No.1118 国家・政治 | 日本思想 『日本がつくる新たな世界秩序』 渡部昇一著(徳間書店)

2015.09.18

『日本がつくる新たな世界秩序』渡部昇一著(徳間書店)を紹介します。
著者が徳間書店から毎年出しているシリーズ本の1冊で、著者がホスト役を務めているトーク番組で取り上げた話題を中心に書かれたとのこと。
『昭和天皇実録』をはじめ、高円宮典子女王と千家国麿氏の婚礼、朝日の誤報「謝罪」記事、韓国のセウォル号沈没事件などの時事的な話題が著者独自の視点で語られています。

本書の帯

帯には著者の顔写真とともに「中韓との歴史決戦、テロとの戦い、憲法改正・・・・戦後70年、『覚醒する日本』が世界を変える!」と書かれています。
また、帯の裏では以下のように[本書の内容]が紹介されています。

◎次第に消えつつある日本の「歴史の傷」
◎中国「抗日戦争勝利70周年」の大ウソ
◎「イスラム国」問題で露呈した日本の限界
◎「東京はホロコーストされた都市」と主張せよ
◎瓦解する日本の「ジャパノフォビア(日本嫌い)」勢力
◎「成功した移民国家」とは先住民が移民に征服された国
◎日本はグローバル化や観光立国を目指してはいけない
◎これから急変する東アジア情勢に備えよ ほか

本書の帯の裏

本書の「目次」は以下のようになっています。

第一章 戦後七十年、歴史戦に勝利する日本
第二章 「新たな世界秩序」への戦いが始まる
第三章 瓦解する国内の反日勢力
第四章 急変する東アジア情勢に備えよ
第五章 国難を排し、立ち上がる日本
「あとがき」

第一章「戦後七十年、歴史戦に勝利する日本」では、2014年8月に昭和天皇の87年余の御生涯を記録した『昭和天皇実録』が今上天皇および皇后さまに提出されたことに触れつつ、著者は以下のように述べています。

「昭和天皇の『昭和』という時代は、わが国はじまって以来、例のない悲劇の時代でありました。それというのも――日本は、伝説によれば神武天皇以来2600年以上の歴史を有しておりますが、外国の支配を受けたことはただの一度もありませんでした。ところが昭和20年に大東亜戦争に敗北したため、わずか7年前後のあいだとはいえ、占領軍の支配を受けたのであります(昭和20年~昭和27年)」

また、高円宮典子女王と千家国麿氏の婚礼についても言及し、著者は以下のように述べています。

「いまでもトロイが王国として残っていて、そこにはお姫さまがいる。一方、アガメムノンにもミュケナイあたりに子孫がいて大きな宮殿に住んでいる。そこの息子がトロイのお姫さまと結婚した、と、まあ、こんな話になりますが、いったい、そんなことがありうるでしょうか。荒唐無稽すぎて想像もできません。ところが日本では、そうした話が文献のみならず神社というかたちで残っていて、しかもその子孫が現実にもご結婚されたというのですから、これはまったく世界に類例がありません」

「『天孫降臨の神勅』が予言した国の弥栄」も興味深い話です。
「天孫降臨の神勅」とは、著者が学んだ国民学校(現在の小学校)の5年生から始まった「国史」の授業の教科書に最初のページに掲載されていたもので、生徒たちはそれを暗唱させられたそうです。その内容は以下の通りです。

「ニニギノミコトが高千穂の峰に降臨して行くとき、アマテラスは『八坂瓊の勾玉』と『八咫の鏡』、それに『草薙の剣』をもたせてあげました。これが三種の神器です。つまり、この三種の神器の所有者こそがニニギノミコトの子孫である、いいかえれば天皇だということになるのです」

続いて、著者は以下のように述べています。

「大東亜戦争の末期、いかに米軍の空襲がひどくなろうと、昭和天皇は皇居をお離れになりませんでした。それは天皇であることの証しとなる三種の神器の一つである勾玉をお守りになるためであった、という説がありましたが、それほど三種の神器は大切なものなのです(ちなみに八咫の鏡は伊勢神宮に、草薙の剣は熱田神宮に祀られております)」

第三章「瓦解する国内の反日勢力」の冒頭の「『ジャパノフォビア』たちの大罪」として、「日本の名誉を回復するための歴史戦は、中国や韓国、さらには欧米に対して行うだけではまだ不十分です。国内にいる反日勢力、いわゆる『ジパノフォビアの日本人』(日本嫌いの日本人)を一掃する必要があります」と記されています。
「ジャパノフォビア」の代表ともいうべきメディアが朝日新聞です。
朝日新聞社の大罪については、この読書館でも紹介した著者の『朝日新聞の私の40年戦争』に詳しく書かれていますので、そちらをお読み下さい。

「従軍慰安婦報道」にしろ「南京大虐殺報道」にしろ、事実とは著しく喰い違った嘘報道です。著者は以下のように述べます。

「いま日本政府を苦しめている大きな問題、すなわち『慰安婦問題』と『南京虐殺問題』は、2つとも朝日新聞の過剰報道がなかったら、これほどまでの騒ぎにはならなかったはずです。その意味でも、朝日新聞が犯した『罪』はやはり重いといわざるをえません」

著者は、次のように確固とした信念をもって読者に訴えます。

「日本軍の名誉のためにいっておけば、日本軍は意識的に民間攻撃をしたことはありません。パールハーバーの爆撃にしても、狙ったのは軍艦だけです。特攻も軍艦だけしか狙っていません。アメリカの東京大空襲のように市民殺害を目的に都市を無差別攻撃したことは一度もないのです」

本書の内容は「まったく、その通り!」と声をかけたくなるようなものばかりなのですが、珍しく著者の考えとは少し違う箇所もありました。それは「観光立国」についてのくだりです。著者は「私は『観光立国』ということを疑問視しています」と書いているのです。
日本政府観光局(JNTO)は、2014年の訪日外国人観光客の数が1300万9千人を記録したと発表しました。2013年、初めて1000万人を超えたばかりですから、この伸びは目を見張らんばかりの数字です。さてそこで、この数字をさらに伸ばそうというのが「観光立国」構想です。 しかし著者によれば、観光立国にはさまざまな懸念がまとわりついているとして、以下のように述べます。

「第一は、犯罪が増える恐れです。日本の治安がどんどん低下しているところへもってきて、日本にやってくる外国人がみな善良であるはずもないからです。それを考えると、治安維持がかなり心配になってくるのです。また観光客が増えれば、その分、不法残留者も増えることでしょう。『スパイ天国』といわれる日本では、そうした残留者のなかにスパイがいないか、そんな心配もしなければなりません」

続いて、第二の不安点を以下のように述べています。

「第二に、外国からお客さんがドッと来て国の体質がガラッと変わってしまうこともありえます。その国のよき伝統が変質してしまう恐れがあります。じっさい、ギリシャやイタリアのように観光立国した国は次第に二流国、三流国に下がっています。
ひとつの国が観光に重きを置かなければならないというのは、じつは情けない話なのです。イギリスが栄えていたとき観光政策をやりましたか。アメリカだって栄えたときは絶対に『観光』などとは言いませんでした」

「現代の賢人」を前にして恐縮ですが、この発言には少々違和感があります。
わたしは観光協会の理事なども務めていますが、日頃より「観光」というものに最大の価値を置いている人間です。
「観光」とは、もともと古代中国の書物である『書経』に出てくる「観國光」という言葉に由来します。「國光」とは、その地域の「より良き文物」や「より良き礼節」と「住み良さ」を指します。すなわち観光とは、日常から離れた異なる景色、風景、街並みなどに対するまなざしに他なりません。どんな土地にも、その土地なりの光り輝く魅力があります。そして、観光とは文字通り、その光を観ることなのです。

『決定版 おもてなし入門』(実業之日本社)

そして、「観光立国」としての日本を考えた場合、自然や神社仏閣などの名所ももちろん大事ですが、何よりも日本人の「こころ」が光を放つと思っています。その光を「おもてなし」といいます。
日本人の”こころ”は、神道・仏教・儒教の3つの宗教によって支えられています。日本の冠婚葬祭の中では、それらが完全に共生しています。また、日本流「おもてなし」にもそれらの教えが入り込んでいます。例えば、神道の「神祭」では、物言わぬ神に対して、お神酒や米や野菜などの神饌(しんせん)を捧(ささ)げます。この「察する」という心こそ、「おもてなし」の源流といえるのではないでしょうか。また、仏教には無私の心で相手に施す「無財の七施(しちせ)」があります。さらに前述した「礼」は儒教の神髄そのものです。これらすべてが、日本の「おもてなし」文化を支えています。
詳しくは、拙著『決定版 おもてなし入門』(実業之日本社)をお読み下さい。

「あとがき」では、「リビジョニスト」という言葉がキーワードとなります。
リビジョニストというと、ネオ・ナチ主義者などと同一視されるそうですが、本来は歴史を見直そうという意味であり学問的にも正しいそうです。要するに「歴史修正主義者」といったような意味なのです。マッカーサーは、米国上院軍事外交委員会において「日本は侵略ではなく自衛の為に戦争をしたのであって東京裁判は間違いだった」と発言しています。
いわゆる「マッカーサー証言」です。著者は日本人がリビジョニストにならなければならないと訴えます。なぜならば、「マッカーサー証言」を多くのアメリカ人が知らないからです。それをアメリカ人に広く知らせる必要があります。

しかしながら、アメリカ人だけでなく、当の日本人が「マッカーサー証言」を知りません。それゆえに、今でも日本が侵略国家であると思い込まされているのが現状です。著者は、すべての日本人に対して次のように訴えます。

「日本が独立国としての誇りを持ち、他国につけ込まれないようにするには、東京裁判から自由にならなければならない(本当はサンフランシスコ平和条約はそのようなもののはずであったが、日本では外務省でさえこの点を軽視してきた)。日本人全員が、この東京裁判の不当性、無効性を知らなければならない。つまり日本人は全員リビジョニストにならなければならないのである」

最後に著者は、「マッカーサーは東京裁判に対する、最大・最高・最有力なリビジョニストである」と喝破しています。

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