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2019.03.22
=17日の午前33分、ロックンローラー内田裕也(本名・内田雄也)さんが、肺炎のため東京都内の入院先で死去されました。79歳でした。「KK」こと彼の最愛の妻が樹木希林さんです。『樹木希林120の遺言』樹木希林著(宝島社)を読みました。昨年9月に逝去した女優である著者の言葉を集めた本です。「死ぬときぐらい好きにさせてよ」というサブタイトルがついています。
本書の帯
表紙カバーには、シェークスピアの悲劇「ハムレット」に構想を得たことで知られるミレーの絵画「オフィーリア」を模した著者が川に落ち沈んでいくビジュアルが使われています。帯には「とにかく、世の中を面白がること。老いだって、病気だって自分の栄養になる。」「孤独、成熟、家族、仕事……希林さんが教えてくれたあるがままの生き方」「大人の人生訓です。心して読んで、笑って、元気に生きてください。――養老孟司」と書かれています。
帯の裏には、「さて人間としてどう終了するかっていうふうに考えると、これはなかなか、『未熟なまんまで終わるもんですねぇ』というのが実感だから」というNHKスペシャル「”樹木希林を”を生きる」からの言葉が紹介されています。
本書の帯の裏
アマゾンの「内容紹介」には、こう書かれています。
「『楽しむのではなくて、面白がることよ。
面白がらなきゃ、やっていけないもの、この世の中』
女優の樹木希林さんが2018年9月15日に他界されました。本書は樹木さんが生前に遺した120の言葉を掲載しています。老い、孤独、病い、仕事、家族、夫婦関係……誰もが人生で直面する『壁』をどう乗り越えればいいのかーー。きっと樹木さんの言葉がヒントになるはずです。『NHKスペシャル「”樹木希林”を生きる」』や朝日新聞の連載『語る 人生の贈りもの』のインタビュー、雑誌、専門誌、フリーペーパーでの発言に至るまで、多岐にわたるメディアから、心に響く樹木さんのメッセージを厳選しました。<ありのままの自分>を貫き、最期まで<自然体>で生きた樹木さんの率直な言葉には、彼女の人となり、そして人生哲学が詰まっています。生前、親交があった養老孟司さんからご寄稿もいただきました。
『自然体とはこういうことかと思った』
『男でいえば、将の器がある。身体は小さいし、声だってとくに大きいわけではない。印象的な女性でした』
また、樹木さんの若かりし頃の秘蔵写真や、懐かしのドラマの貴重カットなども多数掲載しています」
さらに、アマゾンには「本書に収録した<言葉>より」として、以下の言葉が紹介されています。
◯ときめくことは大切。 自分が素敵になれば、それに見合った出会いも訪れるものです。
◯どうぞ、物事を面白く受け取って愉快に生きて。あんまり頑張らないで、でもへこたれないで。
◯一人でいても二人でいても、十人でいたって寂しいものは寂しい。そういうもんだと思っている。
◯嫌な話になったとしても、顔だけは笑うようにしているのよ。
◯本物だからって世の中に広まるわけじゃないのよ。 偽物のほうが広まりやすいのよ。
◯籍を入れた以上、引き受けていくしかない。夫の中には今も、純粋なもののひとかけらがみえるから。
◯がんがなかったら、私自身がつまらなく生きて、つまらなく死んでいったでしょう。そこそこの人生で終わった。
◯病気になったことでメリットもあるんですよ。賞を取っても、ねたまれない。少々口が滑っても、おとがめなし。ケンカをする体力がなくなって、随分腰が低くなったし。
本書の「目次」は、以下の構成になっています。
「まえがきにかえて」養老孟司
第一章 生――人生と幸福について
第二章 病――がんと病いについて
第三章 老――老いと成熟について
第四章 人――人間と世間について
第五章 絆――夫婦について
第六章 家――家族と子育てについて
第七章 務――仕事と責任について
第八章 死――生と死について
「樹木希林 75年の軌跡」
先に紹介した言葉の他で、わたしが感銘を受けた言葉は次の通りです。
面白いわよねぇ、世の中って。「老後がどう」「死はどう」って、頭の中でくねくりまわす世界よりもはるかに大きくて。予想外の連続よね。楽しむのではなくて、面白がることよ。楽しむというのは客観的でしょう。中に入って面白がるの。面白がらなきゃ、やっていけないもの、この世の中。(「老い」と「死」をテーマにした雑誌のインタビューで――2017年5月)
病気のおかげで、いろいろな気づきもありましたね。だって、気づきをしないと、もったいないじゃない? せっかく大変な思いをするのに、それを「こんなふうになってしまって」と愚痴にしていたら、自分にとって損ですから。私は病気については、「あ、そうきたか」と捉えています。(映画「あん」公開時のインタビューで、病気になって得た気づきについて――2015年6月)
ガンになって死ぬのが一番幸せだと思います。畳の上で死ねるし、用意ができます。片付けしてその準備ができるのは最高だと思っています。(映画「神宮希林 わたしの神様」公開時のインタビューで、がんについて語って。――2014年5月)
年をとってパワーがなくなる。病気になる。言葉で言うといやらしいけど、これは神の賜物、贈りものだと思います。終わりが見えてくるという安心感があります。年を取ったら、みんなもっと楽に生きたらいいんじゃないですか。求めすぎない。欲なんてきりなくあるんですから。足るを知るではないけれど、自分の身の丈にあったレベルで、そのくらいでよしとするのも人生です。(「私の年の重ねかた」がテーマの雑誌のインタビューに答えて。――2008年6月)
どの夫婦も、夫婦となる縁があったということは、相手のマイナス部分がかならず自分の中にもあるんですよ。それがわかってくると、結婚というものに納得がいくのではないでしょうか。ときどき、夫や妻のことを悪く言っている人をみると、「この人、自分のこと言ってる」と、心の中で思っています(笑)。(映画「あん」公開時のインタビューで、夫婦について語って――2015年7月)
死というものを日常にしてあげたいなと。子供たちに、孫たちに。そうすれば怖くなくなる、そうすれば人を大事にする。そんなふうにね、また改めてこういうのを見て、考えました。(古館伊知郎さんとのテレビ番組の対談で、映画「人生フルーツ」の話題から死について語って――2017年8月)
長生きしたいと思うわけではないし、年を取るのはちっとも苦ではないんですよ。ただあたふたせずに、淡々と生きて淡々と死んでいきたいなあと思うだけです。(雑誌のインタビューで、興味を持っていることについて語って。――2002年8月)
いまなら自信を持ってこう言えます。今日までの人生、上出来でございました。これにて、おいとまいたします。(新聞の連載インタビューで、現在の心境について語って。――2018年5月)
2016年度の宝島社の企業広告
いずれも名言ばかりですが、特に「死」についての言葉に強い説得力があります。本書のカバー表紙に使われているビジュアルは、もともと2016年1月に本書の版元である宝島社の新聞広告として掲載され、大きな話題になりました。「死ぬときぐらい好きにさせてよ」というキャッチコピーの下には「人は死ねば宇宙の塵芥(ちりあくた)。せめて美しく輝く”塵”になりたい」という文面が続きます。これは拙著『唯葬論』(三五館)の第一章である「宇宙論」のメッセージとまったく同じなのでちょっと驚きました。
はるか昔のビッグバンからはじまるこの宇宙で、数え切れないほどの星々が誕生と死を繰り返してきました。その星々の小さな破片が地球に到達し、空気や水や食べ物を通じてわたしたちの肉体に入り込み、わたしたちは「いのち」を営んでいます。わたしたちの肉体とは星々のかけらの仮の宿であり、入ってきた物質は役目を終えていずれ外に出てゆく、いや、宇宙に還っていきます。宇宙から来て宇宙に還るわたしたちは、「宇宙の子」であると言えます。人間も動植物も、すべて星のかけらからできているのです。
宝島社の企業広告について、樹木希林さん自身は「『生きるのも日常、死んでいくのも日常』 死は特別なものとして捉えられているが、死というのは悪いことではない。そういったことを伝えていくのもひとつの役目なのかなと思いました」とコメントしていました。