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No.1465 哲学・思想・科学 『宇宙には、だれかいますか?』 佐藤勝彦監修、縣秀彦編集(河出書房新社)
2017.08.07
『宇宙には、だれかいますか?』佐藤勝彦監修、縣秀彦編集(河出書房新社)を読みました。「科学者18人にお尋ねします。」というサブタイトルがついています。この読書館では『宇宙が始まる前には何があったか?』、『宇宙には「終わり」はあるのか』に続く「宇宙」本のご紹介ですが、「宇宙の始まり」と「宇宙の終わり」と並ぶ疑問といえば、もちろん「宇宙の住人」です。
本書の帯
カバーにはタイ王国の漫画家であるウィスット・ポンニミットのSFチックなイラストが描かれ、帯には以下のように書かれています。
「生物学、化学、物理学、生命科学、天文学・・・・・・各分野のトップランナーが集結。最新成果をもとに、究極の謎に出した答えとは―。」
「●科学者自筆の宇宙人イラストも収録!」
本書の帯の裏
この本、「週刊文春」で立花隆氏が紹介していたので読んだのですが、非常に面白かったです。もともとSF映画が大好きなわたしにとって、異星人が地球を訪れる話、地球人が他の惑星で知的生命に遭遇する話は親しみのあるものです。今年の5月にも、「一条真也の映画館」で紹介したSF映画「メッセージ」を興味深く観ました。
「はじめに」の冒頭で、本書の監修者であり、東京大学名誉教授(宇宙論、宇宙物理学)の佐藤勝彦氏は「アストロバイオロジーという新しい学問」として、以下のように述べています。
「地球外の宇宙に生命はいるのだろうか? さらに人間のような知的生命、宇宙人はいるのだろうか? この疑問はこの本を手に取られている方々をはじめ、年齢や性別にかかわりなく多くの方々が抱いているものです。今、太陽系内の惑星や、またその衛星の探査が米国NASAをはじめとする宇宙研究機関によって進められ、火星はもちろん木星の衛星、エウロパやガニメデ、土星の衛星エンケラドス、タイタンなどに生命の存在、もしくは過去に存在した痕跡がまもなく見つかるのではないかと期待が高まっています」
また、佐藤氏は以下のようにも述べています。
「電波観測で地球外知的生命体探査、SETI(Search for Extraterrestrial Intelligence)が始まったのが1960年、それから60年近い年が経ちましたが、宇宙の広さから考えるなら限られた領域しか探査できておらず、残念ながらそれらしい信号は受信されていません」
さらに佐藤氏は、新時代の学問である「アストロバイオロジー」について、以下のように述べています。
「宇宙における生命の研究は、英語のカタカナ表示で『アストロバイオロジー』と呼ばれています。旧来の狭い学問分野ではカバーできない分野融合の新分野研究です。この分野の研究者はもともと天文学、惑星科学、生物学、化学、地球科学、工学などの分野で活躍してきた研究者で、新たに参入してこられた方がほとんどです。これからもいろんな分野から参入が続くでしょうし、また初めての研究としてアストロバイオロジーを始める若手研究者も今後増えることでしょう」
そして佐藤氏は、本書の目的について以下のように説明します。
「この本は、このような現状の中で、アストロバイオロジーの研究をすでに始めておられる研究者や、またその周辺の研究者で宇宙における生命研究に興味を持っておられる研究者に、地球外生命体、知的生命体に対するお考えなどを8題の質問にしてインタビューさせていただき、もしくは自ら執筆していただき、お答えいただいたものを収録したものです。それぞれ異なった研究分野で活躍されていたので、研究の内容が異なるだけでなく、宇宙生命に対する考え方も、研究を進める哲学も文化も異なります」
「我々の将来を、宇宙に探る」として、佐藤氏は述べます。
「知的生命体は宇宙の仕組みを知ることができるだけではなく、自由に自分の行動を決めることができます。つまり自由意思を持ちます。しかし、宇宙のあらゆる運動が物理学の法則で定められるのなら、自由意思が入り込む余地はありません。もちろん現在の物理法則は、確率的にしか時間発展を予言できない量子論に従っています。したがってあらゆる出来事は確率的にしか予言はできませんが、それでも出来事を生命が勝手に決める自由はないはずです。また勝手に出来事を決める主体というのも物理法則外のものです。物理学者の中には『自由意思は、実は幻想にすぎないのではないのだろうか?』と疑う人もいますが、しかし今この本を開いている方の中で、自分自身が、例えばこの本はもう読まないと閉じてしまう、もしくは読み続けるかを決定する自由がないなどと考える方は誰もいないでしょう。自由意思の問題は自然哲学の未解決大問題と考えられています」
そして、人間について、佐藤氏は以下のように述べるのでした。
「自由意思と自我を持つ人間は、宇宙の中で作られる最高の物質の構造物ではないでしょうか。このようなすばらしい構造物が、熱い火の玉のガスが冷えるだけで生まれてくることに感嘆してしまいます。今、21世紀初めに、私たちは”地球”は宇宙に満ち溢れていることを知りました。単純に考えるなら宇宙は生命、さらには知的生命体に満ち溢れていることになりますが、生命の発生確率、知的生命体への進化の確率が極端に小さく、宇宙に満ち溢れている”地球”の数をかけても1程度の値か、それ以下かもしれません。また、よく言われているように知的生命体の社会は不安定で、高度な文明を持つ段階になると自滅するのかもしれません。国際紛争が絶えず、テロが頻発し、移民を排斥し自分の国さえよければよいという国際社会の今の流れを考えると、その可能性を否定することはできません。宇宙における生命を考え、研究することは私達人類の宇宙における位置を知るだけでなく、将来を探ることでもあるのでしょう」
本書では、18人の科学者に共通して以下の質問をしています。
Q1 ご研究内容について教えてください。
Q2 「生命の定義」について、独自の見解を教えてください。
Q3 地球外生命はどこから来たのでしょう?
Q4 地球外生命が発見されるのはどんな所でしょうか?
Q5 どうすれば地球外”知的”生命体を発見できるでしょう?
Q6 知的生命体が見つかりました。どういうアクションをしますか?
Q7 知的生命体がいる世界には、どんな社会があると思いますか?
Q8 人類は、太陽系を超えて天の川に広がりうる生命でしょうか。
この中で、わたしの興味のあるものに限って好奇心を大いに刺激された回答をご紹介したいと思います。
まずはQ2「『生命の定義』について、独自の見解を教えてください」です。
須藤靖(東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授)氏は、地球外生命の存在証拠について以下のように述べています。
「やはり一番確実なのは、高度に発達した知的生命からの信号です。現時点では、そのような可能性はSFでしかないのも事実ですが、万が一それを受け取ったとすれば、極めて直接的な証拠と言えます。米国の惑星科学者、カール・セーガンは、太陽系外惑星が知られていなかった1993年、惑星探査機ガリレオが地球の周りをスイングバイした際、地球に対して模擬生命探査を行いました。そして大気中に大量の酸素が存在する、反射光が植物のレドエッジに対応する波長依存性を示す、自然現象では説明できない人工的電波信号が発せられている、という3点から、彼は『地球には生命が存在する』と結論づけたのです。もちろんその結論ではなく、太陽系外惑星が発見されていなかったこの当時、生命探査の方法論の有効性を証明した点において、極めて先駆的な研究でした」
次に、Q4「地球外生命が発見されるのはどんな所でしょうか?」です。
井田茂(東京工業大学地球生命研究所[ELSI]教授・副所長)氏は、以下のように答えています。
「私たちが気をつけなくてはならないのは、漠然としたイメージで『第2の地球』といった言い方をしてはいけないということです。それはあまりにも地球に縛られた考え方です。何が本質的に必要なのか、どんなところにそれを満たす環境があるかを考えていかなければいけません。人間中心主義、地球中心主義、太陽系中心主義というようなものに、人は縛られてしまいますが、天文学やアストロバイオロジー(宇宙生物学)の世界では、ずいぶん前に地球中心主義から脱して、考え方も変わっています」
Q5「どうすれば地球外”知的”生命体を発見できるでしょう?」では、3人の科学者の意見が興味深かったです。最初は、長沼毅(生物学者/広島大学大学院生物化学研究科教授)氏が以下のように答えています。
「太陽系内で地球外生命を見つけるよりも、系外惑星で知的生命体とコンタクトするほうが早いでしょう。1977年にSETIでWow!シグナルという電波を受信したのは大きいと思います。Wow!シグナルを発信した宇宙人は、全宇宙に向けて四方八方に強力な電波シグナルを打った。その1つの方角に地球があったのでしょう。当時の地球の文明レベルでは、どの星から来たかを特定することはできませんでしたが、当時すでに科学が十分に発達している文明があれば、どこかで返信がされているかもしれません。あるいは『我々も自分たちの存在を、全宇宙に知らしめたいじゃないか』と、思う知的生命もいそうです。地球人は残念ながら、全宇宙に発信できるほどのエネルギーは未だ持ち得ていません。今、人間が使用している全エネルギーを1秒で放出するくらいでないと、宇宙規模にはならないでしょう。つまり、文明の発達度合いとは、使えるエネルギーの大きさなのです」
Q5の2人目の回答者は、堀安範(自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター特任助教)氏で、以下のように答えています。
「知的生命が集団で生きるためにはコミュニケーションが必要です。でなければ、個の生き物の集合体になりますが、その先に繁栄の未来が待ち受けているようには思えません。とすると、なんらかの意思伝達・情報共有の手段を持ち合わせているはずです。コミュニケーション手段には音や光を使うのではないかと思っています。なぜなら、どの世界でも星が見えているはずで、常に身近にある、光を武器にするでしょう。また、声、音、超音波の共通点は振動です。例えば、大気中でモノが振動すれば、音が鳴ります。言い換えると、大気が存在して、なんらかのものが周囲に存在すれば、その生き物も音を認識すると思います。音と光、その2つは、知的生命探しのポイントになるのではないかと思っています。少し話はずれますが、僕らに光の概念が生まれたのは、昼と夜があることが関係しているような気がしています。ずっと夜だけの世界が続く惑星も無いわけではありません」
Q5の3人目の回答者は、矢野創(JAXA宇宙科学研究所学際科学研究系助教)氏で、以下のように述べています。
「人類が歴史上最初に出会う『地球外知的生命体』は、人類の子孫だと私は考えています。『地球人』とは、『地球で生まれて地球で死ぬ人間』と定義できます。たとえばスペースX社CEOのイーロン・マスク氏と一緒に何百人もの人々が片道切符で火星へ行った場合を考えてみましょう。まずは移民した『地球人』のコロニーが作られますが、そこで子どもが生まれれば、火星を故郷に持つ人間としてのアイデンティティを持つ。そして火星で生まれた者同士で新たな生命を育み、自らの遺伝子を次世代に伝える。やがて火星の地で死ねば、その人は『火星人』として一生をまっとうするわけです。この人こそ、地球人が最初に遭遇する地球外知的生命体だと思います。ですので、『火星に人を送って、子どもを生む』が、私の答えです」
Q6「知的生命体が見つかりました。どういうアクションをしますか?」は、わたしの最も心惹かれる質問です。4人の科学者の回答が印象的でした。
1人目の高井研(海洋研究開発開発機構
深海・地殻内生物圏研究分野分野長)氏は、以下のように述べています。
「以前、異星人とのコンタクトは文化人類学的な側面をもつと、ある方に言われてまったくその通りだと思いました。生命の比較を通して我々が共通の生命を知ることができるのと同じで、地球外生命がいるなら、知性とは、文化活動とは、ということも知ることができる。そうすると、アストロバイオロジーの中に社会科学などの人文系の学問も必要になってくるでしょう。初めて出会う異邦人と、どう付き合っていくのか。我々がいま生きているこの世界についてのシステムを理解しようとする中に、地球外生命とのコンタクトは、学ぶところがあるということです。知性があるからと言って文化を持つとは限りません。そういう本質的なところが理解できるわけです」
「異星人とのコンタクトは文化人類学的な側面をもつ」とは、まさにその通りだと思います。「メッセージ」にも、アボリジニに最初に遭遇した人類学者が「カンガルー」という言葉を知るというエピソードが登場します。
2人目の成田憲保(東京大学/自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター助教授)氏は、以下のように述べています。
「いきなり来られたり、行くのは危ないと思います。まずは意思の疎通ができるように準備することが必要。ですから電波放送や意図的な信号というのを見つけ、それをちゃんと解釈できるように、宇宙の言語を学問として発展させる必要があると思います。現在は宇宙生物学(アストロバイオロジー)ですが、仮に地球外知的生命の存在が一般化すれば、次に発展すべき学問は宇宙言語学ではないでしょうか。そういうコミュニケーションを取れる方法を編み出す、学問を発展させることをまじめにやらないと、まさにSFのような戦争になるかもしれません」
3人目の縣秀彦(自然科学研究機構国立天文台准教授)氏は述べます。
「交信手段としては、ホログラフィでコミュニケーションをとると思います。Skypeのようなテレビ会議は今の知的レベルではすでに当たり前ですから、地球外知的生命体もきっと同様に使いこなしていることでしょう。地球人は文明を持って、たかだか4000~5000年。電磁波を使って通信ができるようになってまだ100年。宇宙においては幼稚園児か小学生レベルの新参者です。私は我々よりも圧倒的にレベルの高い生命が宇宙にいると期待しています。相手について言えば、地球でも人工知能がこれだけ進んで来ていますから、もしかしたら私たちがメッセージを送った先にいるのは生身の生き物ではなく、人工知能のような存在のみかもしれませんね。もしそうであっても、彼らを知的コミュニケーションができる他者として認めざるを得ないと思っています」
そして4人目の山岸明彦(東京薬科大学生命科学部応用生命科学科教授)氏は、以下のように述べます。
「1年間、相手の星の教育テレビを傍受するのはどうでしょう。地球でもたくさんの番組を放映していますが、たとえば他の国の法律を知りたかったら、その国の法律の教育番組を見るのが1番いいでしょう。語学だって、初等から高等までやっています。そうやって見て行くと、語学、数学、社会、物理、生物、進化や哲学、すべて学ぶことができます」
これまで異星人と地球人の邂逅を描いたSF映画は多く、「宇宙戦争」(1953)、「2001年宇宙の旅」(1968)、「コンタクト」(1997)などの名作があります。そして、異星人とのコミュニケーションといえば、なんといってもスティーヴン・スピルバーグ監督の「未知との遭遇」(1977)を思い出します。世界各地で発生するUFO遭遇事件と、最後に果たされる人類と宇宙人のコンタクトを描いたSF映画史上に残る作品です。
Q7「知的生命体がいる世界には、どんな社会があると思いますか?」では、4人の科学者の回答が興味深かったです。最初の小林憲正(横浜国立大学大学院工学研究院教授)氏は、以下のように述べています。
「我々が宇宙で1番高いレベルであるはずはないと思います。私たちはどうしても1番でありたがる。自分中心で考える。でもそういうことは、1つずつ崩されてきたわけです。地球は太陽系の真ん中ではないし、太陽系は銀河系の真ん中でもない。それを拡張すると、我々は最高ではないと思っています。逆に、我々地球生命が最高だと思う人は、自分の国が最高だ、自分の宗教が最高だ、などと考えて、戦争に走っていきます。そこに落ち込む文明は、絶対に長持ちしません。長く続いた文明のところでは、彼らは自分たちが最高ではない。それがわかっている文明だと思います」
次に、丸山茂徳(東京工業大学地球生命研究所[ELSI]特命教授)氏は「生命の進化の本質は、微生物の世界においてさえ弱肉強食です。人間を含めた地球生命も、地球外の知的生命もそれは同じだと思います」と述べています。
2人目は山岸明彦(東京薬科大学生命科学部応用生命科学科教授)氏で、以下のように述べています。
「おそらく、すでにロボットになっていると思います。知的生命体がいる社会、それは1つには、ロボットがロボットを作る世界です。地球では、まだデザインは人間が担っていますが、様々な機械はロボットが生産していますし、様々な機械の中には人工知能が入ってどんどんロボットになりかかっています」
3人目は堀安範(自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター特任助教)氏で、以下のように答えています。
「知的生命が社会を作っているということは、僕たちの歴史を振り返ると、2つの世界しかありませんでした。1つはリーダーが率いるピラミッド社会。もう1つは皆で仲良く手を繋いで共存する平等社会。大別するとそのどちらかですが、動物の世界では強い者が頂点に立ち、強いものの子孫を残すという仕組みが見られるように、リーダーがいる縦型社会の方がうまく機能するのかもしれません。知的生命の社会を見た時、手を繋いで平和に、という社会は多くないのかもしれません。今の地球の人間社会と同様に知的生命の社会構造でもリーダーがいるのかもしれませんね。そのリーダーが国王や皇帝のような絶対的君主タイプなのか、大統領や首相のような指導者タイプなのか、はたまた独裁者タイプなのかはわかりませんが」
そして4人目は鳴沢真也(兵庫県立大学西はりま天文台天文科学研究員)氏で、以下のように述べています。
「ホモ・サピエンスが文明を持てた理由の1つに、閉経後も長生きをする女性の存在が可能性として提唱されています(おばあさん仮説)。娘や嫁の育児を手伝い、育児などで必要な生活の知恵を伝えることができるからというものです(この説には反論もあります)。
また酒の存在が文明をもたらせたという説さえあります。飲酒のおかげでコミュニケーションが円滑にできたからだという理由です。これらの真偽は私にはわかりませんが、もしこれらが本当であるとすれば、地球外知的生命もエチルアルコール水溶液(または類似の効果が期待できる物)を摂取する習慣を持ち、おばあさんも存在していることでしょう」
最後のQ8「人類は、太陽系を超えて天の川に広がりうる生命でしょうか」では、3人の科学者が興味深い回答を寄せています。
1人目の井田茂(東京工業大学地球生命研究所[ELSI]教授・副所長)氏は、以下のように答えています。
「生命の本質は情報である、と考えるなら、光が届く範囲はどこまでも広がって行くでしょう。我々の体を作っている細胞は有限で死んでしまいますが、生殖細胞は永遠の命を持っています。それは極論すれば情報です。そうだとすると、その情報は別にどこへでも飛ばせます。遺伝子情報を圧縮し、そのデータを転送すればよいと考えれば、光のスピードでどこまでも飛んでいきます」
また2人目の須藤靖(東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授)氏は、以下のように述べています。
「50億年たつと太陽は赤色巨星となり、地球を飲み込むほどの大きさになるはずなので、地球は最終的にはなくなってしまうでしょう。そのような事態を前にすれば、人類は必ず宇宙進出を果たして生き延びるはず(べき)だという人もいます。ただ私の哲学としては、その時は観念して諦めるべきではないかとも思うのです。少なくとも、この地球を後にして別の惑星で生き延びるという意見には同意しません。この宇宙のあらゆる天体は、誕生してやがて死んでいきます。しかしその最期に放出する物質が次世代の天体の原材料となっていきます。これは宇宙における物質循環という科学的な話ですが、ある意味では天体の輪廻でもあります。このような自然の宿命を超えてまで生き延びようとするべきではないのでは、というのが私の価値観です」
そして3人目の丸山茂徳(東京工業大学地球生命研究所[ELSI]特命教授)氏は、以下のように述べます。
「人類の最終的な役割は、人工生命体をつくることになるでしょう。すでに、我々は様々な部分で機械などに頼っています。車やコンピューターが発明され、人類社会は非常に豊かになりました。こうした技術的発展は加速度的に進み、複雑なロボットも開発されています。今後は、限りなく人間に近い働き手としてのロボットが多く生産され、人間が担っているほとんどのものは代替可能になるでしょう。また、現在では、人工知能の研究も進んでいますから、この流れは今後も加速していきます。いずれは、ロボットが自分自身を修理したり、自己複製可能な人工生命体が誕生するはずです。ここまでが地球生命の果たす役割になると僕は考えています。人工生命体には、寿命という観念はもはや存在しないはずです。そして、その時には、人工生命体は時を超えて宇宙に拡散する生命体となり、新たな時代が始まるでしょう」
これまではほとんどSFの世界に属する質問に現役の科学者たちが大真面目に答える本書は、知的好奇心を大いに刺激する面白い読み物でした。
また、アストロバイオロジーをはじめとして、最新の宇宙に関する科学理論に触れることができて、大変勉強になりました。ますます、宇宙が大好きになりました!