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No.2437 ホラー・ファンタジー 『近畿地方のある場所について』 背筋著(KADOKAWA)
2026.01.07
ここ数年、以前ほど小説を読んでいません。フィクションを楽しむなら「小説より映画」といった感じで、昨年は200本以上の映画を観ました。でも、一条真也の読書館『変な地図』で紹介した雨穴の最新作を読んでから「やっぱり小説は面白いなあ!」と思いました。じつは昨年も何冊かは小説、それもホラー小説を読んだのですが、感想をブログにUPし損ねてしまいました。そこで遅ればせながら、備忘録としてここにUPいたします。まずは『近畿地方のある場所について』背筋著(KADOKAWA)からです。既視感のあるエピソードを集めた印象はありますが、怖くて面白い物語でした。
本書の帯
本書のカバーには山に囲まれた湖の写真が使われ、帯には「見つけてくださってありがとうございます。」とだけ書かれています。わたしは2024年2月10日刊行の7刷の単行本を持っているのですが、帯の裏には「10万部広まりました。」として、「はじめまして。背筋と申します。この本に収録されている様々な形式の文章は、オカルト雑誌に掲載する特集のために、ライターの私と、編集者で友人でもある小沢くんの手によって収集されたものです。それらは、近畿地方の『ある場所』に関連した文章です。私たちは、『ある場所』に潜む怪異の存在に気づきました。そして、調べを進める中で小沢くんが消息を絶ってしまいました。私は彼を捜しています。どうか皆さんこの本をお読みいただき、情報をお持ちの方はご連絡ください」とあります。
本書の帯の裏
『近畿地方のある場所について』は、背筋によるホラー小説、モキュメンタリーです。消息を絶った友人を探すため情報を求める「私」の語りと、雑誌を中心とした様々なメディアから抜粋された近畿地方の「ある場所」に関する文章を、『近畿地方のある場所について』というタイトルの作品としてまとめた体裁を取っています。
2023年に小説投稿サイト「カクヨム」に投稿された作品で、2023年1月28日に第1話が、同年4月二〇日に第34話(最終話)が投稿。単行本は同年8月30日にKADOKAWAより出版。その後、単行本と内容が異なる『文庫版 近畿地方のある場所について』が2025年7月25日に角川文庫より刊行されました。文庫版のアマゾン内容紹介には、「”新しい”情報をお持ちの方はご連絡ください。私、小澤雄也は本書の編集を手掛けた人間だ。収録されているテキストは、様々な媒体から抜粋したものであり、その全てが『近畿地方のある場所』に関連している。なぜこのようなものを発表するに至ったのか。その背景には、私の極私的な事情が絡んでいる。それをどうかあなたに語らせてほしい。私はある人物を探している。その人物についての情報をお持ちの方はご連絡をいただけないだろうか」と書かれています。
一条真也の映画館「近畿地方のある場所について」で紹介したように、小説『近畿地方のある場所について』は映画化され、2025年8月8日に公開されました。ヤフーの「解説」には、「作家・背筋の小説を実写化したミステリー。行方のわからなくなったオカルト雑誌の編集長を捜索する編集者と記者が、近畿地方のある場所が事件に関わっていることを知る。メガホンを取るのは『サユリ』などの白石晃士。『明日の食卓』などの菅野美穂、『366日』などの赤楚衛二らが出演する」と書かれています。
ヤフーの「あらすじ」は、「幼女の失踪や中学生の集団ヒステリー事件、都市伝説、心霊スポットでの動画配信騒動など、過去の未解決事件や怪現象を調査していたオカルト雑誌の編集長が行方不明になる。彼を捜す編集部員・小沢(赤楚衛二)と記者の千紘(菅野美穂)は、編集長が調査していた事件や現象がすべて近畿地方のある場所につながっていることを知る。その場所へ向かった二人は、そこで思いも寄らぬ事態に見舞われる」となっています。
小説『近畿地方のある場所について』は面白かったですけど、複数のエピソードの合体といった印象で、各エピソードは過去に読んだり聞いたりした経験があるような話もありました。原作者の背筋氏も語っていますが、この作品にはアンソロジー小説のような性格があるのかもしれません。でも、映画版では白石晃士監督が力技でまとまりのあるホラーとしてのストーリーを与えていました。この映画、ネットでの評価は低いのですが、それは短編ホラーを無理やり繋げたようなストーリーに対しての違和感のような気がします。
映画「近畿地方のある場所について」の冒頭は、ビデオなどに録画された映像をたどっていくのですが、基本的にフェイクドキュメンタリーであると思いました。フェイクドキュメンタリーとは、架空の人物や事件といったフィクションを“ドキュメンタリータッチ”で描く映像作品です。「モキュメンタリー」などとも呼ばれます。擬似を意味する「モック」と、「ドキュメンタリー」のかばん語であり、「モックメンタリー」「モック・ドキュメンタリー」ともいいます。フェイクドキュメンタリーのジャンルの起源は明確には分かりませんが、映像作品以前では1938年に放送され、オーソン・ウェルズによる実況中継風の演出が話題となったラジオドラマ「宇宙戦争」が有名です。
映画では、フェイクドキュメンタリーは1950年代に登場していますが、なんといっても魔女伝説を扱った低予算映画「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」(1999年)の存在が大きいです。この映画は興行収入の面で大きな成功を収めました。以来、フェイクドキュメンタリーは、アイデアさえあれば低予算であってもヒットを狙える作品として若手作家の登竜門となりました。「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」以後も、ある家族に起こる怪奇現象を扱った「パラノーマル・アクティビィティ」(2007年)など、多くの作品が制作されています。
日本では、白石晃士監督がフェイクドキュメンタリーの第一人者として知られています。白石監督は1973年生まれ、2005年に「ノロイ」で劇場作品デビュー。以降、フェイクドキュメンタリーの手法を使った作風が評価され、2012年からリリースを開始したオリジナルビデオシリーズ「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」では、ホラー映画ファンを中心に大きく話題を集めました。また、劇場公開監督作としても多くの作品がありますが、わたしは「オカルト」(2008年)、「カルト」(2013年)、韓国との合作「ある優しき殺人者の記録」(2014年)などが傑作であると思っています。本作「近畿地方のある場所について」は、白石監督のデビュー作である「ノロイ」の雰囲気に似ています。
「CINRA」のインタビューでは、「原作は、ネット掲示板の書き込みや雑誌記事、インタビューの録音データなど、さまざまな媒体に掲載された文章が集積した物語になっており、映像化が難しい作品だと思います。映画化するにあたり、原作のどんな部分を大事にしたいと思いましたか?」との質問に対して、白石監督は「どんなスタイルにするか脚本家やプロデューサーとも話し合ったんですが、全体をフェイクドキュメンタリーのようにする案もあれば、劇映画のドラマにする案もありました。原作にあった生っぽいドキュメント感をなくしたくなかったので、全体は劇映画として菅野美穂さんと赤楚衛二さん演じる2人の主要キャラクターに物語を引っ張ってもらいながら、ドキュメント性を持ったPOV(カメラの視線と登場人物の視線が一致した撮影手法)を取り入れていくことで、フェイクドキュメンタリーと劇映画を両立させようと思いました」と答えています。
この「近畿地方のある場所について」という小説あるいは映画で特筆すべきは、グリーフケアが持つ危険性を描いている点です。この映画には、ある宗教団体が登場します。あまり詳しく書くとネタバレになってしまいますが、かつて映画の主要な登場人物がその団体に所属していました。愛する人を亡くした人たちが集ったその団体は、集団で狂ったように踊る「あまのいわとや」という名のカルト教団でした。死別の悲嘆の淵にある人々は最も「こころ」が弱っている人々です。そういった人々に忍び寄るカルト宗教は多いです。それを防ぐためにもグリーフケアというものがあるわけですが、気をつけなければいけないのはグリーフケアには、ケアを行う者が悲嘆者の「こころ」を操ることができる危険性を孕んでいるということです。そのため、わたしが理事長を務める一般財団法人 冠婚葬祭文化振興財団では「グリーフケア資格認定制度」を運営していますが、最近、倫理綱領や倫理規定を設けました。
映画「近畿地方のある場所について」の最後は、神社というか、鳥居や祠のある場所でとんでもない怪異が起こります。それを見て、一条真也の映画館「男神」で紹介した2025年9月19日公開の神道ホラー映画を連想しました。全国各地で母と子の失踪事件が発生していたある日、新興住宅地の建設現場に深い穴が出現します。同じ頃、建設現場で働いている和田(遠藤雄弥)の息子が突然姿を消してしまいます。穴の先には森が広がり、巫女たちが男神を鎮めるための儀式を行っているといいます。息子が穴に迷い込んだと知った和田は、禁忌を破り、息子を助けるために穴に入ることを決意するのでした。この映画「男神」には恥ずかしながら小生も出演しており、予告編にも登場しています。アマゾンプライム・ビデオで鑑賞できますので、未見の方はぜひ!