No.2492 ホラー・ファンタジー 『身から出た闇』 原浩著(角川ホラー文庫)

2026.08.23

『身から出た闇』原浩著(角川ホラー文庫)を読みました。著者は、1974年生まれ。長野県伊那市出身。2020年「火喰鳥」で第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞“大賞”を受賞。同作を改題した『火喰鳥を、喰う』でデビュー。同書はブログ「火喰鳥を、喰う」で紹介したように2025年10月に映画化されました。他の著作に「やまのめの六人」(KADOKAWA)、「蜘蛛の牢より落つるもの」(KADOKAWA)などがあります。

本書の帯

本書の帯には、「この本が出来上がるまでに、編集者が2人消えています」「“ホラー文庫”がなぜ30年以上生き残ってこられたのか、考えてみたことありますか?」とあります。


アマゾンより

カバー裏表紙には、「これは私が、角川ホラー文庫編集部から依頼を受けた連作短編集です。駆け出しの私に依頼が来るだけありがたく、最初は喜んで引き受けた作品でした。しかし、短編を提出するごとに、担当編集の休職が発生している以上、これを刊行するという編集部の判断が、正しいのか分かりません。※このあらすじは、原浩氏の強硬な主張により、挿入されたものです。編集部の意図とは相違があります。本作は、あなたが望んでいる作品です」とあります。

本書の「目次」は、以下のようになっています。
序章「角川ホラー文庫」
トゥルージー
  編集者との打ち合わせ(一)
裏の橋を渡る
  編集者との打ち合わせ(二)
らくがき
  編集者との打ち合わせ(三)
「籠の中」執筆に関わる一連の出来事
  編集者との打ち合わせ(四)
828の1
終章「角川ホラー文庫」

「トゥルージー」では、アプリに依存する女子高生たちの軋轢。「裏の橋を渡る」では、曾祖父の戦争の思い出と田舎の少女を見舞う悲劇をつなぐ橋。「らくがき」では、街の落書きの隠されたメッセージを探し続けるパワハラ社長。「籠の中」では、宅配業者が遭遇するエレベーターの呪い。「828の1」では、死期の近付いた老母が呟く意味不明な独り言。こういったものを描いた短編小説が5作収められていますが、どれも日常と地続きになっている怪異に主人公が引きずり込まれていきます。著者のストーリーテリングは秀逸で、どの話も怖かったです。

アマゾンより

序章「角川ホラー文庫」は、こう書きだされています。
最初の打ち合わせが行われたのは五月中旬のことだった。
 場所は新宿駅南口からほど近いホテルの二十階にあるカフェラウンジだ。いつも打ち合わせはKADOKAWAの会議室で行われることがほとんどだったので、こうした場所に集まるのは珍しいことだった。
 ラウンジに向かうと今井理央、和田京子といういつもの担当編集者ふたりに加えて、新顔の菰田千春という三名の編集者が待っていた。
(『身から出た闇』P.5)

本書がユニークなのは著者が1つの短編小説を書き上げた後に、編集者に必ず異変が起こることです。「トゥルージー」の後、それを読んだ今井の様子がおかしくなります。「裏の橋を渡る」の後、今井が消えます。「らくがき」の後で和田の様子がおかしくなり、「籠の中」の後に消えます。そして、「828の1」の後に菰田は消えませんでした。

終章「角川ホラー文庫」には、こう書かれています。
一九九三年に創刊された角川ホラー文庫は設立から三十年を越えた。出版不況が叫ばれて久しい中、これまで存続しているというのは間違いなく人気の長寿レーベルといっていい。それというのも菰田が話したように、三十年もの長きにわたり、ホラー作品を、怖い話を、望んでたまない存在がいるからだ。
 そしてそれらの欲求に応え続けねばならない重圧に晒されてきたのが、このレーベルの担当者たちである。より怖いものを。これまでになく恐ろしいものを。何よりもおぞましいものを、世に放たなければならない。
 長きにわたってこのレーベルに向けられた恐怖を望む禍々しい願いは、時間の重さに圧縮され、幾重にも連なる地層のように編集部に集積されている。そこで働く人々は特別な人間なのだ。
(『身から出た闇』P.305~306)

そんな特別な人間たちが次々に消える。しかも、その原因は彼らが消える直線に読んだ怖い小説にある。このアイデアはなかなか新鮮で唸りました。現在、モキュメンタリー・ホラーが全盛ですが、本書はリアルタイムの編集者との打ち合わせまでをも怪異に取り込んだ新感覚ホラー・エンターテインメントでした。面白かったです!