それぞれに「日本再生」を訴えています。

わたしは、「日本再生」にとっても最も重要なものは「道徳教育」であると思います。

そこで、『日本再生と道徳教育』渡部昇一&梶田叡一&岡田幹彦&八木秀次著(モラロジー研究所)を紹介します。

帯には、「”心の力”で未来を拓け!」「『国づくり』は『人づくり』から! 誇りある日本人を育てるための21世紀の道徳教育への提言」と書かれています。

“心の力”で未来を拓け!

「刊行にあたって」で、公益財団法人モラロジー研究所・学校法人廣池学園の廣池幹堂理事長が以下のように本書について説明しています。

「本書は、平成25年度中に行った『教育者研究会第50回記念式典』ならびに『道徳教育シンポジウム』(東京・愛知・大阪)における講演の内容を、1冊にまとめたものです。講師陣は、いずれも道徳教育の推進やわが国の教育の再生に向けて、精力的に取り組まれているオピニオンリーダーです。本書には、わが国の歴史と伝統を踏まえつつ、未来に向けて前進していくための『21世紀の道徳教育』への提言が盛り込まれています」

「刊行にあたって」の冒頭では、廣池理事長が以下のように訴えます。

「今、わが国は『経済の再生』を最優先の課題と位置づけ、官民を挙げて取り組んでいるところです。しかし、何より重要なことは『教育の再生』でありましょう。経済を再生するにも、これを支える人材の育成は不可欠です。そし道徳教育による『日本人の心の再生』が成ってはじめて、真の日本の再生が成るのです」

さらに廣池理事長は、以下のように述べています。

「『国づくり』とは『人づくり』です。先人たちが長い歴史の中で育んできた『日本が世界に誇るもの』―伝統文化や勤勉・正直・礼節・質素・忍耐・倹約・親孝行などの『よき国民性』を今こそ取り戻し、21世記を担う子供たちに、しっかりと伝えていかなければなりません。そして、子供たちが『日本に生まれてよかった』と心から思える国をつくっていくこともまた、私たち大人の責任でありましょう」

本書には、以下の4つの提言が収められています。

「胎」をつくる道徳教育 (渡部昇一)
真の「生きる力」とは (梶田叡一)
吉田松陰―「日本人の魂」の教育者 (岡田幹彦)
日本再生の原動力は道徳教育にあり (八木秀次)

「現代の賢人」と呼ばれる上智大学名誉教授の渡部昇一氏は、次のように述べています。

「今、日本における道徳教育のあり方が大きく問い直されています。日本が道徳教育の問題に直面したことは、これまでに二度あります。1つは武士階級が揺らいだ『明治維新』のときで、もう1つは道徳の教科化を目前に控えている『現在』です」

渡部氏は、ある校長が「教育勅語を教えられた世代の親の子供は、ぐれても直しようがある。しかし、教育勅語を知らない世代の親の子供は、ぐれても直しようがない」という言葉を聞かれたそうで、それについて以下のように述べています。

「教育勅語には、『父母に孝に兄弟に友に(父母に孝を尽くし、兄弟は親しく)』『学を修め』『徳器を成就し(徳を積み)』とあります。子供がこの言葉を聞き、これに従うかどうかは別としても、親は『教育勅語』にある言葉として権威を持って言うことができました。しかし、それも言えなくなったばかりか、道徳の基準も失ってしまったのです。
そこで、これからの道徳教育をどう再建するかといえば、その基本になるのは教育勅語の復活だと思います。教育勅語に示されているものは究極の徳目です。教育勅語は、まさに『古今に通じて謬らず、之を中外に施して悖らず』で、古今を通じて、またどこにあっても通用するものであり、変えようがないものです」

また渡部氏は「伝統」というものを取り上げ、次のように述べます。

「古くから存在している集団は、集団として残ることができる何かの伝統を持っているはずです。同様に、栄えている集団は栄えるに足るような伝統を持っているわけです。言い換えれば、かつて栄えていた集団が栄えなくなったとすると、これは栄えていたときに存在していた伝統を壊してきたと言えるわけです。
ですから、現在の日本がもし下り坂にあるとすれば、それは『大切な伝統を壊しているから』と思えばよいのです」

渡部氏は、G・K・チェスタトン(イギリスのジャーナリスト/ 1874〜1936)の「民主主義には、生きている人同士の横の民主主義だけではなく、縦の民主主義がある」という言葉を紹介し、この縦の民主主義が「伝統」であると述べます。そして、渡部氏は「伝統」について以下のように述べます。

「伝統というものは、重要なものを保ってきた民族にだけ残っていると言えます。理屈を超えています。シナでは、いろいろな民族によって政権がつくられてきました。この大陸においては、孔子の生きた周の時代から『孝』という徳目が大切にされてきました。シナの道徳の基本は『親孝行』で、それだけはしっかり守られた文化圏だったのです。忠義など関係ない、汚職も関係なくとも、親孝行だけはなんとか守られてきました。だから、1つの文明圏としてなんとか続いてきました。しかしシナにおいて、その道徳を壊したのは、今の共産党政権です。儒教を捨て、孔子の像を壊しました。最近、この誤りに気づいて、少しずつ儒教の再建をめざしているようですが、道徳まで再建するのはなかなか難しいようです。『親孝行』の『孝』がシナ文化の中心だと思うのですが、これがなくなったらどうなるだろうかと考えることがあります」

渡部氏は「子供たちの『肚』を育てよう」と訴え、以下のように述べます。

「私は、今の日本になくなったものは『肚』だと思います。最近、外国人からも『今の日本人は、肚、つまりガッツ(guts)がなくなったね』と聞き、私も”なるほど”と思ったものです。考えてみると、戦後は肚、度胸を育てる教育がなくなりました」

「戦前の教育では、少なくとも男子には『肚が大切だ』と教えていました。ましてや武士の世界では『肚を据えること』を第1に教育してきました。世界の多くの国では、今も男子の美徳の第1は『ガッツ』です」

さらに渡部氏は、「肚」の重要性について次のように述べます。

「江戸時代の日本の指導者層の教育は、武士としての教育でした。この教育において『知』も『情』も重んじられていましたが、その主眼は何といっても『肚』を鍛えること、つまりガッツのある人間をつくることでした。ガッツが男を評価する基準でした」

「知の足りないトップを助ける参謀役は見つけることができます。情の足りないトップを補佐する人はいくらでもいることでしょう。しかし、肚の据わらないトップ、ガッツのないトップでは補佐しようがなく、立ちはだかる苦難を乗り越えることはできません」

渡部氏以外では、日本政策研究センター主任研究員である岡田幹彦氏による「吉田松陰―『日本人の魂』の教育者」が興味深かったです。特に興味を引かれたのが以下のくだりでした。

「松陰は自分の生涯に体験したことや考えたことなどを、すべて書き残しています。松陰は29歳で亡くなりましたが、『吉田松陰全集』(大和書房)は全11巻にも及びます。私は日本人の書いた最高の文章の1つが、松陰の文章だと思っています。『松陰全集』は難しく何年もかけて繰り返し読みましたが、これを読んではじめて明治維新が分かったような気がしました」
この「自分の生涯に体験したことや考えたことなどを、すべて書き残す」という松陰の姿勢は、現在毎日ブログを書いている自分の姿にも重なるような気がしました。「すべて書き残す」ということは大変ですが、わたしも命がけで続けていこうと思っています。

また岡田氏は、松陰が弟子たちに教えたメッセージを要約します。

「自由・平等・人権というものは、社会生活を営んでいくうえでの必要条件であっても、決して倫理でも道徳でもありません。日本人が本来伝えてきたところの忠・孝・誠・思いやり・情・慈悲・感謝・報恩・恥・慎み・謙虚・礼節・克己・献身・勤勉――これらが本当の倫理道徳です。その根本になるものこそ、忠と孝だということです。松陰はこれを徹底して教えました。それによって松下村塾で学ぶ人たちは、人間として日本人として立派に生まれ変わっていったのです」

一般の方が本書を通読する機会は、なかなかないでしょう。わたしも渡部昇一氏との対談のための資料読みという理由がなければ、本書を手に取ることはなかったと思います。しかし、全部で170ページの本書には、現代日本人にとって大切なメッセージが満載でした。ぜひ、一読をおススメいたします。

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