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No.2028 プロレス・格闘技・武道 | 書評・ブックガイド 『書評の星座 紙プロ編』 吉田豪著(集英社)
2021.04.14
『書評の星座 紙プロ編』吉田豪著(集英社)を読みました。一条真也の読書館『男の星座』で紹介した本の続編で、「吉田豪のプロレス&格闘技本メッタ斬り1995-2004」というサブタイトルがついています。著者は1970年、東京都生まれ。プロ書評家、プロインタビュアー、コラムニスト。編集プロダクションを経て「紙のプロレス」編集部に参加。そこでのインタビュー記事などが評判となり、多方面で執筆を開始。格闘家、プロレスラー、アイドル、芸能人、政治家と、その取材対象は多岐にわたり、「ゴング格闘技」をはじめさまざまな媒体で連載を抱え、テレビ・ラジオ・ネットでも活躍の場を広げています。著書に一条真也の読書館『吉田豪の空手☆バカー代』で紹介した本をはじめ、『人間コク宝』シリーズ(コアマガジン)、『聞き出す力』『続聞き出す力』(日本文芸社)、『サブカル・スーパースター鬱伝』(徳間書店)などがあります。
本書の帯
表紙カバーには本書に登場する格闘技本の表紙画像が使われ、帯には著者の写真ともに、「あの問題連載が帰って来た!」「永久保存版」「『紙のプロレス』『紙のプロレスRADICAL』にて数え切れぬトラブルを起こした全書評294冊分を収録」「この1冊でわかるプロレス&格闘技『裏面史』!」と書かれています。
本書の帯の裏
帯の裏には、登場する本の書名と著者名が並んでいます。
「『やっぱり全女がイチバーン!』ロッシー小川★『傷つくもんか!』井上貴子★『いちばん強いのは誰だ』山本小鉄★『開戦!プロレス・シュート宣言』田中正志★『猪木寛至自伝』猪木寛至★『必殺!プロレス激本』★『プロレス「監獄固め」血風録』マサ斎藤★『強くて淋しい男たち』永沢光雄★『たたかう妊婦』北斗晶★『光を掴め!』佐々木健介★『ネェネェ馬場さん』馬場元子★『「反則ですか?」』小川直也★『力道山がいた』村松友視★『喧嘩空手一代』安藤昇★『船木誠勝 海人』安田拡了★『クマと闘ったヒト』中島らも、ミスター・ヒト★『つぅさん、またね。』鶴田保子★『すべてが本音。』秋山準★『破壊から始めよう』橋本真也、中谷彰宏★『流血の魔術 最強の演技』ミスター高橋★『倒産!FMW』荒井昌一★『弾むリング』北島行徳★『身のほど知らず。』高山善廣★『鎮魂歌』冬木弘道★『悪玉』尾崎魔弓★『会いたかった』向井亜紀……」
前作同様、著者のプロレス&格闘技本の書評コレクション第二弾も大変面白かったです。取り上げているのが1995年から2004年の本ということで、最初は「情報が古いかな」とも思ったのですが、わたしが知らなかったこともたくさん書かれており、新しい情報を得ることができました。考えてみれば、1995年から2004年というのはプロレス&格闘技の世界は激動期でした。1995年の武藤vs髙田の「10・9」に始まって、1997年の髙田vsヒクソンの「10・11」、1998年の猪木引退を経て、1999年はいきなり橋本vs小川の「1・4事変」、馬場死去、前田vsカレリン→前田引退、2000年には船木vsヒクソン→船木引退……まさに、めまぐるしい動きでした。
そして2001年、ミスター高橋の問題の本『流血の魔術 最強の演技――すべてのプロレスはショーである』が出版されます。プロレス史に残る大事件となった同書の出版もこの時期でした。本書を読んで意外だったのは、初めてプロレスの真実をカミングアウトしたとされるミスター高橋本の前にも、プロレスの仕組みや内幕を告白した本は何冊も存在したという事実です。本書には294冊ものプロレス&格闘技本が取り上げられていますが、特にわたしが面白いと感じた部分、著者・吉田豪氏のコメントが秀逸な部分などをご紹介したいと思います。
まずは、1997年に刊行された『検証 新日本プロレスVS全日本プロレス・仁義なき25年抗争の真実』竹内宏介監修(日本スポーツ出版社)から。同書では、プロレス専門誌「ゴング」が日本プロレス界の両雄であるジャイアント馬場とアントニオ猪木の対戦を煽りまくり、「馬場さんがショーマン・スタイル? 冗談じゃないですよ……あれはショー以前のコミックです」(昭和50年・猪木談)を持ち出し、昭和54年のオールスター戦で猪木とタッグを組んだ後の「8・26で馬場―猪木戦をやったらと言われた時は、やれば喧嘩……つまりスポーツではなく殺し合いにさえなりかねない雰囲気があった」(昭和55年・馬場談)というコメントを紹介。
この物騒なコメントを紹介した同書について、吉田氏は「なんとビックリ。フレッド・アトキンスにセメントを習い、地下秘密練習場で密かなるトレーニングに励んできた馬場が、下手すればキラー猪木と殺し合うところだったわけなのだ! とまあ興味深い発言も多い貴重な一冊だが、個人的には猪木が『前座試合もメインイベントも区別がなくなってしまったのは、いまのプロレス界の悲しい現実だ』などと昭和48年の時点で言い出していたのも非常に衝撃的であった」と述べています。たしかに驚きですね。
プロレスに次いで、よく取り上げられているジャンルが空手。それも、もちろん極真空手です。本書は、『「空手バカ一代」の研究』木村修著(アスペクト)を取り上げます。一条真也の読書館『吉田豪の空手☆バカー代』で紹介した名著ぼ著者でもある吉田氏は「これはいつかキッチリ言わなければいけないと思ってあのだが、実は『空手バカ一代』って名作扱いれがちだけど、それほど面白くない。ノンフィクションしては嘘がすぎるし、フィクションしてはスケールが小さい。梶原作品の中では明らかにレベルの低い宣伝色強めな作品あり(特につのだじろう降板後)、研究するほどのものではないと正直ボクは思う」と述べています。
吉田氏によれば、『空手バカ一代』よりも、『カラテ地獄変』シリーズや『人間兇器』などの「人間の性、悪なり」な暗黒空手漫画や、『ケンカの聖書』『花も嵐も』『虹をよぶ拳』『空手戦争』『英雄失格』などの極真をモデルにしながらも名前を変えて登場させた作品のほうが傑作で、破壊力やファンタジーが倍増するといいます。マス大山の人間的な魅力や圧倒的な強さが伝わるのも『空手バカ一代』ではなく、彼をモデルした大東徹源や大元烈山が登場るそれらの作品のほうだというのですが、わたしも同感ですね。ちなみに、暗黒空手漫画は梶原一騎ではなく弟の真樹日佐夫が原作を書いていたようですね。
1999年に刊行された『不滅の闘魂』アントニオ猪木著(海鳥社)の書評では、吉田氏は「ボクは常々『猪木本に外れなし』だと口を酸っぱくして主張しているのだが、『スポニチ』連載の猪木コラムをただまとめただけのこの本もまた案の定、期待通りの出来であった。ましてや、あの1・4橋本vs小川戦を終えたいまになってあらためて読み返したら、いろいろと考えさせられた次第なのである。そもそも、UFOとは最初から『プロレスラー時代に、わたしがやろうとして途中で挫折してきたものや、いろいろな障害によって邪魔されてきたもの……、さらに現役時代では実現不可能だったものに、果敢に挑戦していくつもり』とのことでスタートさせたのだという。つまり、猪木は邪魔さえなければ橋本vs小川戦みたいなことを当たり前のように繰り返すつもりだったのだろう、きっと」と述べています。まことに怖ろしい話ではありますが、そんな新日を見たかったような気もしますね。
『ジャンボ鶴田 第二のゴング』黒瀬悦成著(朝日ソノラマ)の書評では、「元気が売り物」だった猪木とは対照的に、鶴田は「呑気が売り物」だったなどと言いながらも、鶴田の「プロレスはね、力と力の本気のぶつかり合いの部分と、ショー的な部分の線引きがね、はっきり出来ないと、つまりどこまでが演技でどこまでが勝負なのか線を引けるところがないと、学問的に言ってスポーツとして認知できないんですよね」という発言を紹介し、彼が最高に強くてショーアップされたプロレスを目指したことを指摘します。さらには、「鶴田の構想では、プロレスの1日の試合を3部構成にする。第1部は、古代ギリシャのレスリングの型を儀式的に披露する。第2部は、楽しさを全面に押し出したエンターテインメント・レスリング。そして最後に本格的な格闘技の試合を持ってくる」と紹介し、吉田氏は「これが鶴田にとっての理想の全日だとしたら、もし鶴田が実権を握っていたら想像を絶する世界が実現していたこと確実なのだ」と述べるのでした。見たかった!
2000年に刊行された『真剣勝負』前田日明、福田和也著(草思社)では、保守論客として知られる福田氏がプロレスを「ある種の予定調和のストーリーが成立する格闘技」、リングスを「リアルファイトの世界」と定義しているのですが、前田は「プロレスというものは、純粋にスポーツとして見ようとしたら、勝ち負けではなくて、試合のイニシアチブの取り合いを楽しむものだと思うんです。ロープに投げ飛ばしたら返ってくる。相手との絡みのなかで技を仕掛ける。受ける。反撃する。こうしたやりとりは、一応、各自が瞬時に選びながらやってるんです。新日本プロレスの全盛時代というのは、そのときの前座はみんなそうだったんですよ」と語っています。
また、前田は「イニシアチブを取り合うゲームという感覚でやると、あれほどいいスポーツはないですよ。充実感もあります。それにちゃんとイニシアチブをとれれば、自然な形で相手が思うように動いてくれるんです。でも、いまのプロレスは、そういう動きのなかで何か決め事をつくったりとかして、選択の幅を狭めている」とも語っています。この前田発言について、吉田氏は「これはいわば前田版『ケーフェイ』宣言のようでありながら、不思議とプロレス愛を感じさせる発言だと思う。つくづくUWFとはプロレスの原点回帰運動だと痛感させられる次第なのだ」と述べていますが、この前田発言はわたしも知りませんでした。これほどプロレスを肯定的にとらえた発言を他に知りません。前田と藤波の名勝負を思い出しました。
『RIKI力道山、世界を相手にビジネスした男』東急エージェンシー力道山研究班・編(東急エージェンシー出版部)は、赤坂台町のリキ・マンションから発掘された貴重な8ミリ映像をもとに生まれた一冊だそうですが、吉田氏は「『寂しがり屋で短気で猜疑心も強い』し『トイレに入るときもドアは開けっ放し』というタチの悪い私生活と、『本気で闘っていた』ため『マムシの生き血や興奮剤を飲んで試合に挑む』というタチの悪いプロレスを続けていた力道山先生。その姿勢は、鉄人ルー・テーズに『リキはリング上で決してギミックを使おうとしなかった。なぜなら必要がなかったからだ。リキのプロレス観とは、ただリングに上がり、そして勝つことにあった』と証言されるほどのガチンコ野郎ぶりながら、なぜかリング外ではプロレス的なギミックを使いまくっていた様子なのであった」と述べています。力道山の本質を衝いてますね。
また、吉田氏は「つまり、『日本一のゴルフ場を作れ!』などとどんなビジネスでもプロレスラーらしく力尽くで日本一の座に立とうとしたため、業者たちは『注文主は尋常な人間ではないから、予定通りできなかれば殺される』と本気で脅えたのだそうである。まあ、確かにリキ・トルコ(いわゆるソープランドではなくサウナ風呂)建設中、工事の進行状況を見に行けば『こんな手抜き工事をやりやがってッ!』と激怒して、ほぼ完成した客室を次々と破壊して警察に連行されたりするんだから、それも非常に無理はない話ではあるんだが」と述べるのでした。いやあ、最高ですね。それにしても、わたしの古巣の東急エージェンシーがこんな本を出していたとは知りませんでした。いったい、力道山研究班って何だったのでしょうね?
『船出――三沢光晴自伝』三沢光晴著(光文社)では、同じ高校のレスリング部の後輩ながら仲が良くなかったという川田利明について、三沢が「小橋にはどんな技でお思い切りできるんだけど、川田は受けが上手い方じゃないんで、考えながらやらなきゃいけない。結局、打撃系なら思い切りやってもそれほどの怪我はしないだろうと、そうなっちゃう。だから、いがに川田との試合は非情に見えるんですよね。それは俺が川田を信用していないから。そうなるんですよ」と語っています。これについて、吉田氏は「信用がないからこそ名勝負が誕生する! 日本流の純プロレスがエンターテインメントや格闘技に勝てるのは、こういう生々しい部分しかないとボクは心から確信した次第なのである」と述べるのでした。確かに、そうですね。
2001年に刊行された『魂のラリアット』スタン・ハンセン著(双葉社)は、吉田氏によれば、ハンセンの日本人選手の強さに対する記述が非常に興味深いとのこと。ハンセンが猪木を「”強い!”と思ったことは一度もないが、とにかく試合運びが巧妙で、終わってみたらピンフォールを奪われている」と述べたかと思えば、「これに対して、常に”強い”という印象を持ったのは坂口だ」「試合がおわってホテルへ戻ったあと、肉体的な強さ、疲れを感じたことはシリーズで2度、3度あったが、その夜の相手は決まって坂口だった」と述べます。吉田氏は、「いまも最強論が囁かれているビッグ・サカを大絶賛!」と大喜びし、「新日では坂口、全日では『鶴田との試合は疲れる。足が地に張り付いたようで、持ち上げるのに一苦労だ。その点、馬場が相手だと楽だ』(ブロディ・談)とのことで、鶴田最強論をブチ上げてみせるのだった。それにはボクも同感である」と述べるのでした。もちろん、わたしも同感です!
『野獣降臨』藤田和之・述、”show”大谷泰顕・監修(メディアワークス)では、藤田がケン・シャムロックと戦った試合に対して猪木が「一番危ない試合だった」とコメントしたことに対し、藤田は「猪木さんはもう『やる側』じゃないでしょ? だったらお前がやってみろって! って」と言い放ったことについて、吉田氏は「この怖い者知らずな姿勢は、まさにリアル・ノー・フィア―! 当然、ケロちゃん本でも暴露されていたように、藤田はたとえ現場監督の長州相手であろうともまったく動じないわけなのである。藤田は、「合同練習があったんですけど、その日の朝に帰ってきて、『いいや今日は』って言って寝てたら(長州に)起こされたんですよ。『何やってんだ、お前!』って。『だって今日は練習できない』って言ったら殴られました(苦笑)」と述べています。
また、「(長州が)『座れ』って言うんで『なんで座んなくちゃいけないのかなあ』と思いながらイスに座ったら、『何やってんだお前、下だーッ!』って。で、(アグラかいて)座ったら、『バカッ、正座だーッ!』って。俺、頭痛くなっちゃった(笑)」とも述べています。この藤田発言について、吉田氏は「これならマーク・ケアーを前にして、まったくビビらなかったのも当たり前。結局、藤田の強さの秘訣とは決して相手の幻想に呑み込まれることのない桁外れの『ふてぶてしさ』にあったはずなのだ」と述べるのでした。藤田がケアーを破った試合はわたしも会場で観戦しましたが、「霊長類最強の男」を猪木門下の新人プロレスラーが撃破したので狂喜したのを記憶しています。
『人間爆弾発言』山本小鉄著(勁文社)の書評では、吉田氏が「相変わらず小鉄が『どこかの団体に卵の白身ばっかり食べてる奴らがいるけど、俺から言わせれば黄身だって大切だよ!』『パンクラスのスタイルというのは、プロレスの進化じゃなくて退化なんだ』などとパンクラスに噛み付いたり、『ジョージも俊二もアホだ。頭、使わないもん。人としての完成がまともじゃなかったんだ』『俊二は俊二で、こいつも人でなしなんだ』などと『高野のバカ兄弟』に噛み付いたりとピンポイントで攻撃していくから、思わずこっちが『ちょっと待って下さい』と言いたくなるほどなのであった」と述べています。
続けて、吉田氏は「しかも今回は『坂口もどっちかって言ったら練習しない方だった』『一番練習が嫌いだったのが木村健吾』と、タブーというべき内部告発までスタート」と書いています。同書で小鉄が語った「橋本と小川の第3戦目の、いったい何処が異常事態なの!? 小川が橋本に馬乗りになって顔面にパンチを浴びせるけど、そんなものプロレスなんだから当たり前のこと」「ゴッチとヒクソンが試合をしたらどうなるか? 話にならない。ゴッチが圧勝する」「もし現役バリバリの俺がプライドのリングに上げられたら暴れちゃう、暴れちゃうよ。暴れて絶対マイッタしない」という発言には拍手喝采!
『船木誠勝リアル護身術』船木誠勝・監修・実演(大泉書店)の書評では、吉田氏が「『もし仮にケンカになったら相手を殺してしまう可能性もあるので、ケンカになりそうな状況は避けて生きてきました』そう言った舌の根も乾かないうちに、『目潰しは思いっきりえぐること』『相手の股間を踏みつける』『顔面踏みつけ』『顔面を狙ってのつま先蹴り』といったエゲツない急所攻撃や、『金的を摑んだら引きちぎるくらいの気持ちでねじり上げることがポイントです』なんて物騒なアドバイスを淡々と読者に叩き込んでいくから、つくづく船木恐るべし! タックルへの対処法として『膝蹴りがポジション的に難しい場合は目潰し』『思いっきり耳に噛み付く』とアドバイスしたり、噛み付きから急所蹴りへ繋ぐ極悪なコンビネーションも教えたりと、ここは明らかに護身というには過剰防衛なスキルばかり詰め込まれているわけなのである。まさに喧嘩芸!」と書いており、爆笑しました。この本、読みたい!
『すべてが本音。』秋山準(アミューズブックス)の書評では、吉田氏は「いろんな意味で平成新日の選手よりよっぽど新日らしい秋山ではあるが、格闘技方面のことを聞かれればすかさず『プロレスをキング・オブ・スポーツと呼んだのはぼくじゃないから、そう呼んだ人が自分で刈り取ればいいんじゃないかな』と新日に責任を押し付けたりするタチの悪さもやっぱり新日らしくて、シビレる限りなのであった。プロレスに対する姿勢にしても、『自分から掟は破りませんよ。でも相手がそのつもりなら、こっちだって目の中に指突っ込んだっていいんだから、いつもそれぐらいの覚悟は決めて試合やっていますからね』という物騒な代物(三沢イズム)だったりするから、秋山には絶対に乗れるはずなのだ。プロレスラーはこうじゃなきゃいけねえんです!」と述べます。これを読んで、秋山準を見直しました。これぞ漢です!
『マッキーに訊け!――真樹日佐夫のダンディズム人生相談』真樹日佐夫著(ぴいぷる社)では、吉田氏は「(俺も)青酸カリをひとビン抱えて、『貯水池に叩き込んでやる』と山を彷徨したこともあるくらいだからなあ(笑)。それを考えるとバスジャックなんて可愛いもんだよ」という真樹の発言に対して、著者が「なんと真樹先生が少年時代に無差別殺人を計画していたことが、いきなり発覚!」と動揺し、「さらには、『日本プロレス市場、セメント最強の男は誰だと思われますか?』と聞かれれば、思いっ切り意外なことを即答していくから本当に衝撃的すぎなのである」と述べています。素敵すぎる質問ですね。
その真樹の衝撃的な回答とは、「豊登じゃねぇかなぁ。力道山は生前、『いちばん強いのはトヨだ』と言っていたというしな。豊登というのはちょっと桁違いだったんじゃないか? 現役時代に会ったこともあるけど、なんというかオーラが感じられたね。セメントで強いヤツというのはもう技術じゃなくて、腕相撲が強い奴だよ」というものでした。確かに、これは衝撃的です。若き日の猪木をスカウトして東京プロレスを立ち上げた豊登が最強? 希代のギャンブラーだったというし、豊登の幻想が膨らんでしまいますね。誰か、豊登の伝記を書いてくれないでしょうか?
2002年に刊行された『MUTO 野心90%』武藤敬司著(アミューズブックス)の書評では、吉田氏は「どうにも地味なタイトルだって、なんと全日移籍の真相が『マスコミにはあれやこれやきれいごとを言ってるけれども、正直言って90パーセントは野心だよ(笑)』という意味だったりで、とにかく『要は俺、成り上がりたいんだ(笑)』『いつかは……オーナーの座を目指したいよね(笑)』なんて野望すらも隠すことなく、馬鹿正直に告白していく武藤、最高!」と書いています。
また同書で、武藤は「新日本は余程、俺のことをプッシュしなかったんだなあ、なんて感じたりするね。闘魂三銃士の時代というのは、スターが3人いるという複数制だった。要は出過ぎる杭は程よく打たれていたんだよね。それはただの結果論かもしれないけど、出る杭を打っていたのは、もしかしたら長州さんが現場監督を務めていた時代の”実害”のような気もするんだよ(笑)」などと、堂々の長州批判も展開しています。
さらに武藤は、「結局、新日本の悪しき伝統というのは先輩のレスラーが自分より強いレスラーを作らないで現役を退いていく、ということだったんだな。猪木さんしかり、長州さんしかりでね。それだけは俺の代で終わりにしたいね」とも述べています。でも、最近の武藤は猪木のプロレスデビュー60周年を祝うイベントを開催したり、長州と仲良くYouTubeでリモート飲み会を開いたりしています。チャッカリしているというより、結局、新日本プロレスで同じ釜の飯を食った者同士の絆というものがあるのでしょうね。この2人以外にも、猪木をはじめ、藤波、前田、船木、蝶野といった新日黄金期を彩ったプロレスラーたちはイベントや動画などで盛んに交流していますね。髙田延彦以外は……。
『「髙田延彦」のカタチ』東邦出版・編(東邦出版)は、芸能界から格闘技界まで各界の有名人が髙田について語る本で、吉田氏の天敵ともいえる”show”大谷泰顕氏がプロデュースしています。同書の中では髙田夫人である向井亜紀さんの手記が絶品だとして、吉田氏は「Uインター時代、『給料が6ヵ月連続で出なかったり、信頼していたマネージャーに大切なお金を持ち逃げされたり、さまざまなお金のドロドロに巻き込まれていく姿は本当に痛々しかった』という、よりにもよってそんな時期に結婚してしまった彼女」と述べています。
向井亜紀さんは、「結婚式のときも先立つ物がなく、婚約指輪もないし、ウエディングドレスも貸衣装でした。打掛を借りる余裕などなく、お色直しの赤いドレスは親しい友人が5万円で作ってくれたものでした。そんな結婚式でしたが、皆さん喜んで来てくださって、ホテルの方に、『うちの宴会場始まって以来のアルコール量が出ました!』『足りなくなって慌てて焼酎を買いに行きました』と言われるぐらい盛り上がりました」とも語っています。しかし、髙田道場を作ってからも「家を売り、車を売り、道場の規模を縮小しつつ、髙田の携帯は度々止められました」というくらい困っていたのに、鈴木健が焼き鳥屋を開店したときに訪れた髙田は20万円の御祝儀を置いていったとか。髙田も、根は「後輩思いの兄貴」なのでしょうね。
結婚式といえば、2003年に刊行された『夫・力道山の慟哭』田中敬子著(双葉社)にも結婚式のエピソードが登場します。吉田氏は、「引出物が足りなくなるぐらい大規模な結婚式をやったのも『俺にとって結婚式は興行と同じなんだ』という考えの上であり、『ヨーロッパからアメリカを回り最後にハワイに寄って静養し帰国する約1ヵ月弱』の新婚旅行を敢行したのも、やっぱり興行みたいなものとして捉えていたのが原因だったから、もう完璧すぎ」と述べています。また、「結婚式もそうですが、新婚旅行も当時では考えられないようスケールの大きさですべてがビッグ。力道山の頭の中には興行と同じで、常にファンに夢を与え続けなくてはならない義務感みたいなものもあったのでしょうね」という敬子夫人の言葉を受けて、「もはや力道山にとっては、自分の行動すべてが興行みたいなものだったのかもしれない。とことんまでプロだよなあ」と述べています。本当に、スケールが大きい!
力道山の弟子であった猪木は、女優の倍賞美津子さんと結婚し、超豪華な結婚披露宴を挙げました。当時、「1億円結婚式」と騒がれたものですが、猪木は力道山の真の後継者であることを証明したと思います。その点、猪木の弟子であった髙田は豪華な結婚式が挙げれなかったことは残念ですが、向井亜紀さんという素晴らしい女性と結婚でき、今も結婚生活が続いているのは素晴らしいことだと思います。じつは、わたしは向井亜紀さんに会ったことがあります。テレビ朝日の「プレステージ」という番組の企画コンペ特集にわたしがゲスト審査員として出演したときですが、レギュラー出演者の向井さんが話しかけてくれて、いろいろと親切に番組のことを教えてくれました。とても知的な印象で素敵な女性で、ファンになりました。
ということで、本書『書評の星座 紙プロ編』は前作に続いて非常に興味深い内容でした。長州力がターザン山本に「山本、Uはお前だ!」と言ったことをターザンが大喜びしたことについて、UをYOUにかけた単なるダジャレであり、「YOUはお前という意味だ!」でしかないという吉田氏の推測も最高でした。相変わらずの洞察力とパンチの効いたコメント力にはシビレますが、何よりも驚いたのはプロレス&格闘技本の書評集の第二弾が出版され、しかも576ページもの大冊であったことです。余程、第一弾である『書評の星座』が売れたのでしょうね!
「一条真也の読書館」の「プロレス・格闘技・武道」
一条真也の読書館『男の星座』の最後にも書きましたが、じつは、」わたしは読んだ格闘技やプロレスの本をブログで取り上げた後、書評サイトである「一条真也の読書館」の「プロレス・格闘技・武道」のコーナーに保存しています。現時点ですでに139冊をカウントしています。これらをまとめて『闘うブックガイド』という本を上梓するのが夢であります。でも、「格闘技・プロレス関連書の紹介本なんて需要もないし、誰も読まないだろうなあ」と諦めていたところ、前作『書評の星座』が出版され、大いに驚きました。1人の読者として「こんな本を待っていた!」と非常に嬉しく思うとともに、1人の作家としては「自分もこんな本を出したい!」という強烈なジェラシーを感じてしまいます。このブログを読んだ出版関係者の方がおられましたら、『闘うブックガイド』の出版を御検討いただきますよう、何卒よろしくお願いいたします!