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No.2436 SF・ミステリー | ホラー・ファンタジー 『変な地図』 雨穴著(双葉社)
2026.01.06
『変な地図』雨穴著(双葉社)を読みました。
今年初めて読んだ小説ですが、非常に面白かったです。一条真也の読書館『変な家』、『変な絵』で紹介した本の著者による最新作です。この本、全部で416ページありますが、あまりの面白さに3時間ぐらいで一気読みしました。
本書の帯
本書の帯には踊る著者のイラストとともに、「雨穴最新作」と大書されています。また、「第1位 読書メーター 読みたい本ランキング 週刊(9/16~22)」「主人公は栗原!!」「あなたには、この古地図の『謎』が、解けますか?」「7つの妖怪が導く、マップ・ミステリー」「特大考察マップ付いています。」と書かれています。
本書の帯の裏
また帯の裏には、「妖怪」「冒険」「青年栗原」「不可解な鉄道」「人身事故」「私はすっかり騙されていた」「下部が破損した手すり」「古地図」「山に潜む殺意」「理屈屋のボーイミーツガール」「廃集落調査」「破壊された三角点」「母方の祖母」「未完の手記」「雨穴がおくる異形の王道小説」と書かれています。
本書に登場する古地図(アマゾンより)
カバー前そでには、「この古地図、何かがおかしい? 謎の死を遂げた祖母、海沿いの廃集落、不可解なトンネル事故……やがて浮かび上がる『7体の妖怪』の秘密とは!? “変な家”の栗原が青年時代に遭遇したかつてないマップ・ミステリー開幕!!」と書かれています。
アマゾンの内容紹介には、「主人公はあの栗原さん!!」「『変な家』『変な絵』に続く、雨穴「変な」シリーズの集大成!」「2015年、大学生の栗原は、意外な事実を知る。 彼の祖母が、正体不明の古地図を握りしめて、不審死を遂げたという。 その古地図には、7体の妖怪が描かれていた。 これはいったい何なのか。なぜ、祖母は死に際にこんなものを持っていたのか。 謎を探るため、栗原は旅に出る。 そこに待ち受けていたのは、海沿いの廃集落、不可解な人身事故、潰れかけの民宿、因縁に満ちたトンネル、そして古地図に秘められた悲しい事実だった――。祖母はなぜ死んだのか? 妖怪の正体は? ホラー、ミステリー、サスペンス、冒険、青春、恋愛……2024年書籍売り上げ1位! 雨穴が送る異形の王道小説。あなたには、この『古地図』の謎が解けますか?」と書かれています。
著者はホラーな作風を得意とするウェブライター・覆面作家です。YouTuberとしても活動中で、登録者数は176万人を超え、YouTubeの総動画再生回数も2億回を突破。白い仮面と黒い全身タイツが特徴的。デビュー作『変な家』シリーズ(飛鳥新社)に続き、『変な絵』(双葉社)はコミックス化もされ、累計200万部の世界的なミリオンセラー作品となっています。その人気は海を越え、アメリカや中国、フランスなど、36の国と地域での翻訳出版が決まっているそうです。
この小説には、戦前の鉄道建設のエピソードが登場します。漁師をしていた男たちが駆り出されて、鉄道の線路づくりに従事するのですが、慣れない仕事かつ重労働で疲弊します。そして、彼らには悲惨な運命が待っていました。わたしは、 一条真也の映画館「トレイン・ドリームズ」で紹介した2025年に作られたNETFLIXのアメリカ映画を連想しました。デニス・ジョンソンによる小説を原作に、20世紀初頭のアメリカで森林伐採に従事する鉄道労働者の人生を描いた人間ドラマです。子どものころに両親を亡くした主人公ロバート・グレイニア(ジョエル・エドガートン)は、鉄道建設のために森の木を伐採する仕事に従事していました。やがて愛する妻と娘を得たグレイニアでしたが、これ以上ない悲劇に見舞われるのでした。極限のグリーフを描いた傑作です。
『変な地図』はミステリー作品としても優れていますが、グリーフケア小説としても読めました。主人公の栗原は幼いときに母親を亡くしていますが、彼が出会った帆石水あかりという女性警官は栗原によく似た弟を亡くしていました。栗原には父と妹がいます。あかりには両親がいます。栗原の父にとっては妻との、妹にとっては母との死別というグリーフがあるわけです。同様に、あかりの両親にとっては息子との死別というグリーフがあります。そのグリーフが交差するところは劇的でした。栗原は自身のグリーフを認めようとせず、理屈で自己を武装しますが、最後には素直に母親が亡くなった悲嘆を思い起して泣く場面がありました。感動的でした。
前作『変な絵』もグリーフケア小説でした。たとえば、鬱になった父親が自死した娘が登場するのですが、「父の死後、母は変わってしまった。(中略)食事は毎日缶詰ばかり。掃除や洗濯をすることもなくなり、家はたちまちゴミだらけになった。父の死因が、いっそう状況を悪くしたのだろう。たとえば病死や事故死ならば、周囲から同情を得られたかもしれない。慰めの言葉や、多少の支援はあったはずだ。しかし……」と書かれています。残された母親は「なんでご主人自殺しちゃったのかしら……」「もしかして、女房が不倫してたんじゃねーのか?」「たしかに、あの顔はやりそうよね」「娘だって本当に旦那の子供か怪しいもんだぜ」などの近所の人々に声に精神を病んでいきます。
『愛する人を亡くした人へ』 (PHP文庫)
『変な絵』や『変な地図』には、他にもさまざまなグリーフが描かれていました。小説や映画やアニメやコミックをはじめ、「すべての物語にはグリーフケアの要素がある」というのはわが持論ですが、特に殺人が登場する物語は、殺された人間の家族や恋人や知人や友人たちの悲嘆と癒しがテーマになることが多く、グリーフケアの物語になりえます。拙著『愛する人を亡くした人へ』(PHP文庫)の中で、わたしは「親を亡くした人は、過去を失う。配偶者を亡くした人は、現在を失う。子を亡くした人は、未来を失う。恋人・友人・知人を亡くした人は、自分の一部を失う」と書きましたが、雨穴の異形の小説の中にはまさに「自分の一部」を失った人々が何人も登場します。グリーフケアはカタルシスにも通じると考えているのですが、読者を欺き、騙し、それぞれの点が最後に線となって繋がる本書の結末を読んだとき、わたしは大いなるカタルシスを得ることができました。