No.2281 芸術・芸能・映画 『ジャニーズ61年の暗黒史』 小菅宏著(青志社)

2023.11.13

『ジャニーズ61年の暗黒史』小菅宏著(青志社)を読みました。「新ドキュメントファイル」のサブタイトルがついています。著者は、著者は、作家。東京都出身。立教大学卒、集英社入社。週刊・月刊誌歴任後に独立。徹底した現場主義で社会と日本人の内実に迫るドキュメント取材を行いました。著書は、ブログ『異能の男 ジャニー喜多川』ブログ『女帝 メリー喜多川』で紹介した本の他、ジャニーズ事務所の関連著書として、『芸能をビッビジネスに変えた男 「ジャニー喜多川」の戦略と戦術』(講談社)、『アイドル帝国ジャニーズ50年の光芒』(宝島社)、『ジャニーズ魔法の泉』(竹書房)など。

本書の帯

本書の帯には、「さよならジャニーズ 絶対権力者 弟ジャニーと姉メリーの『嘘』と『真相』 消せない過去の重い扉を開く!」と書かれています。帯の裏には、「それにしても、日本人の多くは目覚めた。『ジャニーズの正しい情報を報じない』姿勢が『忖度』によってマスメディアに存在していたのは事実だった。これが2000年代から最近(2023年)まで止むことはなかった――。55年前の東京・原宿駅近くでのジャニーとの初会、その1か月後の東京・日劇楽屋でのメリーとの初対面。そのすべての記憶を本著に詰め込んで、彼らが築いた虚構の楼閣を知る限り記した。 あとがきより」と書かれています。

本書の帯の裏

本書の「目次」は、以下の構成になっています。
「まえがき」
その1 暗黒史の始まり ジャニー喜多川「裁判記録」
その2 性被害事件 北公次の場合
その3 性被害 中谷良(元祖ジャニーズ)の場合本
その4 ジャニーズ事務所の錬金術
その5 事務所の隠された履歴
その6 ジャニーズの「クスリ(覚醒剤)」事件続発
その7 事務所からの独立トラブル
その8 女性暴行、乱交事件、騒動、決別と再生
「あとがき」

「まえがき」の「フィードバック」の冒頭を、著者は「創業61年の歴史を持ち、日本のエンターテインメント業界の最大手で若手人気スターを抱える絶対的な存在だったジャニーズ事務所が消滅した。2023年(令和5)9月7日に行われた『社名維持会見』からわずか1か月も経たない10月2日、2回目の会見でジャニーズ事務所はあれだけこだわった、社名維持から一転、ジャニーズの廃業を伝えた。スポンサーを含め世間の予想以上のジャニーズ離れに、廃業を決断したのだ」と書きだしています。

「ジャニー喜多川の痕跡をこの世から一切なくしたい」と語った前社長藤島ジュリー景子は、新会社の副社長井ノ原快彦に代弁を委託した手紙の中で叔父ジャニーと母メリーが築き上げたジャニーズ帝国の崩壊と終焉を告げたわけですが、著者は「半世紀以上、煌びやかな世界を演出してきた皇帝ジャニー。その一手に持つ華やかな舞台への出演の与奪の権限を持つ唯一無二の権力を圧倒的な武器にして君臨してきた孤高の存在、ジャニー・擴・喜多川(2019年没)には、東山紀之に『鬼畜の所業』と言わしめた恐ろしい裏の面があった」と述べています。

その1「暗黒史の始まり ジャニー喜多川『裁判記録』」の「ウチの子と呼ぶ隠蔽された意味」では、生前のジャニー喜多川が「どんな子でもスターにして見せる自信がある。でもね、好きになった子しか一生懸命になれない」と著者に打ち明けたことがあった事実が明かされます。また、「10歳程度の顔を見て、ボクは彼の40、50代の顔(面相)が分かる」とも話したそうですが、著者は、ジャニーにはある一定の「好みの基準」が判定の背景にあると感じたとか。それは、「ジャニーズ顔」と呼ばれる5つの要素のことでした。

1 黒目勝ちの二重瞼であること
2 肌がなめらかで色白であること
3 頬が比較的に豊かであること
4 唇が多少ぽってりしていること
5 清潔な歯並びが整っていること

この5つの要素が女性の感性を射抜くポイントであり、ジャニーはそれを常にJrを選ぶ基準にしたとも明かしたそうです。著者は、「深い色の瞼に色白の肌、母性を刺激するふっくらした頬、女子が触れたくなる甘い香りが感じられる唇、女子の心を溶かす清潔な歯並び。ジャニーの選択は、心と気持ちがオンナになれるからだ、と私は見抜く」と述べます。そして、初期の典型的なジャニーズ顔は「元祖ジャニーズ」のあおい輝彦であり、次の理想のジャニーズ顔は郷ひろみであったと指摘します。郷はあおいの系列を継いではいますが、あおいよりもプリンス的要素を加えたアイドルの典型であるとも指摘。以後は、多少の誤差はあっても、ジャニーのJr選びは永遠に崩さない鉄則の「条件」となりました。

元祖ジャニーズが渡米して吹き込み、全米へ発売予定だったシングル曲「ネバ―・マイ・ラブ」は、あおい輝彦のソロ曲の予定だったそうです。しかし、諸般の事情で中止となり帰国に至ったわけですが、著者は「私は、あおい輝彦の柔らかい声色で全米へ発表されたら、あるいは、坂本九の「スキヤキ(邦題「上を向いて歩こう」)に匹敵するビッグなメロディーだったと素人ながらの感想を持った。ならば、あおい輝彦は全米の人気歌手の仲間入りをしていたろう。しかし当時のジャニーの現実は皮肉だ。選択肢はレコーディングの断念だったからだ。ジャニーの心境は推して知るべし。それは同時に、ジャニー喜多川の長年の故郷(ロサンゼルス)への凱旋を崩したことにもなったのだ。『あと一歩、あと一歩だった』」と述べるのでした。

「ジャニーの私的好みのタイプ(私的性愛)」では、ジャニー喜多川が私的に枕を共にするタイプについて書かれています。著者いわく、比較的に大人しくて自己主張を必死に堪える、従順な性格でなければならなかったそうです。何より、本人自身の将来への強いエンターテイナーに昇り詰める人生観を持つタイプだったそうで、著者は「このことは私の個人的な推測の域を出ないが、『今さえ我慢すれば、今夜だけ目をつむればジャニーズのステージで歌って踊れる』という将来への意識をキチンと心の中で収めている性格をジャニーは見抜き、欲望を果たすだけの『鬼畜の所業』で襲いかかることができると読んだ」と述べます。

「裁判での汚名を隠した【嘘の証言】」では、ジャニーズJr.の性被害者の証言から、彼らにはジャニーとの関係によって発症した「幻聴」「フラッシュバック」「恐怖感と不安感」「異性との性的関係への畏怖」などが存在したことが類推できるとし、著者は「彼らの人生は性被害以後の長期間、これらのフラッシュバックに人生を根本から狂わされた。否、狂わされている。出来事に関する状況を避ける『回避』もある。これは心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状である。いままさに『性被害』を公にするJrたちの叫びそのものだ。おそらく性被害者の彼らは似たような心の悩みを抱えながらに日常と向き合っている」と述べています。

「『ジャニーズは家業』は喜多川家の財産の意味」では、藤島ジュリー景子の後を継いで三代目社長に就任した東山紀之について、著者は「完全無欠の人間をジャニーズ事務所のトップになれと希望するわけではない。私の知る限り、俳優東山紀之は努力の人だった。ストイックな性向ゆえに己を鍛えた。おそらくジャニーズ出身のなかでも群を抜いてストイックな俳優像が業界の常識だった。後輩の俳優岡田准一(元V6のメンバー)に匹敵する努力家だが、だからといって、ジャニーをお父さんと呼べる側近としての見識は如何なものか。東山が単純に、後輩たちの先頭に立って汚名を雪ぎたいと覚悟した意欲は、少なくとも記者会見では伝わらなかった」と述べています。

「東山はジャニーの性加害を事前に知っていた?」では、被害者たちにとっても、ジャニーを「お父さん」と呼んでいた東山紀之本人の存在は大きかったと指摘します。東山本人は「気が付かなかったが、指摘されれば思いつかないこともない」と性被害に関して推測を述べました。彼は、「鬼畜の所業」と記者会見で考えられる最も痛烈な表現でジャニーを糾弾しました。「尊敬も消し飛んだ」とも言いました。しかし、著者は「ならば言葉の意味を今一度、検証して欲しい。要は、言葉の持ち腐れ(言いっぱなしの意味)で解決の糸口を探れるほど安易な一事ではないと私は思う。そのことを肝に据え、新体制の彼らに、もう一度、真正面から立ち向かわなければならないのではないかという印象は拭えないのである」と述べるのでした。

「世の中の動きを見逃したジャニーズ事務所」では、経済同友会の新浪代表幹事が9月12日の記者会見で「チャイルドアビューズ(若年層への虐待)は絶対あっちゃいけないこと。ジャニーズ事務所を使うということはチャイルドアビューズ(若年層への虐待)を認めることになる。一方で、働いておられるタレントの方々に対しては大変、心苦しい」と述べ、ジャニーズ事務所に対して被害者の救済や経営体制の立て直しを強く求めました。確かに、この問題は国際問題になる可能性があり、2024年6月には日本で調査した報告から国連でも俎上に上がる予定です。全国の児童相談(児相)は、2022年度に対応した児童虐待件数を21万9170件(速報値)と発表しました。著者は、「偶然にもというか、皮肉にもというのかジャニーズ事務所の最初の会見が開かれた当日だ。私がこの数字を追った理由は、『児童虐待は32年連続で最多』という見出しによってだ」と述べています。

その2「性被害事件 北公次の場合」の「性被害者の悲痛な叫び」では、ジャニーの性被害者として有名だった北公次(フォーリーブスの元メンバー)が取り上げられます。北は、「ジャニーさんは気やすくて優しかった」と初印象を明かしますが、著者は「同世代の接するようにフレンドリーだった」という中谷良(元祖ジャニーズの元メンバー)の言葉を紹介し、「2人のジャニーに対する初対面の印象が圧倒的に似通っている事実に思い当たる。年下の相手に決して偉ぶらず、上目線の対応をしないのがジャニーだ。それで声を掛けられた少年たちの警戒心がほどけた」と述べています。それは、天性の「ボーイハント術」であり、「ジャニーはその付与された人懐っこさの裏で、悪魔の笑みを浮かべていたことになる」と述べます。その悪魔の牙に噛まれたのが北公次でした。

「狂気の北公次を慰めるジャニー(初公開秘話)」では、ジャニー喜多川の性加害についての追求番組が作られるきっかけとなったイギリス史上最大のスキャンダルが紹介されます。BBC(英国放送協会)の音楽人気番組の司会業を続け、200件以上の年少者を性的に犯し、「史上最も多くの罪を重ねた性犯罪者」と叱声されたジミー・サビル(2011年10月死去)の一連の事件です。このときの賠償金はサビルの遺産から6億円払われ、番組を提供したBBCからも支配があったと報道されました。著者は、「この金額が妥当なのかどうかは議論の余地がある気もするのは私の現実認識だ。おそらく、ジャニーズ(実際は藤島ジュリー景子)の補償額は、あくまでも部外者のあて推量に過ぎないが、この10倍以上に達するのではないだろうか」と述べます。まさに、ジャニー喜多川こそは人類史上最悪の性犯罪者なのです。

それでは、なぜジャニー喜多川はこのような人類史上最悪の性犯罪者となったのか。その3「性被害 中谷良(元祖ジャニーズ)の場合」の「グループはジャニーの犠牲だった」では、ジャニーはロサンゼルス時代の差別と侮蔑の日々を忘れることはなかったことが紹介されます。著者は、「小柄な黄色人種。それだけの理由で差別を浴びた境遇に、いつか仕返しをする。それがジャニーズのメンバーを引き連れての『ロサンゼルス凱旋』だった。幼少期(7~8歳)に一時帰国した当時、親しく世話をしてくれた縁者から『性的被害』を受けたとの情報もあるが、ジャニーの心の奥には青年期に受けたロサンゼルスでの『性的差別』への復讐の気持ちが消えなかったのだと私は感じた」と述べています。

その4「ジャニーズ事務所の錬金術」の「創成期から変わらない金銭感覚」では、ジャニー喜多川の実姉であり、ジャニーズ事務所の副社長だったメリー喜多川について書かれています。事務所創業以来、メリーは金銭管理にことのほか厳しかったそうですが、その理由は2つあったといいます。1つには、ジャニーが金銭管理に不向きだったためです。未知の少年の未来を予想できても、金銭を増やす能力には欠けていました。2つには、喜多川家の資産増大を意図したためです。ジャニーズ事務所が独占的な家族経営と批判されようが、基盤は喜多川家(後に藤島家)の財産増大が第一義であって、絶対に揺るがせなかったといいます。著者は、「そのための工面をメリーは惜しまなかったといっていい。その流れで『ウチの子』と称するジャニーズタレントへの報酬は厳しく裁断した」と述べます。

「メリーが背負う最大の弱点」では、タレント育成は弟ジャニーにまかせ、メリーは金の工面を含め金庫番として事務所を仕切ったことが指摘されます。ジャニーによってスターを次々と生み、名実ともにジャニーズ事務所は芸能界において絶対的な力と収入を持つことができるようになりました。著者は、「すべては、ジャニーの少年愛に起因する商才であることを、姉のメリーは百も承知だった。『少年しか愛することができない』メリーは弟の性向を知っていた。そしてまた知っていたが忠告は出来なかった。何故か。それは築き上げてきた『ジャニーズ帝国』、あるいは『喜多川家の財産』を積み上げる唯一最大の手立てが、根底から崩壊すると知るのだ。さすがにこの問題を目前にする時、メリーの威勢のいい啖呵は胸内に沈んだはずだ。『弟は病気なのよ』と親しい人にはそれを切り札にした」と述べています。

「巨額の財産の黒い履歴書」では、ジャニーズ事務所の初期投資囲碁の財源の根拠が、事務所の創業者の前代未聞の「性加害」であることを改めて指摘。「決して人間として許されない、消えない事実」が事務所に残るのは逃れられず、歴史にも刻まれるとして、メリーについて「2歳にして母を失った弟(ジャニー)へ注いだ母性愛が、後年、彼女の口を黙らせたのだと私は見る。同時に帰国者の悲哀を堪えて手に入れた「『日本の富裕層』の栄誉を手ばなしてなるものかと必死に蓄財に励んだのは、『弟』の卑劣な所業を心の内から追い出すためと推測する。否、忘却することは無理でも、その果てに『黒い歴史』の痕跡を遺棄することは可能と自分勝手に思ったかもしれない。ジャニーの長年の『性加害』を犯罪と認識しつつ、財産を膨らませていった過程を守るのは自分の生きざまだったし、過去を肯定するためのものだった」と述べています。

本書には、生前のメリー喜多川とジャニー喜多川の姉弟を良く知る著者の体験談や感想が詳しく書かれていますが、わたしが最も考えさせられた箇所は、その2「性被害事件 北公次の場合」の「追伸 届かなかった葬式の花輪」の中に紹介されたエピソードでした。北公次は真家ひろみ(元祖ジャニーズ)の葬儀(2000年3月6日死去)月にジャニーとメリーからの花輪が1つも届かない仕儀に怒り狂ったそうです。そして同僚の青山孝史(フォーリーブス)が肝臓がんで亡くなった葬式にも、2人からの弔辞関係の連絡はないのに激怒したといいます。北は斎場で「なんで、ジャニーさん、メリーさん!」と怒鳴ったといいます。著者は、「そういう男気が北公次の身上でもある」と述べています。

その北も、青山の死去から1年後に後を追うように旅立ちました。同じ肝臓がんでした。北は、亡くなる直前に夕刊紙にコラムを連載していました。そこに「ジャニーさん、メリーさん、ほんとうにありがとうございました」と書き残したそうです。真家ひろみも告発本の中で、「ジャニーさん、メリーさん、ありがとうございました」と記しています。著者は、「この意味が同音異語なのかは判断できない。ただ、当時のジャニーとメリーからの送別の辞は遠く届かなかったのだ。ジャニーとメリーにもそれぞれ胸に抱える反論はあったかもしれない。そうだとしても、最後の別れに『一言』あるのが仁義ではなかろうかと感じるのは、わたしの感傷に過ぎないのかは判断しない」と述べるのでした。もちろん、著者は感傷的ではないと思います。

この姉弟が縁のあった人間、それもジャニーの性欲やメリーの金銭欲という汚れた欲望のためにボロ雑巾のように使い捨てにした人間に最低限の礼も示さなかったことに、わたしは強い怒りをおぼえます。「葬儀は人の道」とはわたしの口癖ですが、彼らは人の道から外れた最低の外道でした。メリーの葬儀はコロナ禍下ということもあって身内のみの簡単な家族葬だったそうですが、ジャニーの「お別れの会」は2019年9月4日に東京ドームで開催され、史上最大級の豪華なセレモニーとなりました。外道が最高の弔いをされるとは、まことに皮肉なことです。

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