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No.0012 民俗学・人類学 『金枝篇』 サー・ジェームズ・ジョージ・フレイザー著(東京書籍)
2010.03.07
本書『金枝篇』は、民俗学・神話学・宗教学の基本書で、著者は、イギリスの社会人類学者サー・ジェームズ・ジョージ・フレイザーです。
フレイザーは、「文化人類学の父」と呼ばれたエドワード・タイラーの著作に影響を受け、宗教学・民俗学・神話学を研究するようになりました。
その成果が『金枝篇』です。未開社会の神話・呪術・信仰についての集成的研究書ですが、完成までになんと40年以上かかっています。まさに、ライフワークですね。
『金枝篇』には、ヨーロッパをはじめ、アメリカ、アフリカ、アジアなど世界各地における呪術や慣習などがたくさん取り上げられています。特に、未開社会における精霊信仰、「王殺し」の風習、類感呪術や感染呪術などを研究し、紹介した功績は大きいといえるでしょう。
フレイザーは、史料、古典記録、あるいは口伝から夥しい例収集したわけですが、その博識ぶりは感動的ですらあります。呪術の誕生、そして呪術から宗教へという展開がとてもスリリングです。
もともと岩波文庫版の『金枝篇』全5巻(永橋卓介訳)を読んでいましたが、最近では『図説 金枝篇』内田昭一郎・吉岡晶子訳(東京書籍)を愛読しています。内容は要約版ではあるものの、珍しい写真や図版が170点以上も掲載されています。
呪術と宗教の謎をさぐる
ロンドンのユニバーシティ・カレッジの文化人類学の教授メアリー・ダグラスが監修していますが、ダグラスは序文の冒頭に次のように書いています。
「死者の霊とか人身御供といったものは、現代文化ではとりたてて重大な問題とはならない。悪魔崇拝や人食いの風習(カニバリズム)も同様である。今日、血塗られた偶像が登場するとすれば、SF映画やホラー映画くらいなものだ。そうしたおどろおどろしい物語の結末では、何が祭司やその狂信的な信者を残虐な行為に走らせたのか、まったく説明されない。せいぜい、幻想的な雰囲気を醸し出し、この世で魔力が自在に動きまわっていることをほのめかすか、あるいはーーもっと平凡な描き方としてはーーそうした残虐な行為に走った人々に危険な狂信者というレッテルを貼るくらいである。だが、今では娯楽映画の主題となってしまったこのテーマも、百年前には、知的な関心をよび、学者たちがそれをめぐって真剣に考えたのである。」
本当に、呪術と宗教の発生をめぐる知的冒険ほど面白いものはありませんね。
そして、わたしが深い関心を抱いているテーマが「雨乞い」です。「雨乞い」と「葬儀」は人間にとって根本的に不可欠な行為であると思います。また、「葬儀」の謎をとくためには、まずは「雨乞い」について知る必要があります。
フレイザーは次のように書いています。
「呪術師が部族のために公に率先して行うことで、最も重要なものは天候の支配、とりわけ適度の降雨を保証することだ。水は生命になにより欠かせないものであり、大多数の国では、水の供給は降雨に頼っている。雨が降らなければ、植物は枯れてしまい、動物や人間は弱って死んでしまう。そこで未開社会では、雨乞い師(レイン・メーカー)がきわめて重要な存在となる。」
人間が生きるために始めた雨乞いという営み。同じように葬儀も人間が生きるための営みではないのか。雨乞いも葬儀も、ともに天と地をつなぐ「ワザ」なのだと思います。
わたしは、これからも雨乞いについて考え続けるつもりです。『金枝篇』は国書刊行会から完訳版が出ているそうなので、今度ぜひ読んでみたいと思います。