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No.1803 マーケティング・イノベーション | 経済・経営 | 評伝・自伝 『イーロン・マスク 未来を創る男』 アシュリー・バンス著、斎藤栄一郎訳(講談社)
2019.12.10
『イーロン・マスク 未来を創る男』アシュリー・バンス著、斎藤栄一郎訳(講談社)を読みました。ポスト・スティーブ・ジョブズとして、また、宇宙ビジネスの旗手として世界中から注目されているスター経営者の伝記です。著者は、テクノロジー分野の第一線で活躍する作家。「ニューヨークタイムズ」紙でシリコンバレーやテクノロジーの取材を数年にわたって手がけたのち、週刊ビジネス誌「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」に活動の場を移し、サイバースパイ活動からDNAシークエンシング、宇宙探査に至るまで幅広い分野で主に特集記事を担当しています。
本書の帯
カバー表紙にはイーロン・マスクの精悍な顔の写真が使われ、帯には「初の本格伝記」「読者が選ぶビジネス書グランプリ2016」「【ビジネス書グランプリ2016】および【イノベーション(革新)部門賞】受賞」と書かれています。
本書の帯の裏
また帯の裏には、「堀江貴文氏イチ推し!」「エクストリームなグローバルオタクが突き抜けると、こうなる。人類は、こういうヤバイ奴らに導かれてる!」「『次のスティーブ・ジョブズ』はこの男!」と書かれています。
アマゾンの「内容紹介」には、こう書かれています。
「イーロン・マスクは、日本にいないタイプの次世代経営者のスター! 宇宙ロケット、電気自動車のスポーツカー(テスラ・モータズ)、太陽光発電……未来の世界を創り出すために、大金を投じ、常に勝負し続ける豪腕経営者。次世代のスティーブ・ジョブズとも呼ばれる、今後ますます注目される異能の経営者イーロン・マスク初めての本格評伝登場! 驚異的な頭脳と集中力、激しすぎる情熱とパワーで宇宙ロケットからスタイリッシュな電気自動車まで『不可能』を次々と実現させてきた男――。シリコンバレーがハリウッド化し、単純なアプリや広告を垂れ流す仕組みを作った経営者ばかりが持てはやされる中、リアルの世界で重厚長大な本物のイノベーションを巻き起こしてきた男――。『人類の火星移住を実現させる』という壮大な夢を抱き、そのためにはどんなリスクにも果敢に挑み、周囲の摩擦や軋轢などモノともしない男――。いま、世界がもっとも注目する経営者イーロン・マスクの本格伝記がついに登場! イジメにあった少年時代、祖国・南アフリカから逃避、駆け出しの経営者時代からペイパル創業を経て、ついにロケットの世界へ……彼の半生が明らかになります」
本書の「目次」は、以下の通りです。
1 イーロン・マスクの世界 「次の」ジョブズはこの男
2 少年時代 祖国・南アフリカの甘くて苦い記憶
3 新大陸へ 壮大な冒険の始まり
4 初めての起業 成功の第一歩を踏み出すまで
5 ペイパル・マフィア 栄光と挫折とビッグマネー
6 宇宙を目指せ ロケット事業に乗り出すまで
7 100%の電気自動車 テスラモーターズという革命
8 苦悩の時代 生き残りをかけた闘い
9 軌道に乗せる 火星移住まで夢は終わらない
10 リベンジ 21世紀の自動車を世に出す
11 次なる野望 イーロン・マスクの「統一場理論」
補記1 マスクに関するいくつかの「疑惑」について
補記2 ペイパルに関するマスクの証言
補記3 イーロン・マスクのメール全文公開
1「イーロン・マスクの世界 『次の』ジョブズはこの男」では、著者はイーロン・マスクとの初ディナーの席で、彼がテスラモーターズの広報部門のスタッフたちに対する文句を並べ始めたことを紹介し、以下のように述べています。
「『世界一優秀な広報マンが欲しい』。実にマスクらしい言葉だ。その後は共通の知人の話やら、20世紀の大富豪ハワード・ヒューズのこと、テスラの工場などについて話した。ウェイターがオーダーを取りに来ると、マスクはすかさず低炭水化物ダイエットにいいメニューを尋ねている。結局、彼が選んだのはフライドロブスターのイカスミソース添え」
続けて、著者は以下のように述べています。
「なかなか本題に入らない。延々と雑談が続く。やがてマスクは『夜眠れないほどの大きな心配事がある』と打ち明けた。グーグル創業者のひとりでCEOのラリー・ペイジが、人工知能ロボット軍団を率いて人類を滅亡に追いやるのではないかという不安だった。『もう心配で、心配でね』ペイジとは親友でもあり、基本的に悪人ではないと信じているそうだが、それでも不安は拭えないという。要するにペイジは善人ゆえ、ロボット軍団が人間の命令に従うはずと頭から信じ込んでいる。だから不安なのだという。『楽観はできない。何かの間違いで恐ろしいものを作り出すんじゃないだろうか』とマスクは言う」
「救世主か大ボラ吹きか」として、著者は以下のように述べます。
「マスク自身への取材は、カリフォルニア州ロサンゼルス郊外のホーソーンにあるスペースX本社から始まった。本社に入ったとたん、左右の壁の巨大なポスターが目に飛び込んでくる。左のポスターは現在の火星だ。冷たい不毛の地である。そして右のポスターは海に囲まれた広大な緑の大地だ。人類が住める環境に変わった未来の火星が描かれている」
続けて、著者は以下のように述べています。
「この男は本気だ。宇宙移民の実現は、彼の人生の目的でもある。『どうせなら人類の未来は明るいと考えながら死にたいね。我々が持続可能エネルギーの問題を解決して、別の惑星でも生きていける文明を築き、人類が複数の惑星にまたがって活動する種に近づいているとしようか。それでも人間としての意識の消失という最悪のシナリオを回避できるなら、実にいいことだと思う』と語ったことがある」
また、著者はマスクについて以下のように述べます。
「自然体でこの世の不可能に挑戦するマスクのやり方は、シリコンバレーでは半ば神格化されていて、ラリー・ペイジのようなCEO仲間からも崇め奉られているほどだ。かつてはスティーブ・ジョブズに心酔していた駆け出しの起業家らも、今はこぞってイーロン教に宗旨替えしている。シリコンバレーの起業家は時代の先を歩んでいるとはいえ、所詮、現実の域を外れていない。ところがマスクは、シリコンバレーの居心地のいい世界とも一線を画し、常に波風を起こし、論争の的になっている。電気自動車、太陽光発電、ロケットなど壮大な夢を説き回っている。19世紀に人々の不安を煽って莫大な財産を築いたP・T・バーナムという興行師がいたが、マスクはそのSF版と言っていいだろう」
さらに、著者は以下のように述べています。
「2012年初めのことである。いよいよ後がないと思われた彼の会社が、次々に前代未聞の成果を上げ始めたのである。まずスペースXは、国際宇宙ステーションに物資補給用の宇宙船を打ち上げ、見事に任務を完了して無事、地球に帰還させた。また、テスラモーターズは、セダンタイプの電気自動車『モデルS』を発売、自動車業界を震撼させた。この2つの偉業でマスクは有力経営者の中でも傑出した存在になった。まったく別個の業界で一度に歴史的な偉業を成し遂げた経営者は、スティーブ・ジョブズくらいだろう。ジョブズはアップルから優れた製品を発売する一方で、映像制作会社ピクサーからは超大作をリリースしている。とはいえ、マスクはまだ存命だし、新規株式公開を果たした太陽光発電企業として注目を集めるソーラーシティの会長を務め、その筆頭株主でもある。宇宙産業、自動車産業、エネルギー産業が何十年もかけて実現してきた大きな成果を、マスクはわずか一瞬で手に入れてしまったかに見える」
「イノベーションを地で行く」として、著者は述べます。
「マスクランドを訪れるようになって以降、私には彼の成功の秘密が少しずつわかってきた。『火星に人類を送り込む』といったマスクの話は常軌を逸しているように思えるが、これがグループ各社をまとめあげる独特のスローガンになっている。総合目標として、何をするにせよ一貫した行動指針になっている。全従業員がこれを熟知しており、不可能を実現するために明けても暮れてもチャレンジし続けていると自覚しているのだ」
続けて、著者は以下のように述べています。
「非現実的な目標を掲げ、言葉で従業員にプレッシャーをかけてこき使っても、すべては火星計画の一部だと受け止められる。そこが魅力だとマスクを慕う従業員がいる。逆にマスクを嫌う従業員もいるのだが、行動力や使命感に対する敬意から忠誠を守っている。シリコンバレーの起業家の多くは『社会的に意味のある世界観』が欠けているものだが、マスクには確たる世界観がある。誰にも真似ができないほど壮大な夢を追う天才だ。蓄財に現を抜かすCEOとは一線を画する。マーク・ザッカーバーグの目指したものが、可愛い子供の写真を世界に披露できる場所だったとすれば、マスクは何を目指しているのか。人類を自滅行為や偶発的な滅亡から救うことだろう」
2「少年時代 祖国・南アフリカの甘くて苦い記憶」では、「イーロン・マスクの名が初めて世に出たのは1984年のことだった。南アフリカの業界誌『PC and office Technology』がマスクの開発したビデオゲーム「Blastar 」のソースコードを掲載したのだ。宇宙が舞台のSF風ゲームだ」と書かれ、さらに著者は以下のように述べます。
「このゲームを眺めるかぎり、マスクは子供のころからSF的な世界に憧れ、その頭の中は壮大な”征服願望”でいっぱいだったようだ。雑誌に載ったゲームの説明文には、『死の水素爆弾とステータスビーム装置を積んだエイリアンの宇宙船を破壊するのがミッションだ。スプライト(グラフィックの高速表示技術)とアニメーションが上手に生かされていて掲載に価すると判断した』とある(ちなみに本書執筆時点で『ステータスビーム装置』なるものをネット検索してみたが、どういうものなのか手がかりさえない)」
続けて、著者は以下のように述べています。
「少年が宇宙、そして善と悪の戦いに空想を巡らすのは、よくある話だ。だが、その空想の世界を真に受けている少年がいたとしたら、いささか気になる。イーロン・マスクはそんな少年だった。10代半ばまで、マスクは空想と現実を区別できないほどに頭の中で混在させていたようだ。この宇宙における人類の運命を、まるで自分の責任のように受け止めていたのだ。今日、彼がクリーンエネルギー技術の改良や、人類の活動領域を拡大するための宇宙船開発に没頭しているのもそのあたりにルーツがありそうだ。『子供のころコミックを読みすぎたせいかな。コミックはどれも世界を救うような話ばかりだからね。だいたい世界を良くするストーリーになっている。その逆だったら無意味だし』」
また、マスクがSF作家ダグラス・アダムスの『銀河ヒッチハイク・ガイド』を読んで、あるSF的な言葉に大いに感銘を受けたことが紹介されていますが、マスクは「本の中で『本当に難しいのは、何を問えばいいのかを見つけることだ』とアダムスは指摘している。つまり問いが見つかりさえすれば、答えを出すのは比較的簡単なんだ。そして、質問したいことをしっかりと理解するには、人間の意識の範囲と規模を広げることが大切だという結論に達した」と説明しています。ティーンエイジャーのマスクがたどり着いたのは、論理的すぎるほどの使命であり、「唯一、人生において意味のあることといえば、啓蒙による人類全体の底上げに努力することだ」とマスクは語っています。
また、「型破りだった祖父」では、以下のように書かれています。
「長年、南アフリカは人種差別政策に関して他国から制裁措置を受けてきた。マスクは子供時代に海外旅行が楽しめる裕福な家庭に育ったが、そのころから自国に向けられた外部の目を意識するようになった。南アフリカの白人の子供たちは、この時期に自国が置かれた状況を知ることで、明らかな羞恥心を感じつつ、国の秩序自体に疑問を持つようになる。『人類の救済が必要だ』というマスクの信念は、その気になれば誰からも支持されたはずだが、マスクは国内の目の前のニーズに取り組むよりも、ほぼ一貫して人類全体に目を向けていた。やがて、彼の視線は米国へ向かうようになる。月並みではあるが、米国をチャンスの地と捉え、『人類救済』という夢の実現に一番近い場所と考えたからだ。実際にマスクが米国にたどり着くのは20代のころ。それは先祖伝来の地に戻る旅でもあった」
さらには、「マスク独自の思考法」として、こう述べます。
「少年時代のマスクの性格の中でも印象的なのが、異常とも言える読書欲だ。小さいころからいつも片手に本を持っていた。『1日10時間、本にかじりついていることも珍しくなかった。週末は2冊を1日で読破していた』と弟のキンバルは証言する。一家でショッピングに遠出すると、必ずマスクが行方不明になってしまう。そんなときは近くの書店を探す。すると、フロアの奥あたりに座り込み、遠い世界に行ってしまったかのような表情で本を読みふけっているマスクがいたという。成長してもその癖は変わらない。2時に学校が終わると、そのまま書店に直行して本を読んでいた。両親が仕事から帰宅する6時ごろまで書店に張り付いていた。まずフィクションを読み漁り、続いてコミックス、最後はノンフィクション――それが主な日課だ」
マスクは「たまに店の人につまみ出されることもあったけど、だいたい大丈夫だった」と語っていますが、彼の当時の愛読書は『銀河ヒッチハイク・ガイド』、J・R・R・トールキンの『指輪物語』、アイザック・アシモフのファウンデーション・シリーズ、ロバート・ハインラインの『月は無慈悲な夜の女王』などでした。マスクは『そのうち、学校の図書館でも近所の図書館でも読むものがなくなった。3年生か4年生のころだ。新しい本を入れてくれと図書館に頼んだこともある。仕方ないのでブリタニカ百科事典を読み始めたら、これがおもしろかった。いかに自分が知らないことが多いかがわかるんだ』と語っています。百科事典2セットを読破したおかげで、少年は歩く百科事典になりました。つまり、よくいる「物知り少年」になったのです。たとえば夕食時に妹のトスカが「地球から月までどのくらいあるのかな」などと独り言を言った瞬間、マスクは近地点(月が軌道上で地球に最も近づく位置)と遠地点(月が軌道上で地球から最も離れる位置)の距離をそれぞれ正確に答えられたといいます。
「衝撃の出会い 才能の開花」として、著者は述べます。
「マスクが生まれて初めてコンピュータを目にしたのは10歳のころ。場所はヨハネスブルグのショッピングモールだった。『電器屋さんがあってね、ほとんどがオーディオ製品だったけど、店の片隅に少しだけコンピュータを置き始めていた。見た瞬間、「こりゃ、すごいぞ」って』」。
人間の命令をプログラムできる機械の可能性に衝撃を受けた瞬間だった。『もう手に入れるしかないと思って、父にコンピュータを買おうよとしつこくせがみましたよ』。ほどなくして、コモドール社のコンピュータ『VIC-20』がマスクのもとにやってきた。1980年に発売されて人気を博した機種だ。5キロバイトのメモリーを搭載し、プログラミング言語『BASIC』の手引き書が付属していた。『手引き書は6ヵ月かけて全課程が学べるようになっていたんだけど、極度の強迫観念に駆られて3日間一睡もせずに格闘して全部終わらせてしまったあんなに虜にまた、テクノロジーへの関心を深める一方、SFやファンタジー小説を好み、ドラゴンや超自然的存在が登場する小説を自ら書くようになります。
マスクは、「『指輪物語』のような作品を書きたかった」と語っています。母のメイによれば、高校時代はビデオゲームのプログラムを作って、大人を驚かせることもあったそうです。また、驚異的な記憶力の持ち主でしたが、学校で与えられた勉強にはまるで興味がなかったため、学校の成績はあまり良くなかったとか。著者はこう述べています。
「マスクは、宇宙のことを考えれば考えるほど、探査の重要性をひしひしと感じるようになった。なのに、一般大衆が未来への夢や希望を忘れかけていると悲観するのだった。もっとも、普通の人間なら、宇宙探査など時間とエネルギーの無駄と見るだろうし、そんなことを真剣に語るマスクを冷やかしておしまいだ。だが、マスクは惑星間旅行を大真面目に考えていた。一般大衆の気持ちを盛り上げ、科学や新天地への進出に胸をときめかせ、技術の可能性に情熱を燃やしてほしいと考えるようになった」
8「苦悩の時代 生き残りをかけた闘い」では、映画「アイアンマン」のモデルがイーロン・マスクとされていることが紹介され、以下のように述べられています。
「監督のジョン・ファヴローは、『いろいろな面で誇大に表現されているし、拡大解釈もある』と言う。たとえば映画のように、マスクがアフガニスタンで敵と戦ったという事実はない。だが、マスコミが真に受けて『マスクがモデル』という面を強調しているうちに、すっかり有名人になってしまったのだ。こういうイメージアップは、マスク本人にとっては気分がいいし、自尊心も満たされる」
9「軌道に乗せる 火星移住まで夢は終わらない」では、アマゾンの創業者で宇宙ビジネスをめざすジェフ・ベソスとマスクととの関係について、こう述べられています。
「マスクとベゾスは宇宙に興味を持つ経営者同士、意気投合する面もあったのだが、この一件で2人関係はギクシャクし、火星旅行の夢について会話することもなくなった。『彼は大王様になりたくてたまらないんじゃないか。倫理観もへったくれもなくて、ネットショッピング業界で邪魔者がいれば皆殺しにしている。正直言って、まったく面白くない男だよ』とマスクはバッサリ切り捨てたのだった」
「宇宙にかける思い」として、著者は述べます。
「人類の進歩に貢献すると考えられる技術であれば、彼はとことん追求する。同時に、その技術が名声と富をもたらした。だが、マスクの究極のゴールは、人類を国際人ならぬ”惑星間人”にすることにある。つまり地球にとどまらず惑星をまたにかけて活躍する種に進化させたいのだ。馬鹿げていると笑い飛ばす人もいるだろう。しかし、マスクの存在理由はまさにそこにあるのだ。人類が生き残れるかどうかは、別の惑星でのコロニー建設にかかっており、これを実現すべく人生を捧げようとマスクは決心したのだから」
11「次なる野望 イーロン・マスクの『統一場理論』」では、著者はこう述べています。
「『世界を何とかしたい』という切迫感。マスクが神経をすり減らしている原因がそこにある。私はマスクにたびたび会っているが、本当にげっそりとしている姿を何度か目にしている。ひどいときは、何週間も眠れないことがあったという。ストレスで体重の増減も激しい。過労気味になると体重が増える。人類の生き残りに人生を捧げているのに、自分のライフスタイルが不健康の温床になっていることには無頓着なのだ。本人には悪いが、少々滑稽である」
続けて、著者は以下のように述べます。
「盟友のストラウベルがこんなことを教えてくれた。
『彼は結構早い時期に「人生は短い」と悟っていましたよ。そう考えたら、懸命に働くしかないという結論に達するんじゃないでしょうか』
もっとも、苦悩はマスクの人生そのものでもある。学校ではいじめに苦しんだ。厳しい父親からは相当辛い思いもさせられた。やがて社会に出てなりふり構わずに働き、自分を限界まで追い込み続けた。もはやワークライフバランスという言葉自体が無意味なのだ。実際、マスクにとってはワークかライフか、などという分け方はありえない。すべてひっくるめて『ライフ』なのである」
また、「ネクスト」として、著者はこう述べます。
「多くの国家や企業がしっかりとした方針を示せずにいる中、マスクは、地球温暖化問題に最も的確に取り組み、必要とあらば地球脱出計画まで提示するかもしれない。米国に製造業の栄光を取り戻してくれそうなのもマスクだ。ピーター・ティールが言うように、マスクは人々に希望を与え、人類への貢献という意味でテクノロジーへの信頼を取り戻すだろう」
マスクは「火星で死にたいね。できることなら、火星に行って戻ってきて、70歳くらいになったら再び火星に行って、あっちで暮らしたい。順調に行けば不可能じゃない。誰かと結婚して、たくさんの子供が生まれていたら、たぶん奥さんは子供たちと地球に住むと思うけどね」と語ったそうです。
「エピローグ」では、著者はこう述べています。
「本書の執筆を終えてから、あらためてマスクの親友や部下とざっくばらんに話す機会に恵まれた。そうした会話を通じて、本当に『たゆまぬ追求』という言葉が似合う人物との思いをあらためて強くした。しかも、その追求の精神は、我々の想像をはるかに超えたレベルなのだ。ここまで熱い思いで何かを追い続ける人を私は見たことがない。一心不乱に夢を膨らませ、ハイパーループや宇宙インターネットといった度肝を抜く構想を次々にぶち上げる」
続けて、著者は以下のように述べるのでした。
「彼のもう1つの特徴は「喜怒哀楽の人」という点だろう。とことん悩み苦しみ、とことん喜ぶ激しい感情表現で知られる。本人は、人類の歴史を変えるのだという強い自負の念があってのことだと思っているから、周囲の人々の気持ちを感じ取れないことも多い。だから冷淡で気難しい人間というイメージを持たれやすい。だが、実際のマスクは、実は人一倍思いやりがあるのではないか。個人の欲望やニーズを探るのではなく、『人類全体のためになりたい』と真剣に考えているからだ。荒唐無稽な宇宙インターネットなる構想を、本当に実現してしまう人間がいるとしたら、恐らくはこういうタイプの人間なのではないだろうかと私は思う」
わたしも「人類全体のためになりたい」と本気で考えてはいますが、なかなか志を果たすというわけにはいきません。本書の主人公であるイーロン・マスクは世界的な実業家でありながら、火星移住などの人類救済プロジェクトに真剣に取り組んでいる人物がいるとは驚きでした。少年時代に受けた”いじめ”の体験談も凄まじかったですが、それを乗り越えて、スター経営者となったことには頭が下がります。宇宙ビジネスを含め、これからのマスクの動向に要注意です!