No.1855 児童書・絵本 | 死生観 『100日後に死ぬワニ』 きくちゆうき著(小学館)

2020.04.11

『100日後に死ぬワニ』きくちゆうき著(小学館)を読みました。Twitterで大きな話題となり、終了と同時に展開されたメディアミックスの宣伝方法が非難を浴びて炎上した作品ですが、内容そのものはつまらなかったです。もう少し、現代人にマッチした死生観を示しているのかと期待しましたが、残念ながら期待外れでした。毎日、朝起きるたびに「今日は、残りの人生の最初の1日」と思い込んで生きている、わたしのハートにはヒットしませんでしたね。

本書の帯

本書のカバー表紙には、イラストレーター・きくちゆうき氏の描いたワニ君が使われています。帯には「あたりまえ。だから愛おしい。」と大書され、「日本中が見守った100日間の人生が待望の書籍化!」「100日後の後日譚 描き下ろし漫画28P収録!」と書かれています。
また、カバー裏表紙には、モグラ君、ネズミ君、そしてワニ君の3人(3匹?)のイラストが描かれ、帯の裏には「アニメ映画化決定!!!」と書かれています。

本書の帯の裏

本書は、4コマ漫画です。主人公のワニは、100日しか生きられません。枠外で「死まであと○日」と明示された作中のワニの100日間を、4コマを1日としたカウントダウン形式で描きます。ワニは、アルバイトをしたり、アルバイト先の女性の先輩をデートに誘ったり、骨折して入院している友人のお見舞いに行ったり、大好物のラーメンを食べたり、桜が満開になって花見に行くのを楽しみにしたり……本当に、普通の若者のような日常を送っています。

そんなワニが100日後に死ぬことを知っている作者および読者は、いわば「神の視点」を持っていることになります。そんなことを知らないワニは、通販で人気商品を申し込んだところ、「1年待ちとなりますが、よろしいですか?」というコールセンターの担当者の質問に、笑顔で「はい!」と答えます。また、『ワンピース』の漫画を楽しみにして、「最後はどうなるんだろう?」とワクワクします。さらに、最高に面白かった映画の続編が作られることを知って喜んだり、家族と年末に会えるかどうか相談したりするのでした。

思うに、この漫画、やっぱりTwitterで毎日読むための作品だと思います。リアルタイムで追いかけて、次の更新がどうなるのかをハラハラしながら待つのが楽しいのであって、1冊のコミックとして100日まとめ読みしても興ざめというか、面白く感じられないのではないでしょうか。あくまでもSNSで成立していた作品を無理やり書籍にしてしまった印象があり、紙の本とは相性が良くないと思いました。

3月29日放送のフジテレビ系「ワイドナショー」(日曜・前10時)では、Twitterで連載されていた「100日後に死ぬワニ」が20日に最終回を迎えたことを報じました。ダウンタウンの松本人志氏は、漫画を「一気見しちゃったんですよ」と明かし、「これ、良くないね」と反省したとか。その理由について、松本氏は「一気見しちゃうと、全然ワニが好きじゃないうちに死んじゃうんですよ。僕が悪いです。僕がワニを好きになる事を失敗したんですよ」と説明していますが、さすが、うまいこと言いますね!

それでも、「100日後に死ぬワニ」がSNSで成功したことは事実です。そして、多くの読者は「命あるものは必ず死ぬ」「自分の命日がいつになるかわからない」という事実だけは知ったことでしょう。わたしは、この作品のメッセージは、一条真也の読書館『あした死ぬかもよ?』で紹介した本のそれに似ていると思いました。ひすいこたろう氏のベストセラーですが、サブタイトルは「人生最後の日に笑って死ねる27の質問」となっています。「今日が人生最後の日と考えて、ベストを尽くそう」「死んでから後悔しても遅いので、今やろう」という気にさせる質問が並んでいるのですが、オンパレードというか27問を波状攻撃で質問されると、「いま、生きている」ことが奇跡のように思えて、とても有難く感じられてきます。

『あした死ぬかもよ?』の23番目の質問は「もし今日が人生最後の日だとしたら、今日やろうとしていたことをする?」というものですが、ひすい氏は「サムライとは、『いかに死ぬか』。つまり、『この命を何に差し出すか』ということを、いつも問うていた人たちだったと。武士道の聖典といわれる『葉隠』の中でも、『武士道というは、死ぬことと見つけたり』とあります。死があるからこそ、命の尊さに気づき、命の使い方に真剣になれるのです。完全に死ぬために、いま、ここ、この一瞬一瞬を完全に生きよと。そして、いつか死ぬ身であることを日ごろからハラに落としこんでいるからこそ、ここ一番の場面では、人のためにその命を投げ出せたのです」と述べています。まさに、『100日後に死ぬワニ』の最終回を連想させる内容です。

近刊『死を乗り越える名言ガイド』(現代書林)

質問だけでなく、『あした死ぬかもよ?』の中には数々の名言が散りばめられており、それを受ける著者のメッセージも熱いです。たとえば、本書の冒頭にある「もっと冒険しておけばよかった」で、著者は次のように書いています。
「どういうわけか、人は『自分だけは死なない』と思っています。『死ぬのはいつも他人ばかり』。画家のマルセル・デュシャンが、そう墓碑銘に刻んだように。
でも、残念ながら、僕らが死にいたる可能性は100%です。『オギャー』と、うぶ声をあげた瞬間から、1秒1秒、いまこの瞬間も死に近づいています。かつてサムライたちが、あれだけ潔く、情熱的に生きられたのは、『自分はいつか死ぬ身である』という事実から目をそらさずに、『この命を何に使おうか』と、日々心を練っていたからです。死をやみくもに恐れるのではなく、サムライたちのように、死を、ちゃんと、『活用』しませんか?」
「死」を考える名言といえば、もうすぐ、わたしは99冊目の「一条本」となる『死を乗り越える名言ガイド』(現代書林)を上梓します。古今東西の聖人、哲人、賢人、偉人、英雄たちの「死」についての前向きな言葉を集めました。

ところで、現在、『100日後に死ぬワニ』をめぐって、炎上騒ぎが起きています。炎上の理由は、最終回と同時に突如発表された数々のメディアミックスです。「書籍化決定!」「アニメ映画化決定!」「グッズ・イベントなど続々!」の告知が流れ、「いきものがかり」とのコラボムービーも公開されました。あまりに鮮やかなタイミングにネット民からは「最初から商売ありきだったのか」などの声が上がりました。さらに、「作者は電通と関係していた」などと書き込まれました。つまり個人が細々とやっていたほのぼのマンガが、実は大手資本や広告代理店による壮大な仕掛けだったと疑われたわけです。

近刊『心ゆたかな社会』(現代書林)

来月、わたしは100冊目の「一条本」となる『心ゆたかな社会』という本を上梓する予定です。同書にも書いたのですが、最近の日本人の間に「儲けるのを嫌う」ムードを強く感じます。「嫌儲社会」に向かう流れの中で、「死」や「葬」や「グリーフ」に関するビジネスは細心の注意を払わなければならないと考えています。そんなことを「バク転神道ソングライター」こと宗教哲学者の鎌田東二先生へのメールに書いたところ、鎌田先生からの返信メールには「グリーフケアもスピリチュアルケアも商売ではないと思います。が、継続的に維持するためにも、一定の財政基盤は必須です。それがなければ、教育も人材養成もできません。ビジネスライクはいただけませんが、しかし、ビジネスとして展開維持できる仕組みも重要です。会社、NPO、NGO、行政・福祉、よき連携も必須です」と書かれていました。同感です!

第3弾『満月交心』に御期待下さい!

鎌田先生といえば、今夜、先生とわたしの満月の夜のWEB往復書簡である「ムーンサルトレター」の第180信がUPされました。鎌田先生がレターの最後に書かれた「非常事態宣言が掛かっていかに外出制限されたとしても、『心の外出は自由』です!」という言葉には感動しました。
2005年10月20日の夜にわたしが第1信を書いてから、ちょうど15周年になります。わたしは、ひそかにギネス級ではないかと思っています。第1信から第60信までは『満月交感』、第61信から第120信までは『満月交遊』にまとめました。第121信から第180信までは、『満月交心』のタイトルで今秋までに刊行したいと思っています。どうぞ、お楽しみに!

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