No.1014 冠婚葬祭 | 歴史・文明・文化 『冠婚葬祭の歴史』 互助会保証株式会社

2014.12.09

『冠婚葬祭の歴史』互助会保証株式会社・一般社団法人 全日本冠婚葬祭互助協会編(水曜社)を読みました。「人生儀礼はどう営まれてきたか」のサブタイトルがついています。

わたしのブログ記事「國學院大學オープンカレッジ特別講座」で紹介した講座で、互助会保証の藤島安之社長とわたしが登壇しました。本書はその日にちょうど刷り上がったばかりで、その1冊を藤島社長から頂いたのです。

表紙には、日の丸に水引、富士山に青海波。非常にシンプルで、センスの良さが光ります。執筆陣は、わたしが副座長を務めている「アジア冠婚葬祭業国際交流研究会」の学識者メンバーが中心で、山田慎也(国立歴史民俗博物館准教授)、田口祐子(國學院大學大学院特別研究員)、石井研士(國學院大學教授)、田中大介(桜の聖母短期大学キャリア教養学科准教授)、小谷みどり(第一生命経済研究所主任研究員)といった方々です。

本書の「目次」は、以下のような構成になっています。

「人生と儀礼―はじめに」

【冠】誕生と年祝い
●生まれ来る子と母の無事を願って
●出産の変化と儀礼の変化
●出産後の儀礼
●七五三
●大人になるということ――成人式
●厄年と記念日

【婚】夫婦となる
●古代の婚礼
●婿入婚から嫁入婚へ
●江戸時代の婚礼
●神前結婚式
●戦後の結婚式
●結婚式の現状

【葬】死と葬儀
●社会の変換装置とは
●葬送の歴史
●通夜
●葬儀と宗教
●葬列から告別式へ
●葬儀後の供養
●葬儀社の誕生
●ハードからソフトへ
●葬祭の産業化
●葬儀サービスの多様化
●未来を目指すための変化

【祭】記憶の中へ
●墓と火葬
●公園墓地の成立
●先祖をまつる
●墓地の継承と永代供養墓
●散骨・樹木葬
●自己決定と終活
●仏壇と手元供養

「あとがき」

「人生と儀礼―はじめに」では、山田慎也氏が「冠婚葬祭」について以下のように書いています。

「わたしたちは人生を送るなかで、節目ごとにさまざまな儀礼をおこなってきた。例えば、安産祈願やお七夜、お宮参りなどの出産や誕生に関わる儀礼、初節句や七五三、成人式など成長に関する儀礼、また夫婦となる結婚式、厄年の厄除けや長寿を祝う喜寿・米寿などの儀礼、そして死に際しては葬送儀礼などである。このような人の一生に関わる儀礼を『冠婚葬祭』とよぶことが多い。冠は元服つまり成年式であり、婚は結婚式、葬は葬儀であり、最後の祭は先祖の祀りであり単なる祭礼ではない。古代中国に起源があり古くは『冠・昏・喪・祭』と書いている。四大礼式として人生の大事な儀礼として位置づけられてきた」

このあたりの「冠婚葬祭」の見方は、拙著『決定版 冠婚葬祭入門』(実業之日本社)の内容にも通じます。
「冠婚葬祭」とは何でしょうか。「冠婚+葬祭」として、結婚式と葬儀のことだと思っている人も多いようです。たしかに婚礼と葬礼は人生の二大儀礼ではありますが、「冠婚葬祭」のすべてではありません。「冠婚+葬祭」ではなく、あくまで「冠+婚+葬+祭」なのです。

「冠」はもともと元服のことで、15歳前後で行われる男子の成人の式の際、貴族は冠を、武家は烏帽子(えぼし)を被ることに由来します。現在では、誕生から成人までのさまざまな成長行事を「冠」とします。  「祭」は先祖の祭祀です。三回忌などの追善供養、春と秋の彼岸や盆、さらには正月、節句、中元、歳暮など、日本の季節行事の多くは先祖を偲び、神を祀る日でした。現在では、正月から大晦日までの年中行事を「祭」とします。

そして、「婚」と「葬」があります。結婚式ならびに葬儀の形式は、国により、民族によって、きわめて著しく差異があります。これは世界各国のセレモニーというものが、その国の長年培われた宗教的伝統あるいは民族的慣習といったものが、人々の心の支えともいうべき「民族的よりどころ」となって反映しているからです。日本には、茶の湯・生け花・能・歌舞伎・相撲といった、さまざまな伝統文化があります。そして、それらの伝統文化の根幹にはいずれも「儀式」というものが厳然として存在しています。儀式なくして文化はありえず、ある意味で儀式とは「文化の核」であると言えるでしょう。

 福島県福島市松川町の嫁入りを紹介した「婚」のページ

 「長崎役人の葬列」を紹介した「葬」のページ

本書は非常に図版が豊富で、目で「冠婚葬祭の歴史」が俯瞰できます。特に、福島県福島市松川町の嫁入りを紹介した写真や、「長崎役人の葬列」(横浜開港資料館蔵)など、貴重な資料が満載。これだけビジュアル豊富な本が定価1000円とは信じられない安さです!

小倉紫雲閣を写真付きで紹介!

また、田中大介氏は、「死と葬儀」の中の「演出効果が求められる」の項で、わが社の小倉紫雲閣を写真付きで紹介しています。田中氏は、以下のように書いています。

「サービスの急激な拡大が、各種メディアで斎場戦争といわれるほど激化したのも事実である。とりわけ昭和53(1978)年に北九州市において、単なる『場所貸し』の枠を大きく超えた総合的なサービスを提供する葬儀会館が建設されてからは、各地で次々に同種の葬儀会館がオープンし、その規模だけでなく高級ホテルに匹敵するような便宜を互いに競いあうようになった。それはもちろん、商圏を維持、拡大するために葬祭業者どうしで鎬を削りあい、業界内部での苛烈な生存競争にますます拍車をかけるという事態へとつながったものの、その緊張感が『より細やかなサービス』や『消費者のニーズ』に対する意識を培ったことも否定できない」

これまでも、小倉紫雲閣は本格的な総合葬祭会館のパイオニアであるとされてきましたが、このような冠婚葬祭の歴史書において正式に紹介されることは誠に光栄なことです。

「あとがき」の冒頭には、以下のように書かれています。

「人は、この世に生を受けてから死に至るまで、各々の生活や暮らしのなかでさまざまな儀礼に出会い、また当事者、主役となる。それは人生の1つひとつの大切な節目として、自らを確認し、同時に生活する地域や社会から確認されるものである。その地域や社会の一員として、自分以外の他を確認することにも参画している。いわば、一人ひとりが生きていることの証しでもある。日本社会では、これを『冠婚葬祭』という四字熟語で表してきた。
冠婚葬祭は、古来、連綿と継続して執りおこなわれてきている。地域や社会の慣習、信仰、伝統、歴史などを受け継ぎながら、生活共同体が文化として生み出し、つくりあげてきているものである。時代環境は変わり、経済社会環境も日々変化するので、人々の儀礼への想いや社会が儀礼に求める意義づけも変化し、それにともない冠婚葬祭の形も内容もさまざまに変化し今日に至っている。一方で、その根幹を変えることなく今日に続くものもある」

また、「あとがき」には、以下のように本書の性格を説明しています。

「本書は、冠婚葬祭や民俗を研究してきている、大学や研究所の専門家の方々が、日本の冠婚葬祭、儀礼の変遷について、学問的研究を踏まえながら、わかりやすく著された原稿を1冊にまとめたものである。改めて、冠婚葬祭という、すべての人々が何らかの形で関わりを持ってきた営みをコンパクトにまとめることの困難さを実感させられた。しかし、儀礼を担っている事業者はじめ関係の方々はもちろんのこと、広く多くの方々の手にこれを取っていただいて、日本の冠婚葬祭について理解が深められ、これからの冠婚葬祭、人生儀礼を語る一助となるとすれば幸いである」

ところで、アマゾンのレビューの中に「日本の儀礼文化の変遷が学べる好著」として本書を絶賛しながら、以下のように評されたものが掲載されていました。

「”儀式なくして文化はありえず、ある意味で儀式とは『文化の核』”これは大手冠婚葬祭互助会の経営者にして作家の一条真也氏の至言。一条氏は著書『決定版 冠婚葬祭入門』において「冠婚+葬祭」ではなく、「冠+婚+葬+祭」というカテゴライズが重要だと力説されています。日本の儀礼文化を理解する上で、本書と一条氏の『決定版 冠婚葬祭入門』の併読を是非おススメしたい!」

ありがたいことですが、手前味噌ながら、わたしもこの2冊を併読すれば、より「冠婚葬祭」の全貌が理解しやすいのではないかと思います。

 ぜひ、2冊を併読していただきたい!

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