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2020.07.25
24日、親族の結婚式に参列しました。コロナ禍の中にあっても、やはり結婚式とは幸福のセレモニーであると再確認しました。新郎新婦の末長いお幸せをお祈りします。
『実践 幸福学』友原章典著(NHK出版新書)を読みました。「科学はいかに『幸せ』を証明するか」というサブタイトルがついています。著者は青山学院大学国際政治経済学部教授。1969年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。ジョンズ・ホプキンス大学大学院Ph.D(経済学)。米州開発銀行、世界銀行コンサルタント、ニューヨーク市立大学助教授、UCLA経営大学院エコノミストを経て現職。
本書の帯
本書の帯には「日本はG7最下位の男性優位社会」「でも、女性の幸福度が圧倒的上。その理由とは?」「男女間の幸福度格差は世界一!」「行動経済学の俊英が、科学的データをもとに『幸せ』のあり方を提唱する」と書かれています。
本書の帯の裏
帯の裏には、「お金に執着する人は、不幸になる?」「幸せも不幸も伝染する?」「自分にお金を使うより、他人に使ったほうが幸せになれる?」「幸運な人=幸せな人?」「150もの最新論文を参照してまとめあげた『幸福学』の決定版!」と書かれています。
さらに、カバー前そでには、以下の内容紹介があります。
「『幸せはお金では買えない?』『お金に執着する人は、不幸になりやすい?』『お金持ちは、貧乏な人よりも幸せ?』……こうした疑問にに科学はどう答えるのか。行動経済学の専門家が、最新の『幸福学』の知見とデータをもとに、一人一人の特性に合った『幸せ』を提唱する」
本書の「目次」は、以下の構成になっています。
「まえがき」
幸せペンタゴン・テスト――あなたの幸せ度をチェックする
第1章 誰がいったい幸せか
1 幸せな人生を予知する
――デュシェンヌ・スマイル
2 お金でできること、できないこと
――幸福の逆説への反証
3 ちやほやされたい
――年齢、学歴、美容整形
4 誰が勝ち組で、誰が負け組なのか
――キャリア、結婚、子育て
5 性格と健康の関係で見る幸せ
――心身一如
6 幸運は自分で切り開く
――幸運な人の特徴
第2章 幸せとは目指してつかむもの
1 危機に対する防衛本能
――闘争・逃走本能
2 ストレスを溜め込まない対処法
――科学のお墨付きの気分転換
3 ストレスに強い人、弱い人
――脳の反応
4 幸せな人をまねてみよう
――ポジティブ心理療法
5 無意識に行う考え方の癖
――認知のゆがみ
6 なりたい自分になる
――アファメーション
第3章 幸せとはありのままを
受け入れるもの?
1 今、この瞬間に意識を向ける
――マインドフルネス
2 感情を言葉にしてみよう
――ラベリング
3 マインド・ワンダリングでストレス進化
――デフォルト・モード・ネットワーク
4 マインドフルネスで変わる
――脳あ遺伝子の変化
5 アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)
――価値観と行動
6 伸びしろが期待されるマインドフルネス
――第三世代の認知行動療法
第4章 自分に合った幸せを見つける
1 頼ること、頼られること
――社会とのつながり
2 信じる者は、幸せになる?
――宗教やスピリチュアル
3 最強の処方箋はどれだ
――ポジティブ心理療法vs.マインドフルネス
4 人生の季節に合った生き方をする
――幸せ成分の調合法
「あとがき」
「出典一覧」
「まえがき」の冒頭を、著者はこう書きだしています。
「私は大学で幸福の経済学を教えています。幸福の経済学は、行動経済学の一分野で、心理学や社会学、神経科学とも関係がある学際的な分野です。お金で幸せになれるかなどは、幸福の経済学を説明する分かりやすい例です。行動経済学は、心理学と経済学が融合したもので、心理学的な事実と整合性のあるように経済モデルを構築します。また、神経経済学は、神経科学と経済学や心理学が融合したもので、神経科学(いわゆる脳科学)に基づいて経済的な意思決定を解明しようとします。ここ数十年で急速に発展した分野で、いずれも最近、人気の分野です。
幸せについては、心理学、神経科学、政治経済学をはじめ、いろいろな学問分野で研究されているそうです。ただ、同じ対象を異なる角度から見ているだけで、脳の反応であろうが、心の動きであろうが、結局、似たような結論に集約していくとして、著者は「幸せのために重要なこと。それらは意外と単純です。人生の価値観をしっかり持ち、感謝や親切の気持ちを忘れてはいけません。お金はあるに越したことはありませんが、一般的に思われているほど重要ではありません。むしろ、身近な人を気遣って、安定した人間関係を築くことが大事です。また、楽観的に考えられ、人生を変えられると思う人は、幸せを引き寄せています」と述べています。
本書には、幸せに感じるための工夫がまとめてありますが、150近い論文を参照して執筆された知の結晶だそうです。科学に基づいてよりよい生き方の工夫が記された本書には、類書にはない次のような特徴があるとして、著者は「まず、従来の幸福学で認知されている事柄は概観するに留め、最近の研究を踏まえて、新しい知見に大幅に紙面を割いています。また、おなじみのトピックスに関しても、新しい切り口を提供しています。幸福の逆説(お金では幸せになれない)や子育て(子育てで親は不幸になる)に対しては、お金の恩恵は否定されていないことや子育てで不幸になるわけでもないことを見ていきます。また、結婚による恩恵があることや共働きよりも専業主婦(主夫)のほうが幸せな可能性についても触れていきます」と説明します。
また、著者は「就活、婚活、子育て、定年、終活など、人生の節目だけでなく、日々の生活は、大変なことの連続です。そうした中で、誰でも幸せになるにはどうしたらよいかと考えているでしょう」と読者に問いかけます。本書の執筆も、科学的に信頼できる方法はないものかと思いながら、いろいろな文献を読んだことが始まりだといいます。そして、「多くの研究に共通していたことは、人とのつながりが重要だということです。結局、人は、社会性のある生物なのでしょう。一人では、幸せに生きられないようです」と述べています。まったく同感です。
第1章「誰がいったい幸せか」の1「幸せな人生を予知する――デュシェンヌ・スマイル」では、「将来おひとり様か否かは卒アルで分かる?」として、カリフォルニア大学バークレー校の心理学者ハーカーとケルトナーが、女子大学の卒業アルバムの写真を使って研究を行ったことが紹介されます。彼女たちの写真の表情を分析することにより、その後の人生との関係を調べたわけですが、30年にわたる追跡調査の結果、「デュシェンヌ・スマイル」をする女性の多くは、幸せな人生を送っていたことが判明しました。デュシェンヌ・スマイルとは、「本物の笑顔」と呼ばれる表情のこと。フランスの神経学者デュシェンヌにちなんで名づけられましたが、大頬骨筋によって口角が上方外側に引き上げられるだけでなく、眼輪筋が収縮して、目の下の頬が上がったり、目の端にカラスの足跡のようなシワができる笑顔のことです。
ハーカーとケルトナーの研究結果について、著者は「デュシェンヌ・スマイルを見せた人たちが、その後の人生において、幸せに感じているのはなぜでしょうか」と疑問を提示し、以下の2つの可能性を紹介しています。1つは、「もともとの性格と精神的成長の伸びしろです。本物の笑顔は、良好な人間関係を築いたり、状況を適切に認知したりする能力を反映しています。幸せな環境作りがうまいわけです」というもの。もう1つは、「デュシェンヌ・スマイルが強い人ほど、年をとるにつれて、精神的に安定して、目標に向かって努力をするだけでなく、嫌な出来事にも捕らわれないようになっていきます。幸せになる素養があるだけでなく、人間的に成長し続けて、幸せを引き寄せるようになるのです」というものです。
わたしの専門テーマであるグリーフケアにおいてもデュシェンヌ・スマイルは重要な役割を果たすようで、著者は「配偶者を亡くす悲劇に見舞われた時、デュシェンヌ・スマイルを見せる遺族は、高い『レジリエンス(精神的回復力)』を示します。3年間以上生活を共にした配偶者の死後、約2年後までインタビューが行われ、その時の顔の表情を分析しました。すると、亡くなった配偶者の話をしている時に、デュシェンヌ・スマイルを見せた遺族ほど、配偶者を亡くした喪失から早く立ち直っていたのです」と述べています。この事実は、非常に興味深く感じました。
『愛する人を亡くした人へ』(現代書林)
拙著『愛する人を亡くした人へ』(現代書林)にも書きましたが、わが社では葬祭部門のスタッフにも笑顔を求めています。営業や冠婚部門に笑顔が必要なのは当然ですが、葬祭部門には関係ないのではと思った人もいるかもしれません。しかし、それは誤った認識です。仏像は、みな穏やかに微笑んでいます。これは優しい穏やかな微笑みが、人間の苦悩や悲しみを癒す力を持っていることを表しています。葬儀だからといって、暗いしかめ面をする必要などまったくないのです。わが会社のセレモニーホールの「お客様アンケート」を読むと、「担当の方の笑顔に癒されました」とか、「担当者のスマイルに救われた」などの感想が非常に多いのですが、これは大変嬉しく思います。もちろん、葬儀の場で大声で笑ったり、ニタニタすることは論外ですが、おだやかな微笑は必要ではないかと思います。
『孔子とドラッカー新装版』(三五館)
『孔子とドラッカー 新装版』(三五館)でも「笑い」について書きましたが、「笑う門には福来たる」という言葉があるように、「笑い」は「幸福」に通じます。笑いとは一種の気の転換技術であり、笑うことによって陰気を陽気に、弱気を強気に、そして絶望を希望に変えるのです。さらに、地上を喜びの笑いに満たすことが政治や経済や宗教の究極の理想ではないだろうか。「笑い」のない宗教も哲学もどこかいびつで、かたよっているように思う。実際、ソクラテスはよく笑ったし、老子もよく笑った。如来もそうだし、ブッダもしかりである。さらには、孔子もよく笑っていたと想像される。『論語』の中には、孔子が弟子をからかってみたり、冗談を言ってみたり、非常に和やかなムードが満ちているのです。ちなみに、ドラッカーもユーモアにあふれた人で、よく笑ったそうである。
笑顔など見せる気にならないときは、無理にでも笑ってみせることです。アメリカの心理学者ウイリアム・ジェイムズによれば、動作は感情に従って起こるように見えるけれども、実際は、動作と感情は並行するものであるといいます。だから、快活さを失った場合には、いかにも快活そうにふるまうことが、それを取り戻す最高の方法なのです。不愉快なときにこそ、愉快そうに笑ってみることが大切ですね。著者も、「脳をだまして幸せになろう」として、「実は、作り笑顔でも、ストレスには、よりよく対応できます。口にお箸を挟むとデュシェンヌ・スマイルみたいになりますが、こうした作り笑顔でも効果があるのです。ストレスで心身が緊張していると、自律神経のバランスが崩れ、心拍数が高くなります。そこで、ストレスがかかる時に、人為的に笑顔を作ります。すると、ストレスから回復する時の心拍数が低くなるのです」と述べています。
2「お金でできること、できないこと――幸福の逆説への反証」では、「プライスレス――幸せはお金で買えない?」として、著者は以下のように述べています。
「一般的に、お金が手に入ると幸せになると思われています。しかし、『幸福の政治経済学』で著名なフライとスタッツァによると、必ずしもそうではありません。たとえば、宝くじに当たった人は、幸せになっていません。一時的に幸せに感じますが、その後、借金を頼まれるなど悩み事が増えるからです。また、お金に執着する人は不幸になりやすいとされています。ほとんどの人は、満足のいくお金を手にできず、失望感を味わうだけでなく、お金を稼ぐ過程で、人間関係を犠牲にすることも多く、孤独を感じることも原因です。古典的な心理学の知見は、概してお金の効能に否定的です。経済学の研究でも、幸せはお金で買えないという有名な見解があります。国家が経済的に成長しても、国民一人ひとりが幸せに感じていないからです。こうした状況は、『幸福の逆説』(または「イースタリン・パラドックス」)と呼ばれています」
所得が増えても幸せにならない。この奇妙な現象には、いくつかの説明があるとして、そのうちの2つを著者が紹介します。1つは、周囲との比較です。著者は、「私たちは、自分の所得が増えても、周りの所得も増えていれば、あまりありがたみを感じません。所得の絶対額だけが問題なのではなく、むしろ、自分の所得を、周囲の人たちの所得と比べて、どう感じるかという相対性が大事なわけです。特に、現在のように他人との交流が盛んになると、自分の所得が高いとか低いとかいうことに敏感になります。身近な人としか接しない場合に比べ、比較する相手の数も多くなるからです」と述べています。もう1つは、「私たちは、新しい環境に適応(順応)します。所得が増加しても、やがてそれを当たり前に思ってしまうのです。増加した所得による快楽の変化に慣れてしまうことは、『快楽の踏み車』と呼ばれます。また、期待も変化します。所得が増えて社会的な地位が上がると、より多くの所得を望むようになります。こうした期待値の変化に注目した考え方は、『野心の踏み車』と呼ばれます。このため、せっかく所得が増えても、思ったほど幸せに感じないことになります」と述べています。
「幸せを招くお金のうまい使い方」として、著者は「結局、お金で幸せになれるのでしょうか」と読者に問いかけた後、「結論として、ある程度の影響はありますが、それほど重要とまでは言えません。もちろん、お金はないと困りますし、あったほうがよいに違いありません。ただ、他の要因のほうが、より大きな影響があります。経済学的には、所得よりも失業やインフレのほうが重要だとされています。失業は幸福感を著しく低下させるだけでなく、時間がたっても元の幸福感には回復しないからです。失業の場合、所得の変化のようには適応できず、慣れてしまうことはありません。また、心理学的にも、物質的な快楽は長続きしないことが指摘されています。このため、幸福感を改善したいのであれば、所得(お金)よりも影響力のある要因のほうが重要だと考えられています」と述べています。
また、お金の使い方には、体験以外の知見もあります。自分にお金を使うより、他人に使ったほうが幸せになれるということです。著者は、「毎月の支払いのうち、自分へのご褒美や経費などの自分のために使う支払いは、幸福感とは関係が見られません。しかし、他人への贈り物や献金をした時には、幸福感が高まります。こうした他人を助けたりする行動は、『向社会的』と言われます。お金を使う時には、社会性のあるほうが幸せに感じるのです。向社会的な支出が幸福感を高めることは、文化的な違いにかかわらず、万国共通の性質です」と述べています。確かに、今回の新型コロナウイルスの感染拡大に際しても、医療従事者などに多額の寄付をする有名人が多かったですが、向社会的な支出が幸福感を高めたのかもしれませんね。これを「売名行為」などとケチをつける人がいますが、誰も損をしなくて得をするわけですから、素晴らしいことだと思います。
『幸せノート』(現代書林)
本書の中で最も気になったのは、第1章「誰がいったい幸せか」の4「誰が勝ち組で、誰が負け組なのか――キャリア、結婚、子育て」です。特に「結婚すれば幸せになるのか否か」ということが気になりました。なぜなら、わたしは『幸せノート』(現代書林)を世に問うたことがあるからです。この問いについて、「やっぱり結婚で幸せになる」として、著者は「実は、結婚している人のほうが、幸せだと感じています。未婚の人、離婚した人、死別した人や片親で子育てをしている人(シングルマザーやファーザー)よりも、幸せに感じる傾向があるのです。この傾向は、性別にかかわらず、男女ともに当てはまります。これは、結婚によって人との結びつきを強く感じるためだとされています。常に、身近に話し相手がいると、孤独から解放されたり、ストレスが解消されたりするからです。予想通りの結果かもしれません。人には社会性があるからです。社会性とは、一人で生活するのではなく、社会とつながりながら生きる性質のことです。結婚による恩恵として、親や兄弟、友人とは違った種類の対人関係を築いていることになります」と述べています。
次に、結婚→幸せ、それとも、幸せ→結婚、という因果関係が気になりますが、著者は療法の効果が存在するとして、「まず、幸せな人は結婚する傾向があります。将来結婚する人とずっと独身の人の幸福感を比べると、一部の層(30歳前後時点で独身である人)を除き、将来結婚する人のほうが、ずっと独身の人よりも、独身時代における生活満足度が高いことが示されています。また、幸せな人が結婚しやすいことを考慮しても、結婚すると幸せになります。結婚による恩恵には、健康(身体的・精神的)を含め、いろいろ指摘されています。なかでも、既婚、独身を問わず、加齢などに伴い、私たちの幸福感が低下する時期がありますが、結婚はその低下を緩和してくれます」と述べています。
また、「良好な男女関係を長続きさせるには」として、著者は「結婚生活の継続は、配偶者の喪失や離婚に比べて、毎年約1000万円の価値があるという研究があります。また、配偶者が最良の友であると、そうでない場合と比べて、結婚による幸福感が高くなります。特に、男性よりも女性のほうが、その効果が大きいとされます。夫が妻の最良の友ならば、妻の幸福感は大幅に増進するわけです」と述べています。この言葉はじつに耳が痛いですが、つねに妻への感謝を忘れてはいけないと思いました。
5「性格と健康の県警で見る幸せ――心身一如」では、著者は「健康は、幸福感を左右する重要な要因です。年齢や性別にかかわらず、身体的な健康は、幸福感と関係があります。また、実際の健康状態はもちろんのこと、健康だと思っている人ほど幸せに感じます。自己の健康評価と幸福感の相関は、健康診断の結果と幸福感の相関よりも強いのです。こうした結果は、多くの国において当てはまります」と述べています。一条真也の読書館『幸福の習慣』で紹介した本のテーマは「ウェル・ビーイング」でした。これは、WHOの「健康憲章」の中に登場する言葉です。「ウェル・ビーイング」とは「幸福・福利・健康」などと訳されています。つまるところ、人間が「満足な状態」にあることを示す言葉ですね。わが社にとっては非常に懐かしい言葉で、創立20周年のスローガンが「Being! Wellbeing」、すなわち「ウェル・ビーイングでいよう!」でした。また、現在は「Ray!」と題されているわが社の社内報も、その前は「Wellbeing」というタイトルでした。ですから、サンレーグループの社員には馴染みのある言葉なのです。当時、財団法人・日本心身医学協会の理事長を務めていた佐久間進会長が導入した言葉ですが、現代社会のキーワードになっていると知り、佐久間会長の先見性に驚かされました。
サンレーグループ創立20周年のスローガン
6「幸運は自分で切り開く――幸運な人の特徴」では、「幸運な人は幸せな人」として、著者は「幸せ(happiness)の語源は、運や偶然(hap)です。幸運な人は、そうでない人に比べて、人生の満足度が高くなっています。人生全般だけでなく、家族、経済状況、健康、仕事などの個別の質問に対しても、高い満足度を示します」と述べます。また、幸運な人には、いくつかの特徴があるとして、「まず、幸運な人は、偶然の出会いやチャンスに恵まれています。また、夢や目標が実現しやすく、逆境をチャンスに変える力があります。さらに、無意識のうちに正しい選択をしています。一方、不運な人は、その反対です」と述べます。
さらに、「幸運な人は未来志向」として、著者は「幸運な人の考え方には、不運も幸運に変えてしまう特徴があります。幸運な人は、不運な出来事にあっても、よいところを探します。最悪の結果を想像し、それに比べればまだましと考えるので、交通事故で足を骨折しても、命が助かってよかったと思うのです。このように、気持ちをうまく切り替えられると、運気が戻ってきます。また、不運な人と比べて、自分のほうが恵まれていると思えます。そして、一見、不運に見える出来事でも、長い目で見ると幸運をもたらすと考えているのです」と述べるのでした。確かに大成功した実業家などを見ると、みんな揃って未来志向というか、何事も陽にとらえるところがありますね。いわゆる「ポジティブ」思考の持ち主ですね。
「ポジティブ」というキーワードは、第2章「幸せとは目指してつかむもの?」の4「幸せな人をまねてみよう――ポジティブ心理療法」でも登場します。「ポジティブな感情で成功する」として、著者は「幸せな人は、自分をポジティブに評価しているので、自信があります。他人にもポジティブな態度で接し、社交的かつ活動的で、好奇心も旺盛です。このため、ストレスと上手に向き合え、余暇の活動や人との関わりを楽しむ傾向が見られます。また、喫煙や暴飲暴食、薬物やアルコールの乱用のように、健康を害することをしません。こうしてみると、幸福感は、成功をもたらす行動と大いに関係しているのが分かります」と述べています。
それだけではありません。「ポジティブな感情」で表される喜びなどの幸せは、仕事、人間関係や健康に見られる成功の原因と考えられているとして、著者は「幸せな人は、その後の人生において、生産的な仕事をしたり、満足のいく人間関係を構築したり、心身の健康を享受したりしているからです。就職しやすく、業績を上げ、上司による評価も高いだけでなく、仕事によって燃えつきることもあまりありません。健康的で、友人が多く、社会支援のネットワークを持っています。その源となっているのが、ポジティブな感情です。つまり、成功が人を幸せにするだけでなく、ポジティブな感情が成功に導くわけです」と述べます。
『心ゆたかな社会』(現代書林)
第3章「幸せとはありのまま受け入れるもの?」では、1「今、この瞬間に意識を向ける――マインドフルネス」として、現在注目されている「マインドフルネス」が取り上げられます。わたしも、最新刊『心ゆたかな社会』(現代書林) で、マインドフルネスに言及しました。著者は、「マインドフルネスとは、価値判断することなく、現在のこの瞬間に意識を向けることです。無理にポジティブに考える努力をすることではありません。過去でも未来でもなく、現在に注意を向け、今起こっている事実を客観的に観察するように努めます。すると、ネガティブな思考や感情に陥りにくくなります」と説明しています。
また、著者は、以下のように述べています。
「マインドフルネスの定義は分かりにくいかもしれません。初めて聞いたのであれば、なおさらです。分かりやすいイメージは、『瞑想』です。マインドフルネスという概念は、原始仏教にルーツを持ちます。ブッダのアプローチが、禅や東南アジアのヴィパッサーナ瞑想を経て、現代のマインドフルネスに取り入れられました。ただし、仏教に帰依するわけではなく、僧侶のようなつらい修行も積みません。現代のマインドフルネスは、宗教性を排除し、瞑想や『ヨガ』などを利用して実践されています。また、その効果は科学的にも証明されてきています。マインドフルネスに基づいた瞑想を行うと、比較的短い期間にもかかわらず、心身への効果が表れます。また、その効果を実感するには、何年にもわたる長期間の瞑想が必要ではないのです」
2「感情を言葉にしてみよう――ラベリング」では、「言葉がネガティブな感情を解放する」として、著者は「もし、過去に引き戻されて怒りを感じたら、過去の怒りが癒えていないと自覚するように努めてみましょう。自分を客観的に観察するわけです。そして、怒ってしまったら、何度でもその自覚をします。こうして、機会あるごとに自覚の訓練を続けていると、記憶が作り出す過去の怒りが徐々に消えていきます。自分を客観的に見る際には、言葉にして、『私は怒っている』と言ってみるとよいでしょう。そして、言葉に意識を向け、その言葉を繰り返します。このような手法は、『ラベリング』と言いま」と述べていますが、これなど誰にでも実践できる良い方法だと思います。
3「マインド・ワンダリングでストレス悪化――デフォルト・モード・ネットワーク」では、「気分が落ち込むマインド・ワンダリング」として、著者は「私たちは、常に余計なことを考えています。会議に参加しながら、『このあとビールでも飲もうかな。おつまみは……』と思うのはよくあることです。ただ、おつまみを思案している間にも、メモをする手は休みません。無意識のうちに動き続けています。こうした心の状態は、『マインド・ワンダリング』と呼ばれます。目の前の行為に集中していない状態です。通常、マインド・ワンダリングは、私たちを不幸な気分にしています」と述べていますが、これは初めて知った言葉でした。勉強になりました。
また、著者は「みなさんもよく、昔の出来事を思い出してクヨクヨすることはないでしょうか」と読者に問いかけ、「これは、すでに存在しないもの、つまり、記憶が生み出した妄想に悩んでいる状態です。また、将来を心配して不安になることもあるでしょう。明日、○○したらどうしようとソワソワしてしまうことです。これは、まだ起こってもいないことを妄想し、勝手に悩んでいる状態です。過去にしろ、未来にしろ、余計なことを考えているわけです。こうしたマインド・ワンダリングは、ストレスを悪化させます。過去や未来を考えることで、ストレスが溜まってしまうからです」と述べています。非常に納得できました。
さらに、著者は「ストレスは脳が感じるものです。たとえば、ぼんやりと過去の悲しい出来事を思い出して、○○しておけばよかったとクヨクヨします。そして、気がつくと、何度も同じことを考えていることはないでしょうか。このように、ネガティブな思考を繰り返すことを『反芻思考』と言います。反芻思考は、脳を疲れさせ、私たちを疲弊させます。反芻思考は、うつ病患者によく見られ、うつ病の身体的症状の1つが、疲労感や倦怠感です。私たちは、日常の動作を意識せずに行っています。歩いたり、食べたりはその典型です。身体に意識を向けなくても、自動的に身体を操縦しているわけです。ただ、身体が自動操縦されると、過去や未来のことを考えやすくなり、不安になってしまうのです」と述べています。これは、コリン・ウイルソンが「脳のロボット状態」と呼んだ現象を指している思いました。体が疲れたときほど暗い想念に取りつかれるのは事実ですので、気をつけたいものですね。
第4章「自分に合った幸せを見つける」の1「頼ること、頼られること――社会とのつながり」では、「幸せな人のそばにいると、幸せになれる」として、著者は「幸せになりたければ、幸せな人のそばにいることです。カリフォルニア大学サンディエゴ校の政治学者フォウラーとハーバード大学医学大学院の社会学者兼医師のクリスタキスによると、「幸せ」は、社会的なつながり(付き合いの輪)を通じて、伝播します。個人の幸せが、時間の経過とともにどのように波及するかを、20年にわたる追跡調査に基づいて研究した結果です」と述べています。これも共感できる内容でした。
また、著者は再び「結婚」について取り上げ、「安定した結婚生活で、認知力がアップ」として、こう述べています。
「人との関わりという意味では、安定した結婚も恩恵があります。認知症でない70歳から90歳の人を対象にした研究では、軽度認知障害や認知症を防ぐ要因として、結婚が挙げられています。一方、加齢や嗅覚が弱いとそれらの危険が高まります。面白いことに、これには性差もあります。女性よりも男性は、軽度認知障害や認知症の危険が高いとされています。喫煙経験がある男性も、記憶力の低下を起こしやすくなります。一方、嗅覚が弱い女性は、軽度認知障害や認知症の危険が高くなります」
さらに、「ストレス反応を緩和する、身近な頼れる人の存在」として、著者は「社会とのつながりには、こちらからの働きかけだけでなく、相手からの支援も含まれます。学術的には、『社会支援(ソーシャルサポート)』という分野において、研究対象となっています。頼ることでも、よい効果があるのです。社会支援とは、助けが必要な時に、手助けしてくれる人とのつながりです。家族や友人だけでなく、近所や地域の人との親密な関係を含みます。そして、滅入っている時(精神的)や体が動かない時(肉体的)だけでなく、お金に困った時(金銭的)にも助けを求められることとされています。社会支援は、ストレスへの反応を緩和し、心身の健康を促進します」と述べています。まさに、アリストテレスも言ったように、人間とは「社会的動物」なのですね。
『隣人の時代』(三五館)
『隣人の時代』(三五館)に詳しく書きましたが、わが社では一人暮らしの高齢者を中心とした食事会である「隣人祭り」の開催をサポートしてきました。孤独死をなくすことが目的だったわけですが、「孤独な人ほど、早く亡くなる」として、著者は「社会支援の恩恵は、死亡率にも表れます。ブリガム・ヤング大学の心理学者ホルト=ルンスタッドらが行ったメタ分析によると、孤独な人ほど、早く亡くなる傾向があります。35年分の研究を検証したところ、社会的孤立や一人暮らしという客観的な指標以外にも、孤独感という主観的な指標も含めた全ての孤独の指標が、死亡率と関係していました。社会的孤立により29%、一人暮らしでは32%、孤独感では26%、死亡する確率が上昇します。この傾向は、性別や地域とは関係ありません」と述べています。
血縁や地縁が希薄化し、現実には社会の「無縁化」が進行していますが、新たな「縁」をフェイスブックなどのSNSに求める人は多いようです。しかし、「SNSでの友人数は幸せとは関係ない」として、著者は「現実世界で直接、人間関係を構築する重要性は分かりました。では、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のように、インターネット上での交友関係はどうでしょうか。これからの社会を占うような研究についても見てみましょう。大学生の場合には、フェイスブックの友人数が多いほど、幸せに感じています。しかし、その幸福感は、社会支援とは関係なく、単に友人数の多さへの満足でした」と述べています。
さらにフェイスブックについて、著者は「ヘルシンキ大学の心理学者レンクヴィストとベルリン自由大学の心理学者デタースによる研究では、フェイスブック上の友人の多さは、幸せと関係ないとしています。大学生の場合、フェイスブック上の友人が多くても、よりよい社会支援を享受していると感じていませんでした。ここまでは一緒ですが、彼らの分析は、もう一歩踏み込みます。友人数の多さは性格と関係するため、性格の影響を取り除くと、フェイスブック上の友人数と幸せには関係がなくなると指摘したのです。性格の中でも、特に、外向性の影響を調整するだけで、フェイスブック上の友人数と幸せには関係がなくなります。単に、社交的な人ほど幸せに感じていたに過ぎないのです。結局、現段階では、インターネット上での交友関係は、現実の交友関係に比べると、幸せへの影響はさほど強くないと言えます」とも述べています。我が意を得たり、といった思いです。
最後に、幸福感といえば信仰の問題と切っても切り離せません。2「信じる者は、幸せになる?――宗教やスピリチュアル」では、「宗教の恩恵は、人とのつながりや精神性」として、著者は「信仰心がある人は、そうでない人よりも、幸せです」と断言します。そして、「信仰心がある人が、幸せに感じるのは、人とのつながりが広がるためだとされています。ウィスコンシン大学マディソン校の社会学者リムとハーバード大学の社会学者パットナムは、それ以外の要素は、幸せにあまり関係ないとしています。教義による恩恵より、人との交流による恩恵が幸せの源だと言うのです。宗教が私たちを幸せにするメカニズムを調べると、宗教的な集会に多くの親友がおり、その宗教が自己意識に重要である時だけ、宗教は幸せと関係していました。一方、集会にあまり親友がいない人では、宗教が自已意識に重要と感じていても、幸福感に影響がありません。つまり、宗教が心のよりどころであっても、独りぼっちでは、宗教によって幸せにならないことになります」と述べるのでした。
本書は、膨大なデータを駆使して「幸福」について探求しており、日頃から「幸福とは?」とか「心の豊かさとは?」とか、そんなことばかり考えているわたしにとって非常に参考になりました。わが社は冠婚葬祭互助会ですが、「結婚」を増やす婚活事業や「孤独死」をなくす隣人交流イベントなどに取り組んでいます。冠婚葬祭は神道や仏教やキリスト教などの宗教にも密接な関係があり、「人とのつながりや精神性」を求める信仰というテーマとも通じています。さらには、ホスピタリティやマインドフルネスやグリーフケアにも取り組む互助会は、日本人の「幸福」に大きく寄与することができるという確信を得ることができました。そう、互助会経営とは幸福学の実践そのものなのです。