No.1474 国家・政治 | 社会・コミュニティ 『縮小ニッポンの衝撃』 NHKスペシャル取材班著(講談社現代新書)

2017.08.25

『縮小ニッポンの衝撃』NHKスペシャル取材班著(講談社現代新書)を読みました。2016年9月25日に放映されたNHKスペシャル「縮小ニッポンの衝撃」の取材内容をさらに克明に記しています。この読書館でも紹介した『無縁社会』『老人漂流社会』もNHKスペシャルの番組内容を単行本化したものでしたが、本書もその流れの中にあります。本書には、まさに「絶望」しか感じられないような事実が書かれています。

本書の帯

本書の帯には「2060年までに、日本の人口は約30%減少する!」(国立社会保障・人口問題研究所の2017年低位推計)として、日本列島の姿が赤で描かれています。また、「『人口急減社会』で実際に何が起こるのか?」として、以下の記述が並んでいます。

●人口増加中なのに消滅? 東京・豊島区の衝撃予測
●税収8億円で毎年26億円返済
過酷な財政再建に苦しむ 北海道・夕張市
●70代住民が公共サービスの担い手 島根・雲南市
●行き当てのない遺骨を大量に抱える 神奈川・横須賀市

本書の帯の裏

本書の「目次」は、以下のような構成になっています。

プロローグ
第1章 東京を蝕む一極集中の未来
23区なのに消滅の危機(東京都・豊島区)
第2章 破綻の街の撤退戦(1)
財政破綻した自治体の過酷なリストラ(北海道・夕張市)
第3章 破綻の街の撤退戦(2)
全国最年少市長が迫られた「究極の選択」(北海道・夕張市)
第4章 当たり前の公共サービスが受けられない!
住民自治組織に委ねられた「地域の未来」(島根県・雲南市)
第5章 地域社会崩壊 集落が消えていく
「農村撤退」という選択(島根県・益田市、京都府・京丹後市)
エピローグ 東京郊外で始まった「死の一極集中」(神奈川県・横須賀市)

プロローグの冒頭は「「私たちが生きる日本。これから先、どんな未来が待っているのだろうか」という書き出しで、続いて述べられています。

「2016年に発表された国勢調査(平成27年度)によると、我が国の総人口は1億2709万人となった。5年前の調査と比べて、96万2667人の減少である。『人口減少』と言われて久しいが、実は、大正9年(1920年)の開始以来100年近い国勢調査の歴史上初めて日本の総人口が減少に転じた、ひとつの大きな節目であった。今回、大阪府も初めて『増加』から『減少』に転じるなど、全国の実に8割以上の自治体で人口が減少した。しかも、減少の幅は拡大傾向にある。私たちがこれから経験するのは、誰も経験したことのない『人口減少の急降下』だ」

明治維新が起きた1868年、日本の人口は、わずか3400万人あまりでした。その後、医療・衛生状態の改善や食生活の向上、経済成長によって、昇り竜のような勢いで増え続けてとして、以下のように書かれています。

「いま私たちが立っているのは、急上昇してきた登り坂の頂上をわずかに過ぎたあたり。ジェットコースターで言えば、スピードがゆっくりになり、これから先の凄まじい急降下を予感させる不気味な『静』の時間だ。この先には、目もくらむような断崖絶壁が待ち受けている」

続けて、「2017年に発表された最新の予測では、人口減少のペースが若干弱まってはいるものの基調はほとんど変わっていない」として、以下のように書かれています。

「国立社会保障・人口問題研究所は、出生率や死亡率の高低に応じて3パターンの予測値を発表している。真ん中の中位推計では、2053年には日本の人口は1億を切り、2065年には8808万人になるという。これから約50年間で実に3901万人の日本人が減少することになる」

しかも、人口減少と並行して、急速な高齢化が進みます。

「日本は既に15歳未満の人口割合は世界で最も低く、65歳以上の割合は世界で最も高い水準にあるが、これから8年後の2025年には、日本は5人に1人が75歳以上の後期高齢者が占める超高齢社会に突入する。これらは国が想定する未来図であり極端な悲観論ではない。日本社会は、これから世界で誰も経験したことのないほどのすさまじい人口減少と高齢化を経験することになる」

「縮小ニッポン」の未来図を見つめていくための舞台として、NHKスペシャル取材班が選んだのが「地方自治体」でした。こう書かれています。

「日本国民としてどこに住んでいても一定以上のサービスの提供を受けることは、憲法で守られた私たちの権利だ。しかし、この当たり前のことが実現困難になっている。いち早く人口が減少した自治体では税収の減少と住民の高齢化にともなう社会保障費の増大で財政が逼迫し、これまで提供してきた住民サービスの見直しを余儀なくされている」

上下水道、ゴミ収集、学校、公共住宅、公民館や図書館など、これまで当たり前に提供されてきた公的サービスがある日突然停止される。そんな事態は想像しただけでも悪夢のようですが、現実に北海道・夕張市で起ったことなのです。本書に書かれている夕張市の過酷な現状には暗澹たる気分になりました。負の遺産を背負った市民も、あえて苦境に飛び込んだ市長にも同情の念を禁じ得ません。ただ、憲法で守られている権利さえ受けられないような非常時においては、地方自治体ではなく国がサービスを提供すべきであると思います。

本書にはこれまで知らなかった人口急減社会の真実が「これでもか!」とばかりに描かれていますが、エピローグ「東京郊外で始まった『死の一極集中』(神奈川県・横須賀市)」では、行く当てのない遺骨を大量に横須賀市が抱えていることが明かされています。さらには、「東京・死の一極集中」として、以下のように書かれています。

「真面目に生きてきた人が、誰にも看取られることなく亡くなり、無縁仏にさえなれない時代。東京の見えないところで単身高齢化が進行し、今や誰もがそうならないと言い切れなくなっている。今は家族のある人でさえ、離婚や伴侶との死別でひとたび独り身になれば、同じ境遇に陥りかねない。そんな危険がすぐそこまで追ってきているのである」

また、2025年には「団塊の世代」が一斉に75歳となり、2200万人、じつに5人に1人が後期高齢者になると指摘された後、こう書かれています。

「東京をはじめとした大都市圏では医療や介護を必要とする高齢者の急増は避けられず、介護施設や医療機関で最期を迎えるのはこれまで以上に難しくなる。そのため、誰にも介護してもらえず、自宅で放置され、人知れずに亡くなる人が急増するかもしれない。賃貸住宅に住んでいる単身高齢者の中には家賃を払えなくなり退去を迫られる人もあるだろう。 そうなったとき、自宅でもなく、病院でもない、自分の死に場所さえ見つけられない、『死に場所難民』が出てくる、そう指摘する学者もいる」

「サンデー毎日」2017年7月2日号

続いて、本書には「いま東京に起きている一極集中が『死の一極集中』へと姿を変える日は近いかもしれない。そんな恐ろしい時代への突入を横須賀市の事例は予感させるのである」と書かれています。横須賀市といえば、冠婚葬祭互助会の発祥地です。わたしのブログ記事「冠婚葬祭互助会誕生の地を訪れる」で紹介したように、今年の6月、わたしが会長を務める全国冠婚葬祭互助会連盟(全互連)の定時総会が横須賀の地で開催されました。

互助会は、その名の通り、「相互扶助」をコンセプトとした会員制組織です。終戦直後の1948年に、西村熊彦という方の手によって、日本最初の互助会である「横須賀冠婚葬祭互助会」が横須賀市で生まれました。そして、全国に広まっていきました。相互扶助による儀式イノベーションを起こしたのが互助会ですが、今また同じ横須賀において、多くの人々に「死に場所」を与える仕組みが生まれれば素晴らしいことです。それもやはり、互助会の果たすべき使命ではないかと思います。

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